「ほっ」と。キャンペーン

A Gentleman in Moscow

今回も、表紙がいいな、と思ってあらすじに目もくれず読んだ本。モスクワにやってきた英国貴族の話かな?と勝手な想像をしていたんですけど、まったく違った。あるロシア貴族の30年という月日を描いた、美しい余韻が残る1冊。

b0087556_23090536.png

A Gentleman in Moscow』Amor Towles著、Viking

反体制的な詩を書いたとして有罪になったアレクサンドル・ロストフ伯爵は、1922年、モスクワ中心部に位置する高級ホテル、メトロポールに軟禁される。彼がそこで過ごしたおよそ30年間の物語。

メトロポールはクレムリンから目と鼻の先にある実在の高級ホテル。そのスイートルームにひっそり滞在していた伯爵は、革命的な詩を書いたかどでボルシェビキ政府から軟禁を命じられ、ホテルの屋根裏部屋に追いやられてそこで暮らすことになってしまう。ホテルから一歩でも外に出たら、射殺すると言い渡されている伯爵だが、いっぽうで貴族であるにもかかわらず、ロシア革命後に処刑もされず、シベリア送りにもならずにすんだのは、その詩のおかげなのだった。

楽天的でウィットに富んだ伯爵は、ホテルの屋根裏で新しい人生をスタートさせる。とはいえ、そんな伯爵もやはり最初は先行きを悲観して自殺を図ろうとするんだけれども、本当に偶然の、ささやかな出来事があって(この場面が好きなので秘密にしておきますが、キーワードは蜂蜜)、伯爵は死ぬのをやめて、ホテルの中でせいいっぱい生きることにするのだった。

生きるにあたっては働かなくてはならない。ということで、伯爵はホテルのレストランでウエイターの仕事をする。スターリンからフルシチョフへと外の世界がめまぐるしく動いていく中、閉ざされたホテルの中の世界では、さまざまな出会いがあり、魅力あふれる大切な人々との間で友情や愛情が育まれていく。やがて明らかになる真実。守らなくてはならない人のために迫られる決断。はたして、伯爵は一体いつまでホテルにいるのか、外へと出ていくチャンスは巡ってくるのでしょうか、というのは読んでのお楽しみ。

そしてラストシーン。時代によってどんなに外側が変化しても、決して変わらない内なるロシアの精神があるとするなら、それを体現していたのが伯爵だったのかもしれないなーとふと思ったりしました。

[PR]
# by rivarisaia | 2017-02-23 23:12 | | Comments(0)

All the Birds in the Sky

表紙がとても気になって読むことにした本。ちょっとシュールで変わった話で、万人受けはしなさそうだけど、私は好き。

b0087556_21114521.png

All the Birds in the Sky』Charlie Jane Anders著、Tor Books

パトリシアは、6才のとき、傷ついた小鳥を助けようとして動物と話せることに気づき、自分にはどうやら魔女の素質があるらしいと知る。

ローレンスは、サイエンス・ギークの天才少年で、家に閉じこもってコンピュータの前で過ごしてばかりいるので、両親から心配されている。

友だちのいないふたりは、あることをきっかけに仲良くなるが、ローレンスがパトリシアの能力を目のあたりにした日から、ふたりの関係はぎくしゃくしはじめる。ローレンスは彼女を避けるようになり、友情にはヒビが入ったまま、ふたりは別々の道を進むことになった。ローレンスはサイエンススクールに進学し、パトリシアは知られざる魔法学校へ。

そして月日は流れ、大人になったふたりはサンフランシスコで偶然再会する。

その頃、あちこちで気候変動による大規模な災害が増加していた。ローレンスは、地球を救うための科学的な解決策を探るべくシンクタンクで働いており、パトリシアは魔女のコミュニティの一員としてひっそりと人助けをしていた。

しかしやがて世界は滅亡へと進みはじめる……

とまあ、こんな調子の話で、こうやってざっと書くと、さして変でもない、よくある話のような気がするけど、このストーリーの枠組みのあちらこちらにヘンテコ要素が挟まれているので、全体的になんとも奇妙な雰囲気を醸し出しているのだった。

たとえば。

小鳥を救うためにパトリシアが向かった、「鳥の議会」が開かれる森の奥の「The Tree」。そこで提示される「Endless Question」。ローレンスが作った「2秒間タイムマシン」。ふたりの命を狙う「名も無き暗殺団」の男。意志を持ち始めるAI。寂れたモールにある秘密の古本屋、魔法の代償……

物語の前半と後半ではトーンもがらりと変わる。ファンタジーっぽい児童書のような、どちらかというとほのぼのしたところの多かった前半とはうって変わって、後半はロマンスもあるけれど、SF、ディストピア、バイオレンスの色合いがより濃くなる。この展開にとまどう人もいそうだし、盛りだくさんなヘンテコ要素にどんな必然性が?と首かしげてしまう人もいそう。この本に向いてる人は、この点を楽しめる人。

パトリシアは自然(ネイチャー)、ローレンスは科学(サイエンス)を象徴していて、自然と科学は対立することも多いけど、互いに協調しないと地球/人類は救えない、というのが全体のテーマ。後半はかなり酷いことがたくさん起こるけれども、希望を感じさせる終わりかた。このあと、世界はどうなったのかなー。

[PR]
# by rivarisaia | 2017-02-16 21:16 | | Comments(0)

ザ・コンサルタント

この映画、大好き!! 先週末に観たんですけどね、折に触れて日々あれこれ思い出して反芻している。みんなも観て!!!

日本のポスターがものすっごくB級感を漂わせてるので、えー面白いのーって気持ちになるのはわかるんですけども。

b0087556_18010150.png

あらすじは、コピーの通り「職業、会計コンサルタント。本業、腕利きの殺し屋」の話です。これ以上は詳しいことは言いたくないので、何も知らないまま、観に行ってほしい。最初よくわからなくても、最後で話はぜんぶつながりますし、いちいち細かい部分で気が利いてるうえに、伏線もばっちり回収。最後のほう畳み掛けるように「うわーそうきたか!」となって、「やられた〜!」っていう終わり方をするので、最高。

会計コンサルタントとしても、殺し屋としても大変優秀な男クリスチャン・ウルフを演じるのはベン・アフレックです。体格がどっしりしてることもあって殺し屋としても安定感バッチリなんですけど、何よりも、もさっとして無表情で不器用そうなところがとてもよかった。ハマリ役だと思う。

クリスチャン・ウルフは、とある企業の財務調査の依頼を受けるのですが、その企業の経理部の女性にアナ・ケンドリック。ベン・アフレックにくらべてちっこい彼女も適役で、おまけに主人公とヒロイン的な女性との間で変にベタベタした余計なロマンスシーンがなくて、絶妙な距離感を保ってた点もポイント高い。

続編できたらいいのにな。

一応、予告編を貼っておきますね。




[PR]
# by rivarisaia | 2017-02-10 18:49 | 映画/洋画 | Comments(2)

沈黙 —サイレンス—

遠藤周作の『沈黙』をスコセッシが映画化すると耳にしてから長らく楽しみにしてたけど、待った甲斐があったとはこのこと。『ディパーテッド』よりも断然こちらのほうが素晴らしいと思ったけど、カトリックの信仰というテーマ的にアカデミー賞は難しいかなという気もするので、ノミネート数少ないのはなんか納得。

2時間40分ですが、長さは感じませんでした。上映時間と拷問描写にひるまず、できれば観たほうがいいですよー。現代の日本でもじゅうぶんあるある、と思い当たるあれやこれやに愕然とするけど……。

b0087556_16100838.png
沈黙 —サイレンス—(Silence)』監督:マーティン・スコセッシ

キリシタン禁制の日本に潜入したポルトガル司祭が、残忍な拷問にかけられ殉教していく日本の信徒らの姿を目にして、「これほど酷いことが起きているのに、神はなぜ、沈黙しているのか?」と苦悩し、ついに……という物語で、「神は決して沈黙しているわけではない」というのが大きなテーマです。

常日頃「日本人は宗教に寛容」という言葉を見聞きするたびに、ちゃんちゃらおかしいと笑っちゃうのですが、経験からいっても寛容なんてことはあまりなくて、はっきりいえば往々にして節操ないし、配慮に欠けてることが多い。

それをそのまま体現したかのような存在が、本作の奉行(イッセー尾形)と通辞(浅野忠信)です。

「ひとこと転ぶといえばよいのだ」「ほんの形だけ踏めばよい。形などどうでもよいことではないか」と、時にへらへらと笑顔で迫ってくる奉行と通辞の姿は、寛大なようでいて実際には非常に酷なことをやっているわけですが、過酷な拷問を目にした私たち観客も、「形だけだから、頼むから踏んでください!」とつい思わされてしまう。

農民を拷問にかけたり、あの手この手で司祭に棄教を迫ったりする場面も心が痛いのですが、グサッと刺さったのは、「日本は沼だから、根は腐って、花も咲かない」というセリフ。これ信仰の話なんですけど、よく考えてみると信仰だけじゃなくない? デザインに対する考え方とか、基本的人権とか、教育の重要性とか、いろんなことに対していまだに沼すぎるのでは……? 大丈夫?(震え声)

オープニングとエンディングで虫の声がするのですけれども、オープニングでは静寂を感じて、エンディングではああ神はそこにいるんだなと感じました。これは人によって捉え方が違うんだろうな。

さて、主演のアンドリュー・ガーフィールドは、最初に配役を聞いたときには若すぎるのではないかと不安でしたが、揺れ動く若い司祭としてピッタリだったし、そのほかのキャストも全員がはまっていました(特に、塚本監督)。異国の監督が台湾で撮影しても、こんな圧倒的な時代劇が撮れるのね。

原作の力と映像の力があわさって、鮮明に迫ってくる作品ですが、あくまでフィクションなので、史実やカトリックの教義と混同しないほうがよいかも。これから原作を読む人は、最後のめっちゃ読みにくい「切支丹屋敷役人日記」もがんばって読んでね!(あの部分とても重要なのに読まれない……と遠藤周作が嘆いてるインタビューどっかでみた)

『潜伏キリシタン 江戸時代の禁教政策と民衆』(大橋幸泰著、講談社選書メチエ)を読むと、フィクションで描かれてるイメージとはまた違った実像が見えて、大変興味深いのでおすすめです。

しかし他人が大切にしていることに対して、自分のものさしで遠慮なく踏み込んでしまうことは、意図せずとも誰もがやりがちではあるし、私もやりかねないのでじゅうぶん気をつけないといけないなー。



[PR]
# by rivarisaia | 2017-02-01 16:24 | 映画/日本 | Comments(5)

small great things

ジョディ・ピコーの新作は「差別」がテーマです。ページターナーで、一気に読んでしまった。日本において自分はマジョリティに属しているという人(私も含まれます)は特に読むといいですね。

b0087556_19030084.png

small great things』Jodi Picot著、Ballantine Books

シングルマザーでベテラン看護師のルースは、病院の産科病棟で働く唯一の黒人女性で、同僚からの信頼も厚い。

しかしある日、ルースが新生児の世話をしていると、赤ん坊の父親から「すぐに出ていけ、そして上司を呼べ」と言われてしまう。赤ちゃんの両親は過激な白人至上主義者だったのだ。

面倒を避けたい病院側はカルテに「アフリカ系アメリカ人の職員はこの患者に触れてはならない」と記載し、ルースは担当を外される。

そして、事件が起きた。

新生児室にたまたまルースしかいない時に、突然、その赤ん坊の呼吸が停止してしまうのだ。子どもに触れるのは禁じられているけれど、看護師としてはすぐに対処をしなくていけないというジレンマに陥るルース。彼女はその時、いったいどうしたか。

結果的に子どもは助からず、ルースは子どもの親から殺人罪で訴えられる。彼女の弁護士を引き受けたケネディは、裁判で人種差別問題を持ち出すのは得策ではない、とルースに伝えるのだが……

語り手は3人。黒人女性のベテラン看護婦ルース、白人至上主義者の父親ターク、そしてルースの弁護を請け負う白人の女性弁護士ケネディ。

あとから考えると、ルースのパートは事例集に出てきそうな典型的なエピソード満載なのがやや気になるし、今のアメリカを考えるとエピローグも楽観的すぎるかもしれない。でもピコーが本当に伝えたいことは、タークとケネディのパートにある。

タークを見て、多くの人はこう思うはず:白人至上主義者って頭おかしいんじゃない? 自分は絶対にこんな差別はしない。

しかしケネディはこう言う:地球上の白人至上主義者をひとり残らず火星に追いやったとしても、差別はなくならないのです。

なぜなら偏見を持っていない人などいないから。それに、レイシズムはヘイトだけの問題ではなく、力を持つ者と持たざる者の問題でもあるから。

著者あとがきを読むと、ピコーは黒人読者からも白人読者からも反発がくることは覚悟の上でこの物語を書いたことがわかる。私が楽観的すぎると感じたエピローグも、現実に起こりうることだった、というところに、おそらくピコーは「決して希望を捨てないで」という想いを込めたのではないか。教科書的な小説という批判もあるかもしれないけど、考えるきっかけになる1冊だし、今読まれるべき本だと思います。



[PR]
# by rivarisaia | 2017-01-27 19:09 | | Comments(2)

ホワイト・バレット

年明け早々、ジョニー・トーも公開されてめでたいことです。

b0087556_16274752.png

ホワイト・バレット(三人行)』監督:ジョニー・トー/杜琪峰

強盗団のメンバーである男性(ウォレス・チョン/鍾漢良)が、頭に銃弾を受けた状態で救急病院に搬送されてくる。女医のトン(ヴィッキー・チャオ/趙薇)は至急手術を行おうとするが、男はなぜかそれを拒否。いっぽうで男を監視する警部(ルイス・クー/古天樂)は、逃走中の仲間の情報を聞き出そうとするのだが……

病院の中だけで展開する88分。犯人はなぜ頑なに手術を拒否するのか。犯人を監視する警察チームも何かを隠しているようなのだが、それは一体何なのか。

あちこちに伏線をはって、溜めに溜めて最後にどかんと派手に持ってきたスローモーション場面はなかなか面白くて、CSIシーズン10のエピソード1を思い出したりもしたのですが(あちらはスローモーションというか静止だったかも)、通常のスピードで再生したものと比較して観てみたいなー。ただせっかくスローモーションになっているというのに、途中で誰が犯人グループだったか顔がごっちゃになっちゃったのよね。不覚……(私はスローモーションをさらにスローで見たほうがいいのかもしれない)

脳外科医のトンは、これまで気負って頑張ってきたけれど、いくつかの出来事が重なって自信を失いつつあった。そんな彼女のフラストレーションも、最後の銃撃戦の場面で一気にはじけて吹っ飛んでいった感じがする。

余談ですが、「ビルから吊るされた人はどのように助かるのか、みんなで想像してね!」っていう演出は、最近他の香港映画でも観ましたけど、投げやりというか潔いというか、ほんと真面目にみなさんどうやって助かったのかしら。あれこれ想像しちゃうよ。



[PR]
# by rivarisaia | 2017-01-23 16:34 | 映画/香港・アジア | Comments(0)