「ほっ」と。キャンペーン

牛は語らない/ボーダー

Twitterでつぶやいたのですが、今月初め、どういうわけだかAmazon Japanから『牛の結び方』という本をおすすめされました。牛を扱う現場で必要な結び方をフルカラーで図解した実用書(link)らしいんですけど、あわせて牛解剖モデルだの、牧草図鑑だの、牛の写真集なんかもあるよ、と言われたのだった。

なぜそれほどまでして「牛」を私に?

それ以来、牛のことが気になっていたら、東京国際映画祭で「牛の映画」をやるという。主演が牛だ。これはもう何かの啓示かもしれない。

ということで、映画祭の〆の映画として、急遽チケット買って観にいきましたよ。結果としては、観てよかった。傑作でした。ありがとう牛! O, Taure! Gratias tibi ago. (ラテン語でもお礼書いてみた)
b0087556_18303430.jpg

牛は語らない/ボーダー(Sahman [Border])
監督:ハルチュン・ハチャトゥリャン

ソ連崩壊後のアルメニア。紛争があったアゼルバイジャンとの国境近くにある小さな村。遠くで響く戦闘機の音。村の人々はヤギの群れや牛の群れを飼い、乳をしぼり、牛を殺して食事をつくり、日々暮らしている。

その村に連れてこられた一頭の牛。村人にとってよそものの牛は、何度も村から脱走しては連れ戻される。

夏が過ぎ、冬になって、やがて春が訪れる。季節が変わっても、戦争に疲弊した村の生活はあまり変わらない。だがある日のこと…


台詞の一切ないアルメニア映画。しかも主役は牛。途中で飽きるかな~と心配したのは杞憂でした。最初からラストまで82分間、片時も目が離せませんでした。

これは映画館のような音響のよい環境で観るべきです。村人たちの生活の音、走る牛の足音、牛の首につけられた鈴の音色、ヤギの群れの鳴き声、犬の吠える声、響きわたる戦闘機のプロペラ音など、音の使い方がとても効果的。

さらに、台詞はないけど、牛のまなざしが人間よりも雄弁だ。

牛はべつに擬人化されているわけではなくて、ほんとにただそこに存在するだけなんですけど、いつのまにか、よそものである牛と観客の私の目線が同化してました。なにせ主役の牛の表情がすごい。ほかにも牛はいるのに、主役の牛はどこか別格。
b0087556_18304392.jpg

また、印象的だったシーンのひとつにこんなのがありました。
連れ戻されて小屋に入れられる牛

小屋の入り口で無表情の男がひとり、じっとこちらを見つめている

何も言わない牛の絶妙な表情

小屋の入り口の男がふたり、3人と増えて、じっとこっち見てる!
なんか、恐い!という(牛にとって)サスペンスフルな展開。そのあと、牛小屋の外から屠殺の音が聞こえるのだった。ひいい。

監督は、物理的にも、そしてまた人々の心の中からも、「国境(ボーダー)」をなくしたいと考えていて、国境にしばられている村人たちはそこから動くことはできないけれど、国境という概念をもたない牛は、何度も村から脱走するのだと語ってました。

ラストシーンでは、国境のフェンスの境目に佇む、生まれたばかりの子牛が映し出されます。子牛は次世代の希望の象徴であると同時に、どちらも自分の国ではなく国境の上で立ちすくんでしまうことを表しているそうです。

さて。

さらにQ&Aでは、衝撃的な事実が発覚する。

主役の牛は、カメラテストを重ねて選び抜かれた牛(一番みすぼらしい牛だったらしい)。撮影終了後、「殺さないで大事に飼ってね」とお願いして村の人たちに贈ったそうですが、ある日のこと、この映画のように脱走してしまい、車にはねられて死んでしまったそうな…。えええー!そんなー(涙)

また、超余談ですが、アルメニア語で「ハイ」は「私はアルメニア人です」という意味らしく、「日本に来たらみんなが『私はアルメニア人です!』『私はアルメニア人です!』と言ってるので、この映画は日本人に受け入れられると思ってましたよ」とハチャトゥリャン監督は笑っておりました。

ハチャトゥリャンという名前は、有名な作曲家にも同姓の方がいらっしゃいますけど、アルメニアに多い名前だそうで、それというのも、アルメニアはかなり早い時期にキリスト教を取り入れた国だからだそうで、ハチャという言葉が十字架を意味するんですって。

アルメニアって、まだ一部では紛争が続いてるんですよね。牛の目を通して国境について考えさせられる本作品、海外の映画祭でもいくつも賞を受賞されておりますが、日本でもまた上映される機会があるといいな。

映画の公式サイト
[PR]
Commented by ゆきたか at 2009-10-26 22:15 x
こんばんは。
この作品、面白そうですね。日本ではやらなさそうな気がしますが^^;劇場でとりあげてもらえるのかな…
Commented by minaco. at 2009-10-27 00:38 x
これまた面白そうな映画のご紹介ありがとうございます!確かに含蓄ある良い顔してますね~牛!ポスターからして非常にそそられました。
後日談は悲しいですが、でも現実もまた映画より奇なりって感じですねえ。
ああ、是非観たいです。意外とこれは一般公開してくれそうな気もするのですが…。

>『牛の結び方』
すてき!見たら欲しくなりましたw
なんたって「牛舎でも使えるよう、ちょっとぐらいの水分・汚れなら弾くコーティング紙使用」ですもの!
Commented by rivarisaia at 2009-10-27 22:28
>ゆきたかさん
たぶん日本での公開は難しそう(渋谷のUPLINKとかならアリかしら)。ですが、あまりよく知らないし訪れる機会もなさそうな地域なだけに、牛以外の村のようすも興味深かったです!
Commented by rivarisaia at 2009-10-27 22:31
>minaco.さん
牛は表情豊かでした。なんだか何考えてるのかよくわからないんだけど、そこに牛がいる、という存在感がすごいです。

で、『牛の結び方』ですが、私もAmazonのカートに入れてます(笑)「すぐに活用したい」と反響ですよ。でも使う機会ないし〜買ってどうする、と悶々と悩み中。
by rivarisaia | 2009-10-26 18:35 | 映画/洋画 | Comments(4)