死刑執行人サンソン―国王ルイ十六世の首を刎ねた男

昨日に引き続き、フランスの歴史物推理小説、ニコラ警視シリーズに登場する重要な脇役のひとり、死刑執行人のシャルル=アンリ・サンソンが気になったので読んだ本。

昨日紹介した本は中世末期ドイツのフランツ親方の日記で、興味深いけど淡々としてましたが、今回はそのものズバリ、シャルル=アンリ・サンソンについての本で、これは非常におもしろい。
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死刑執行人サンソン―国王ルイ十六世の首を刎ねた男』安達正勝 著、集英社新書

フランスでも同様に、死刑執行人は社会から差別されていた職業なのですが、そんなに差別されていたら結婚もできない、どうやって世襲制を維持するのか?といった謎も本書を読んで解決しました。処刑人ネットワークがあり、その中で結婚するわけですよ。しかし、サンソン家の1代目は一般市民だった。

ええ、じゃあなぜ処刑人に?
それは、処刑人の娘と恋に落ちたから(本当です)。

この初代サンソンの死刑執行人になるいきさつは、まさに「事実は小説より奇なり」。当然、初代サンソンは社会的地位を捨てて処刑人になるべきか悩むけど、最後は愛を取る。すごい…。

しかし、サンソン家4代目にあたるシャルル=アンリ・サンソンの人生も、初代に負けずおとらず「事実は小説より奇なり」を地でいってます。

処刑人には、法律の専門書や解剖学の本も読めなくてはならない知性が必要とされていました。しかし差別されているから、学校に通うこともままならなず、家庭教師も見つからない。しかしシャルル=アンリの場合は、これ以上にないくらいの家庭教師が見つかるんですが、そのいきさつもおもしろい。そちらについてはぜひ本書でどうぞ。

サンソン家もまた、処刑業務以外に医療業務や薬品販売も行っていました(患者には貴族もいて、金持ちからは高額の報酬をもらっていたが、庶民は無料で診ていた)。医師から見放された患者も治すなど、評判もよかったらしい。このあたりも興味深いところです。

さて、フランツ親方の日記でも思ったのですが、死刑執行人は職業柄、「人を殺すとはどういうことか」「体罰を与えるというのはどういうことか」について真剣に向き合って考えている人たちなんですよね。人を殺すという倫理面だけでなく、その「仕事」のせいで他人から蔑まされるという葛藤をつねに抱えていなくてはならなかったし。

素人には「どさくさ紛れの集団虐殺」はできても、処刑台で人を殺すのは無理だ、とあるように、処刑台の上に立って人を処刑するというのは、どれほどの精神力と技術、覚悟を要することなのか、そうした職務がいかに命がけの仕事なのか、本書を読むとよくわかります。

やがてシャルル=アンリ・サンソンは、フランス革命の波にのまれ、ルイ十六世をはじめ、何千人もの人々を処刑していくことになります。確かにギロチンは、剣での斬首よりも人道的でした。しかし

もっとも残虐な処刑方法が採用されていれば一日一人ですんだところが、人道的な処刑方法があったために、一日に五十人以上、六十人以上もの人間が処刑されることになってしまったのであった。


なんという矛盾。

処刑人ではあるけれど、死刑制度には反対だったシャルル=アンリ・サンソンの心中を察すると気の毒でなりません。また、ルイ十六世の処刑がサンソン一家と当時の社会に心理的に及ぼした影響も計りしれない。フランス革命って、やっぱり狂ってるよな…。最初は社会を正そうという目的があったんだろうけど、そこから大きく外れていってる気がしますよ。

ニコラ警視シリーズで、サンソンはニコラを処刑することになってしまうのかどうか、という今後の展開も気になりつつ、サンソン家6代目アンリ=クレマン・サンソンが書いた『サンソン家回想録』をぜひ読みたいけど、フランス語が読めないのが残念。フランス語が読める方は、Gallicaで全文読めるようですよ。
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Commented by fontanka at 2010-05-08 23:03 x
こんばんは。
サンソン→死刑執行人の娘と恋に→ミステリ:カーの「赤後家の殺人」にも、死刑執行人の娘と恋をした先祖が云々ってのがありました。
あと、ヘンリーⅧが、アン・ブーリンを処刑するために、わざわざフランスから死刑執行人をよびよせたとかありますね・・・
などと思いました。
Commented by rivarisaia at 2010-05-10 02:09
カーのミステリにも出てくるんですね。今度読んでみよう!
ヘンリーⅧは、まさにお慈悲でフランスから呼んだんですよね。フランスの執行人のほうが腕がいいから苦しまずに死ねるということで。剣での斬首は、斬られる方がちょっとでも動くと失敗するので大変だと書いてありました。イングランドは斧だったような気も。どちらにしても大変なことに変わりないけれど。

by rivarisaia | 2010-05-07 19:16 | | Trackback | Comments(2)

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