エアーズ家の没落

サラ・ウォーターズの小説は、物語の設定はいいんだけどねえ…とあまり選ばれし読者ではなかった私でしたが、新刊は没落していく屋敷物として傑作。後味悪いけど。

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エアーズ家の没落』(上・下)サラ・ウォーターズ著 中村 有希訳 創元推理文庫

ゴシック・ロマン、ミステリー、ホラー、サスペンス、と読む人によって印象が変わりそうな本書ですが、私の中には「屋敷小説」というジャンルがあり、これはまさしくそのジャンルに入る1冊。最盛期の屋敷もよいが、滅びゆく屋敷も捨てがたいし、廃墟と化した屋敷もまた最高である。本書は「滅びゆく屋敷」。

第二次世界大戦終了後、かつて隆盛を極めたエアーズ家の人々は斜陽を迎え、朽ちゆくハンドレッズ領主館にひっそりと暮らしていた。ある日、メイドを往診したことをきっかけに、エアーズ家の人々と親しくなる医師ファラデー。やがて、屋敷では小さな異変が起きはじめ…


本書の序盤では、語り手である主人公ファラデーが少年時代にまだ栄えている頃の屋敷を訪問する様子が描かれるため、その後の屋敷の朽ち果てっぷりが対照的で印象に刻まれます。屋敷を維持していくというのは、カネも人手もかかる大変なことなのだった。

屋敷では当然のように怪奇現象が起きる。この怪奇現象の真相は最後まで明かされないので、本当に幽霊がいた、と思うもよし、いやそれには犯人が、と思うもよし、という感じではありますが、とにかく問題は、主人公の語り手はまったく信用ならないということです。

本書の原題は『The Little Stranger』で、このタイトルはすばらしいですね。いったい誰が "The Little Stranger" なのでしょう。それも最後まではっきりと明かされず、読者にすべてはゆだねられています。

が、さて。

以下核心にふれますのでたたみます。







スーザンはもちろん、住み込みメイドのベティも "The Little Stranger" で、これはちょっと番外とはいえ少女ジリアンも屋敷にとっては "The Little Stranger" ともいえる。しかし、真の "The Little Stranger" は医師ファラデーだと思う。"幼き日" に屋敷を訪れて以来、屋敷の虜になった招かれざるよそ者。この人はどう考えてもちょっとおかしく、屋敷に取り憑かれている。そう思って読むと、恐るべきサイコホラー。怖いよ、ファラデーさん。
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Commented by fontanka at 2010-11-29 21:34 x
えーと。私もこれ読みました。
私もその人物が、館に受け入れてもらえなかったストレンジャーであると思っています。

「リトル」ストレンジャーってついているところが、幼き時からを連想させますよね。
Commented by rivarisaia at 2010-11-30 15:03
明らかにこの人物がストレンジャーですよね。それにしても、暗い話ですよね、これ。よく考えたら、ストレンジャーのせいで一族滅亡、みたいな…。
by rivarisaia | 2010-11-29 11:48 | | Trackback | Comments(2)

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