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霧の中の風景

夏の終わりにNHKでアンゲロプロス特集をやってました。で、気づいたらもう12月ですよ。早っ! ついこの間、夏の終わりにアンゲロプロスって風情があるね〜などと思ってたのに、来月なんて新年じゃないか。あーやだやだ。

さて。

全作品観ているわけではないけど、テオ・アンゲロプロスの映画はどれも好きで、内容についてはじゅうぶん理解しているとはいえないまでも、あの独特のカメラ回しと映像が詩のように美しく、言葉ではとても表現できません。

あえていうと、ロシアのタルコフスキーが透明な水と炎なら、ギリシアのアンゲロプロスは靄のかかった寒色の曇り空というイメージ。

ま、どうやって撮影してるのか気になってしょうがない場面もあるわけですが。

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霧の中の風景(Topio Stin Omichli/Landscape in the Mist)
監督:テオ・アンゲロプロス


アンゲロプロス監督の中でも比較的短くて観やすい、と思う作品。短いっていっても2時間はたっぷりあるんだけどさ。でもアンゲロプロスにしては短いよね?

ふたりの幼い姉弟、ヴーラとアレクサンドロスは、ドイツにいる父を探しにアテネから汽車に乗る。


父を探して三千里の話と思いきや、早々に判明するのは、ふたりが父親の顔も知らないこと、そもそもドイツにいるというのは母親がそう言っていただけで実際にはどこにいるのかわからないこと、という、ふたりの先行きを不安にさせる事実なのだった。

でも姉弟は会ったことのない父親のために、ゲルマニアを目指す。

子どもの目から見ると純粋な世界。しかし、現実の世界には大人の欲望があり、大人が決めた決まりごとがあり、とにかく子どもには超えられない障害がたくさんある。世界には悪い人も善い人もいて、愛と死があり、出会いと別れがあり、初恋と失恋があり、絶望と希望がある。

巨大な煙突、立ちふさがる巨大な機械、水から引き上げられる巨大な手(しかも人差し指が欠けている)、はてしなく続く深夜の高速道路…と、とてつもなく大きくて終わりのない何かに満ちている現実。ふたりの子どもは「お父さんに会う」という希望だけを胸に抱えて、幻想的な雪の街を、雨が降る寒空の下をひたすら進んでいく。

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淡々としているようでいて、恐ろしい緊張感がピシーッと1本通っている映画。何度か観ていて筋はわかっているのに、いつも緊張する。特にトラックの背後から荷台をじっと映し出す場面では、辛くて胸が苦しくなるほどですよ、ああ。あんな酷い、絶望的なことがあるだろうか。さまざまなこと乗り越えた姉弟を最後に待ち受けていたのは「国境」という難関だった。

真っ白の霧の中、混沌の中に光があらわれるかのように、姿を見せる1本の樹。こんなに圧倒されるラストシーンはないと思う。もしかすると不在の父親=神のような存在なのかもしれないね。
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by rivarisaia | 2010-12-10 02:04 | 映画/洋画 | Comments(0)