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ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日

原作のフィルターをかけて(脳内補完して)映画を観てしまうことがあり、この作品もそうでした。最後までネタバレしてますので注意!

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ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日(Life of Pi)』監督:アン・リー

主人公のパイの家はインドで動物園を経営していたが、一家でカナダに移住することになる。しかし乗っていた船が遭難してしまう…


原作については過去にちょうやる気のない感想を書いてました…。あのときちゃんと書いとけばよかったという後悔は先に立たず!

映画化の監督がシャマラン→キュアロン→ジャン=ピエール・ジュネと移り変わり、個人的にはジュネの色味と雰囲気で期待をふくらませてたので、 アン・リーになったことに対する複雑な心境は、コチラに書いた通りです。

で、映画版です。

まずよかったところ。

映像がひじょうに美しく、特に場面が移り変わるときの画面の構図に工夫があって面白い。退屈なんじゃないかと心配だった前半も、映画ではちっとも飽きなかった。リチャード・パーカーがCGっぽくないのも凄いし、うちの猫のようで愛らしい。また私はびょーんと飛び出る3Dがあまり好きではないので、今回は紙芝居みたいな3Dでとてもよかった。びょーんが好きな人は物足りないかも。

ちょっと残念なところ。

小説を読んだときに受けた衝撃はなかった。内容を知ってるから当たり前なんだけど、仮に読んでなかったとしても、驚きはしてもあの衝撃はなかったと思う。そして残酷なシーンはことごとくカットであった(この件は後述)。ジュネだったらきっと入れてただろうが、結果的にはアン・リーの判断でよかったのかも。

さて。

はじめ、救命ボートにはパイのほかに、足を怪我したシマウマ、オランウータン、ハイエナ、トラが乗っていた。


小説ではここで血みどろの心が折れそうになる戦いがあるのだが、映画ではそれは瞬く間に終了。あまりの早さにおののきました。ハイエナの邪悪さに苛立ったり、シマウマやオランウータンに涙したりする間はなく、あっさり終わってしまったので、もうひとつの物語の印象もやや薄まった気がする。しかし、映画ではトラが登場するタイミングがパーフェクトだった(そう来たか!という感じ)。

パイの物語には動物が出てくるバージョンと、出てこないバージョンの2種類があります。どちらの話が真実か、というのはじつはどうでもいいことです。

最後のほうで明かされる2番目の話に驚いて忘れがちですが、本作は「物語のちから」と「信仰(Faith)とは何か」についての話で、最初に作家がパイの元にやってくるのは「神様を信じさせる話」をしてくれると聞いたからでした。

日本の調査員が指摘したように(そしてカナダ人の作家も、観客/読者も心の中で感じているように)、トラが出てくる話のほうは非現実的で、ほんとうに起きたことだとは思えない。そこでパイは、信じられない人のために救命ボートには「足を怪我した船員、自分の母親、船のコック」が乗っていたという、より現実的な話を披露します。リチャード・パーカーは、トラにならなければ生き残れなかったパイ自身でした。言い換えるとパイの中に潜んでいたトラの部分です。

ところが、パイの証言によって貨物船が難破した原因が解明されるならまた話は別ですが、どちらの物語を採用したとしても、船が沈んだ理由は永遠にわからないことに変わりない。何も証明できないし、真実は「生き残ったのはパイだけ」という事実のみです。

なら、どっちがよいですか? どちらを選びますか? とパイは作家に、調査員に、私たちに、聞くわけです。

映画では、作家はトラが出てくる話のほうを選ぶ。
原作では、あれほど「非科学的だ」と言ってたはずの日本の調査員が、トラが出てくる話のほうを選ぶ(ここジーンときたので、映画でも調査員に聞いてほしかった。ちらっと映った報告書ではトラのほうを採用した感じだったけど)。

それに対してパイは、

「Thank you. And so it goes with God.
(ありがとう。神様だってそういうことですよね)」


と答えます。神様の話というのは非科学的だし、現実にはありえないし、ほんとうだと思えない。でもね、正しいか、正しくないかじゃなくて、信じられない話だけどそれを受け入れることが信仰(=faith)というものなのではないか。

子どもの頃からパイは宗教に興味があって、イスラム・ヒンズー・カトリックと3つ信仰してるんだけど、これは3つのうちどの教えが正しいかは重要ではないということを示唆しているようにもみえる。それぞれが好きなものを選べばいいじゃないか、みたいな。

さてはて、ミーアキャットの謎の島については、正しい答えはひとつじゃなくていろいろあるだろうし、各自が考えればよいので省略(えっ!)。

小説読んだときにイスラム教の色である緑色の海藻の島に、キリスト教でいうところのエデンの園のようなものがあるという設定が意味深…という議論になってたけど、映画だとさらに島の全景が人の形になってた。「ハテ?」と首をひねってたら、あれはヒンドゥーの横たわるヴィシュヌ神ではないかという指摘があり、へええ!と感心しました。
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Commented by fontanka at 2013-02-18 21:37 x
この映画の話は噂にはちょっとだけきいていて、「トンデモ」だと思っていました。いろいろな解釈が・・・・

きっと見ないだろうなとおもいつつ。
春巻さんの記事をよんで、ポワロのオリエント急行のラストを思い出しましたです。

Commented by きたきつね at 2013-02-18 23:52 x
映画を見てから原作をちびちび英語で読んでいます(日本語版が売り切れておりKindleストアで安かったので)。
うん、神様ってそういうことですよね。原作では調査員がちゃんとトラの話を選ぶのか、楽しみ。
個人的にはこの映画はイルファン・カーンの映画なのですが、たしかに信仰と物語のちからの話です。いい話だ。
Commented by rivarisaia at 2013-02-20 02:11
>fontankaさま

トンデモではないですよ! 原作にはミステリ風な要素もありますので機会があったらぜひご一読を。オチがわかってて読むと驚きはないかもしれませんがー。

Commented by rivarisaia at 2013-02-20 02:12
>きたきつねさま

日本語版売り切れ…。映画化のせいでしょうか。わたし、原作の調査員コンビがなかなか好きだったんですが、映画だとあっさりした登場でしたね。この映画はイルファン・カーンの映画なのは正しい!
by rivarisaia | 2013-02-18 12:51 | 映画/洋画 | Comments(4)