時の娘:リチャード3世遺骨発見記念

先日は、"本当に起きたこと" よりも "物語" のほうを信じることについてでしたが、きょうはその逆で、物語はいろいろなバージョンがあるんだけど真実は何かを探るという話です。

このあいだ、昨年駐車場から発掘された遺骨がリチャード3世と確定して、私大興奮だったんですが、リチャード3世といえばこの本。

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時の娘』ジョセフィン・テイ著、小泉喜美子訳、早川書房

リチャード3世の悪者イメージは、シェイクスピアの『リチャード三世』のせいかもしれませんが、それほど腹黒くない気もするし、むしろ魅力的。薔薇戦争もので1番人気だと推測しているのですが、どうでしょう。悪名高いがゆえに「実際はそうじゃなかったのでは?」「名誉を回復しようぜ!」と考える人々もたくさんいるし、愛されてるな、リチャード3世。

そこで本書です。

スコットランド・ヤードのアラン・グラント警部シリーズのなかの1冊。単体で読んでも大丈夫です(むしろ全部翻訳出てない気がするし)。はい、ざっくりしたあらすじ。

犯人を追いかけマンホールに落っこちたせいで入院生活を送っているグラント警部。ふとしたことから肖像画のリチャード3世に興味を持ったことをきっかけに、歴史書を探りながら甥殺しで悪名高いリチャード3世の真実を推理することに…


グラント警部はシェイクスピアの悪人像の元になった本が、偉大なるサー・トマス・モアの著作であることを知る。で、友人に頼んでくだんの著作を入手し、読みはじめるのだが、どうも内容がうさん臭いと感じるのである。大体、リチャード3世が王位についたとき、モアは何歳だったのか?と計算してみれば、5歳なのである。

で、グラント警部はこう思う。

この歴史書に書かれていることは、すべて伝聞でしかないのだ。
そして、もし、刑事が何より忌むものがあるとすれば、それは伝聞である。


伝聞…だって大昔の歴史書ですし…。しかし、歴史を解釈するにあたりこの視点は非常に重要である。しかしグラント警部は腹の虫がおさまらず…

グラントは永いあいだ、人間の知性を相手にする仕事をしてきたので、誰かが見たり聞いたりしておぼえていることについて誰かが記録し、それをまたさらに誰かが記録したようなことを、真実として受け入れるわけにはまいらぬのである。
彼は胸がむかむかしてきた。


「真実だと書いておきながら伝聞かよ!」とベッドの上でえんえんと怒り狂うグラント警部が、わたし大好き!

怒りの矛先は、聖人でもあるトマス・モアに向かっており、それは、グラント警部みずから、モアほど信用できる歴史的人物はいないという意見に同意したばかりだったのに…こんちくしょう!という、騙されたことに対する怒り、すなわち簡単に信じてしまった自分自身に対する怒りでもあります。

彼、アラン・グラントは、”偉大な知性" の持ち主などという輩がいかに無批判で、山師も赤面するようないんちき話をやすやすと信じこむかを先刻御承知なのである。

(中略)

彼、アラン・グラントの知る限り、"偉大な知性" の持ち主ぐらい、世に愚かしく、無批判な存在はないのである。そして、関知する限り、トーマス・モアなんぞはどこかへおっぽり投げてやるべきなのである。


落ち着け! グラント警部!(笑)

かくして、グラント警部はリチャード3世は犯罪者だったのか、偉大な政治家だったのかを探る決意をするのであった。ベッドから動けない警部にかわり、あちこちで文献を探してくるのは若い歴史研究家のアメリカ人ブレント君です。ここから先の、展開はオチも含めて本書でお楽しみください!

こうやっていろんな文献にあたって過去の歴史を探るのって楽しそう。いいなー。

ついでにロンドン塔で見つかった子どもの骨のDNA鑑定しないのかなー。いまの技術なら新しい発見があるかも。


● 本日のオマケ

レスター大学のリチャード3世探索のページ 
顔の復元写真が出ている(肖像画そっくりだ!)ガーディアンの記事 

ナショナルジオグラフィックニュース(日本語)
リチャード3世の遺骨、駐車場から発掘
リチャード3世の遺骨発見、熱狂の理由
リチャード3世の遺骨、DNAで特定
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Commented by fontanka at 2013-02-21 22:03 x
「時の娘」昔夢中になって読みました(遠い目)
この表紙ですが、一時、ロンドン塔の絵になってしまい。愕然としましたが、戻ったんですよね?

ちなみにグラント警部好きです。ティって全部作品が日本で翻訳されているすごいラッキーな作家です。

私にとてのこの本の難点(?)というか、リチャード3世の肖像画が、「とても悪人には思えない」と捜査に乗り出すほどの「善人?」顔でもない気がするんですよね。
いえ、その内容は好きです。
この絵の本物をみたくてロンドンに行ったときにナショナルポートレートギャラリーに行きました。
肖像の本物みても、「本物」ということには感動しましたが、善悪は感じとれませんでした。
前の世紀です。
しかし、すごいなと思いました。
リチャード3世は「天の戴冠」というマンガが好きです。
今度ブログに書きますね。
Commented by rivarisaia at 2013-02-22 23:47
そうそう!一時期、文庫の表紙のデザインが青っぽい塔の絵でしたよね。肖像画のほうが絶対によいので、戻ったようで何よりです。

テイの作品が全部翻訳されてるとは知りませんでした。それはすごいですね。今となっては絶版という問題もありそうだけど…。そんな私もグラント警部は大好きなので、また読み返してみようかな。

同じく、グラント警部がやたら「責任感を持った男の顔だ」と言うけど、そこまでか…!?と首をかしげながら表紙の肖像画を何度も見返した私です。言われてみれば、確かに残虐な悪人顔ではない気もするけど。うーん。

この本、ヘタな歴史小説よりもおもしろくて、何度も読み返しちゃう。

マンガの件はfontankaさんのブログのほうにコメントします〜。
Commented by fontanka at 2013-07-01 21:53 x
「リチャード3世を愛した女」を読んだんですが、実は作者が、元祖ゴシックロマンスのヴィクトリア・ホルトと知って驚いたのは私です。
Commented by rivarisaia at 2013-07-03 20:09
あ、ヴィクトリア・ホルト好き!fontankaさんがブログで『天の戴冠』に似てるって感想を書かれていたのを読んで、ちょっと気になってます。
by rivarisaia | 2013-02-20 23:34 | | Trackback | Comments(4)

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