ムーンライト
2017年 04月 22日
月明かりの下で仄かに青い宝石のように輝くような映画。あとから思い返すたびにじんわりとするので、たぶん、ここに出てきた人たちは心の中でいつまでも生き続けて、またいつかきっと「あの人たちはどうしてるかな」と懐かしむんじゃないか。
『ムーンライト(Moonlight)』監督:バリー・ジェンキンス
映画は主人公シャロンの少年時代、高校時代、そして青年時代の3つのパートに分かれている。
マイアミの貧困地域。体が小さくて「リトル」と呼ばれていたシャロン。
ある日、いじめっこたちに追いかけられたシャロンは、逃げ込んだ廃屋でフアン(マハーシャラ・アリ)に出会う。この時、画面がけっこう揺れて、画面酔いする私はやや心配になったけど、フアンが頻繁に登場するようになってからはカメラが落ち着く。もしかするとあの揺れは、幼いシャロンの不安を表していたのかも。
フアンと恋人のテレサはシャロンを温かく受け入れ、家ではヤク中の母親からネグレクトに近い扱いを受けていたシャロンにとって、彼らの家は大事な居場所になる。やがてシャロンは、フアンを父親のように慕うようになるのだが、フアンは麻薬ディーラーとして、シャロンの母親に麻薬を売っている人物でもあった。
ティーンエイジャーになったシャロンは、相変わらずひょろひょろとしていて、いつもうつむき加減で、学校でいじめられているし、母親はいまだヤク中で、唯一心を開くことができるのは、幼なじみのケヴィンだけ。しかしそんなふたりの仲に亀裂が入る大事件が起きてしまう。
時が経ち、大人になったシャロンは「ブラック」と呼ばれており、子どもの頃とはまったく違う筋肉隆々の体格で、ダイヤのピアスにゴールドのチェーンを身につけ、まるでかつてのフアンを思わせる麻薬ディーラーとなってアトランタで暮らしている。ある日、突然ケヴィンから電話がかかってきて、シャロンはケヴィンに会いにいく。
「ブラック」というのは、ティーンエイジャーの時にケヴィンがシャロンにつけたあだ名で、それだけでもシャロンはケヴィンのことを忘れていなかったどころか、あんな出来事の後でも憎んですらいなかったのか!と私はちょっとびっくりした。でもね、その後ふたりが再開を果たしたときの会話から察するに、シャロンにとって、ケヴィンはこれまでの人生でたった一人の、大きな心の支えだったんだなと思う。
真っ白い歯を金歯ですっかり覆ってしまうように、同性愛者で内気で、いつまでも「リトル」のままの内側を、マッチョで強面の麻薬ディーラーという姿で包み隠して生きていかなくてはならなかった日々はさぞ辛かっただろう。その後、彼らがどうなるのかはわからないけど、ふたりが再び会えて、本当に、本当によかった。
ラストシーンの、月の光を浴びて海辺に佇む黒人の子どもの肩甲骨のあたりが白く光って、まるで天使の羽のようだった。
by rivarisaia
| 2017-04-22 23:59
| 映画/洋画
|
Trackback
|
Comments(0)