They Were Like Family to Me

第二次世界大戦中のドイツ占領下のポーランドが舞台の、ホロコーストをテーマにしたマジックリアリズムな連作短編集。これがすごく、すごくよかった。じつは去年から気になってたのになんとなく読むのを躊躇してたけど、早く読めばよかった。

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They Were Like Family to Me』Helen Maryles Shankman著、Scribner

最初は『In the Land of Armadillos』というタイトル(右の表紙)で出版された本。全部で8つの話を収録。

ユダヤ人の絵本作家に子供部屋の壁画を描かせるSSの将校、パルチェフの森に潜むパルティザン、森林地帯に身を隠す人々、ふらっとやってきて「人を救うのもうやーめた」と宣言する救世主、ある日突然現れたゴーレムらしき謎の男……

ウォダバという小さな町の、ポーランド人、ユダヤ人、ドイツ人たちのおはなし。すべてに共通して登場するカギとなる人物がドイツ人将校 Reinhartと、鞍作り名人のユダヤ人 Haskel Sorokaのふたり。

世界はこんなにもカラフルで美しいのに、人間はどこまでも非道なのだった。気持ちが和んだのも束の間、はっと息が止まるほど絶望的な瞬間がふいにおとずれる。読んでいて「あっ!」と思わず口にしてしまうほど。

どの話も、善と悪、真実と嘘がはっきりと区別できない曖昧な境界の上にあって、それぞれ心に刻まれるんだけれども、特に印象深いのが、ユダヤ人をドイツ兵に密告しまくっていた男が仕方なくユダヤ人の少女を匿うはめになる「The Jew Hater」と、シンドラーのようなドイツ人将校 Reinhartを主人公にした「A Decent Man」のふたつ。

Reinhart は「彼のもとで働くユダヤ人は命を守ってもらえる」と評判の、みんなから愛される男。「情け深い」彼は、自分の地位と権力をおおいに利用してユダヤ人たちの命を救うと心に誓う。一見、好ましい人物に見えるけれども「ユダヤの救い主」たらんとしている彼には傲慢さはなかったか。

「A Decent Man」の中で、Reinhart が警察隊をもてなす場面が出てくる。「ハンブルクから来た」という警察隊の男性がユゼフフでの任務の話をすることからも、彼らはまさしく先日の『普通の人びと』の第101警察予備大隊なのだった。

また「The Jew Hater」と「A Decent Man」に共通して出てくる「話す馬ファラダ」は、グリム童話の「ガチョウ番の少女」に登場する馬がモチーフ。

巻末の著者のエッセイによれば、どれも両親や家族の経験談がもとになっており、Reinhart にもモデルがいた。おとぎ話のようなマジックリアリズムを取り入れたのは、恐ろしい現実から距離をおいて、私たちがもうすでに知っている事柄を新しい視点でとらえるため。おとぎ話というのは、人々に警告を伝える役割があって、またいつまでも忘れないために語り継がれていくものだから。

●収録話
In the Land of Armadillos
The Partizans
The Messiah
They Were Like Family to Me
The Jew Hunter
The Golem of Żuków
A Decent Man
New York 1989




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Commented by fontanka at 2017-08-26 18:14 x
暑いですね。
実家の事で疲れて、最近「軽い読み物」ばかり読んでいます。
図書館でマンガ借りている自分は、良いのだろうかとも思いますが・・・
少なくとも図書館に入ると言うことは、作者の利益になる。
→同級生が文筆業の方と結婚した時の二次会で、「○○くんの本を図書館にリクエストしましょう」と。自分で買わなくても彼の収入になります・・・でした。
Commented by rivarisaia at 2017-08-27 00:05
ここ数年ホロコーストをテーマにした洋書の小説がけっこう多くて、しばらくその手の本は読むのを休もうかなーと思っていたので躊躇してたんですけど、ようやく読んでみたら、文章もとてもよいし、よかったです。

疲れてる時は、軽い読み物がいいですよね。私は最近ミステリーでもあまりに凄惨なものはやや遠慮気味です。

図書館の本についてはこの前もツイッターで議論になっていましたが「実際の数字をデータで出して検証しないとわからないのでは?」という意見はもっともだなと思いました。私は気軽に買えない値段設定の本の仕事をすることが多くて、その手の本だとむしろ図書館に買ってもらえるとありがたいので、本の種類や定価によるかもしれないです。
by rivarisaia | 2017-08-24 23:54 | | Trackback | Comments(2)

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