Hate U Give

アメリカでは、警官による黒人殺害事件をきっかけに「Black Lives Matter(黒人の命も大切だ)」という運動が起きていたことはニュースで見た人もいるかと思いますが、日本ではいまひとつ実感がわかないので、よく理解できなかった人も多いのでは。本書は、そのあたりの理解を深める上でもおすすめ。
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Hate U Give』Angie Thomas著、Balzer + Bray

Starr という16歳の少女が主人公。

スターが住んでいるのは黒人が多く、治安の悪い貧困地域なんだけれど、スターの両親は教育のことを考えて、子どもを郊外の私立学校に通わせている。学校の生徒のほとんどが落ち着いた住宅街にくらしているので、スターにしてみると「学校」と「地元」では世界がまったく違う。

ふたつの世界で、うまくやってるつもりだった。あの事件が起きるまで。

地元の友だちに誘われてパーティに行った帰り、幼なじみのカリルが運転する車が警察に止められ、スターの目の前でカリルは警官に撃たれてしまう。

これまでスターは、黒人だからという理由で誰かが殺されたとき、ハッシュタグをつけてツイートし、タンブラーで写真をリブログし、あっちこっちに署名をして、何が起きたのかを世界に知らしめるべく声をあげてきた。でも、いざ自分が渦中の人になってみたら、とても怖くて何も話せなくなってしまう。

学校の友人に「殺されたのはどうせ麻薬のディーラーなんでしょ、仕方ないよねー」と言われても、「彼はわたしの友だちだったんだけど」とすら言い返せなかったスター。でもそんな彼女が、だんだんと信念にもとづいて行動するようになっていく。

大きな流れは「Black Lives Matter」についての話だけど、日本人にわかりにくいかというとそうではない。むしろ、アメリカで、黒人でいて、警察に車を止められたとき、どんなプロセスが踏まれ、どんな心境になるのか、とてもよくわかる。

また、日常生活にひそむちょっとした差別・偏見についても考えてしまう内容になっている。

言った本人は悪気のない冗談なんだけど、なんだか嫌な気持ちになったり、微妙な心持ちになったりするということはしばしば起こり、

「彼女、いつもこんなジョーク言ってたのかな。で、私は笑ったほうがいいかなと思って、いつも笑ってたのかな」

と、スターは思う。面白いのは、そんなスターにまるで偏見がないのかといえばそうでもないところで、スターの彼氏は白人なんだけど、その彼と事件後にぎくしゃくしてしまい、問い詰められたスターは

「あんたは白人なの、わかる? 白人なの!」

と言っちゃったりする。で、絶句した彼氏に「俺が白人って、それが何だっていうんだよ?」と返される。この彼氏がとてもいいやつなのが救い。

途中、展開がだれるところもあるものの、YAとしては良書で、映画化も決まってます(たぶんいま撮影中)。

最近、日本だと差別の話題になった際に「昔はよかったのに、息苦しい」「悪気はないのに」と怒り出す人がいたりするけど、本書にも似たような人が出てくる。「昔は許されていた」といっても、いやー10年もあればだいぶ人も社会も変化するからね!

たとえばこのブログも10年くらい書いてるけど(怖い)、10年前と今では私も、同じ映画や本に対する感想も違ったりするし、昔とは考え方がだいぶ変わったりもしてるんですよね。逆にいうと、達観してる聖人ならいざしらず、昔も今もまったく思考が変化しないのも、進歩してない感じするよね……。

ちなみに、本書のタイトルはラッパーの2PACの「THUGLIFE: The Hate U Give Little Infants Fucks Everybody」からきています。

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by rivarisaia | 2017-12-07 23:21 | | Trackback | Comments(0)

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