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見たもの読んだものについての電子雑記帳


by 春巻まやや
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Sing, Unburied, Sing

去年、『Lincoln in the Bardo』と同じような時期に出版された本で、偶然にもこちらも幽霊たちが登場して重要な役割を果たすのが印象的。最初はちょっと読みにくくて話にもうまく入っていけなかったんだけど、途中でぶわっと泣いてしまい、最後もとてもよかった。

ミシシッピのねっとり湿った熱い空気の中に引きずり込まれるような、圧倒されるマジックリアリズム。

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Sing, Unburied, Sing』Jesmyn Ward著、Scribner

あらすじは少し説明しにくい。機能不全家族、人種差別、生と死、アニミズムなどが織り込まれた行きて帰りし物語で、魂の救済の話でもある。語り手は黒人と白人のミックスの少年ジョジョ、ジョジョの母親リオニー、黒人少年の幽霊リッチーの3人。

ジョジョの13歳の誕生日に、祖父がヤギを屠殺するところから話は始まる。

ジョジョは幼い妹ケイラ、母親リオニー、祖父、ガンで闘病中の祖母と暮らしている。ジョジョの父親マイケルは白人で、今はパーチマンことミシシッピ州立刑務所に入っている。

誕生日を祝っていると、マイケルが出所するという連絡が入り、リオニーは子どもたちを連れて、女友達と一緒にパーチマンまで夫を迎えにいくことにする。ムショまでの道中でもいろいろあるのだが、ジョジョたち一行はパーチマンから戻る際に幽霊のリッチーも一緒に連れて帰ってきてしまうのだった。


母親のリオニーはヤク中で、子どもたちのことは愛しているけれども、ちっともいい母親にはなれない。その原因のひとつは十代の頃に兄が殺されたことがトラウマになっているから。リオニーが薬でハイになるたびに、彼女の前に死んだ兄の幽霊が出現する。

じつはジョジョの祖母の家系は心霊的な能力を有していて、その能力はリオニー、ジョジョ、ケイラにも受け継がれているのだった。ただし、それぞれの能力は微妙に異なっている。幽霊少年リッチーの姿は、ジョジョ(とケイラ)にしか見えない。

ジョジョの祖父は、十代の頃にパーチマン刑務所に入っていて、そこで12歳だったリッチーと出会った。祖父はひ弱なリッチーのことをつねに気にかけて守っていた。

リッチーはパーチマンで命を落とすのだが、本人にもどうして自分が死んだのかわからない。そこでジョジョを通じて、自分の死因を探ろうとするのだ。それはジョジョの祖父が抱えていた辛い過去の記憶でもあった。リッチーの死の真相はあまりに悲しく、やりきれない。

父親が戻ってきてもジョジョの家族は機能不全のままだし、むしろジョジョとケイラに対するネグレクトが悪化してる。無数の苦しみと悲しみに満ちた世の中で、「鳥」たちに向かってケイラが歌うラストが、それはそれは美しくて切ない。


by rivarisaia | 2018-07-14 21:22 | | Trackback | Comments(0)