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見たもの読んだものについての電子雑記帳


by 春巻まやや
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サタデー・ナイト・フィーバー

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サタデー・ナイト・フィーバー(Saturday Night Fever)
監督:ジョン・バダム

初めて観たんですが、想像してた内容とまったく違っていて衝撃。あまりに衝撃なので、内容に触れているし感想も長いです。

土曜の夜にはっちゃける能天気なダンスムービーだと勝手に思っていたら、貧困や移民同士の争いといった社会問題を描きつつ、鬱屈した行き場のない気持ちを抱えたイタリア系若者の出口のない日常という暗い話で、おまけにレイプの描写にもドン引きしました(2度もある)。

舞台はブルックリン。小さなDIYショップで働くイタリア系アメリカ人のトニーは、両親、祖母、妹と暮らしている。父親は失業中で、家の中がギスギスしている。家族の唯一の希望の星はカトリックの神父となったトニーの兄フランクで、その兄とくらべるとトニーは家族の中では厄介者。そんなトニーが唯一輝ける場所が、週末に通っているディスコなのだった。

ある晩、ディスコでトニーはマンハッタンで働くステファニーと出会い、最初はつれない彼女をなんとか説得、ディスコで開催される賞金付きダンスコンテンストに出るのだが……という展開です。

このステファニーには、仕事の内容を自慢げに披露するという鼻持ちならない面があるけれど、それは彼女の精一杯の虚勢であることがわかってきます。いつまでもこんなところでくすぶっているあんたと私は違うのよ、という態度は、自分に言い聞かせてたのかも。トニーはそんな彼女から影響を受け、最終的に自分も町を出てマンハッタンに行こうと決意します。

自立したステファニーと正反対なのが、トニーからはただのダンス相手としか思われていないアネット。トニーに気があるアネットは主体性に欠けるところがあって、はたから見てるとかなり痛々しい。

ダンスコンテストの日、トニーとステファニーは優勝するのですが、そこには明らかに不正があったことを、ダンスに対して真剣に向き合っているトニーだけが気づきます。

プエルトリコのペアのほうが上手だったのに、審査員はよそ者であるスペイン系に賞をあげたくなかった。だから自分たちが勝ったんだと悟ったトニーは、自分が属する社会に満ちたありとあらゆる欺瞞にうんざりして自暴自棄になり、ステファニーに無理やり性行為を迫る。これが1回目のレイプ場面で、ステファニーの断固たる拒絶によって未遂に終わります。

後日、ステファニーは家までやってきて謝罪するトニーを家に入れた際「First time I ever let a known rapist in my apartment」と言っていました(日本語の字幕は「ゆうべはひどかったわね」でした)。

一方で主体性のないアネットは、トニーに相手にされないことで自分を安売りするという態度に出てしまい、その結果トニーと仲間たちが乗り込んだ車の中で、ふたりの男からレイプされてしまう。この場面がかなり衝撃的で、後部座席のアネットが「やめて」と言って泣いていても、トニーは止めもしない。その後、彼女にかけた言葉も相当に酷くて、ごめんで済むかよと思うんですけど、アネットの一件は、そのあと起きる事件でうやむやになる。いくら意思が弱いからって、アネット、かわいそうです。

この件だけでなく、プエルトリコグループに対する勘違い襲撃事件を鑑みても、トニーとその仲間たちはいつまでも地元でくすぶっているとロクなことにならないという未来しか見えない。

そのせいなのか、この映画で他にもっとも印象に残ったのは、有名なトラボルタの決めポーズでもダンスのシーンでもなく、働いてる店をクビになったと思ったトニーが、店長から「ここでずっと働けよ」と言われる場面でした。

ハロルドなんて18年もここで働いてるし、マイクは15年だよ、と言われたときのトニーのあのうつろな表情。あれにすべてが詰まってた。神父になるのをやめちゃった兄フランクも、出戻ってきてすぐ出て行ってしまうのは、ここにいたらダメだ…と実感したからではないだろうか。そんな兄フランクのその後も気になるところです。

by rivarisaia | 2021-06-16 18:33 | 映画/洋画 | Trackback | Comments(0)