アウステルリッツ:

アウステルリッツ』 W.G.ゼーバルト著 鈴木仁子訳 白水社

b0087556_0244322.jpgタイトルのアウステルリッツは、「私」がアントワープの駅舎で出会った建築史家の名前。訳者あとがきに
時代のイデオロギーを体現した巨大建造物によせられて語られる、十九世紀から二十世紀にかけての近代の歴史のさまざまな断片
とあるように、最初は建築に関する蘊蓄が淡々と、しかし綿々と語られていくので、「最後までこの調子で建築を語られたらどうしよう」と一抹の不安を覚えたものの、随所に挿入されているモノクロ写真に助けられつつ読み進んでいくと、じつはロンドン、ウェールズ、プラハ、マリーエンバート、テレージェンシュタット、パリ...と、アウステルリッツの過去の記憶(またはヨーロッパの記憶)をたどる話でした。なぜ「巨大建造物」について語るのかは、次第に判明します。

アウステルリッツと一緒に過去と現在を漂泊した気分になって、読了後はなんともずっしりくる不思議な感覚に陥り、1時間くらいぼんやりしてしまった。アウステルリッツが永遠に語らない場所の沈黙の存在感といい、恐るべしゼーバルト。鈴木仁子さんの翻訳もすばらしいし、久々に買ってよかったと思った本。

ゼーバルトは、将来のノーベル文学賞候補とも言われていましたが、交通事故で急逝。本書は彼の遺作です。白水社から2005年より、ゼーバルト・コレクション全6冊が刊行開始中。


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by rivarisaia | 2006-05-23 23:42 | | Trackback | Comments(0)

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