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意志の勝利

何だかキナくさい状況になってきて、ちょっと不安な今日この頃。
歴史において独裁者と呼ばれる人々はたくさんいますが、本日はもっとも悪名高い方の話です。

「芸術に社会的責任はあるか」とかそんなテーマで論文が書けてしまう問題映画(いや私は書かないというか、書けませんけど)、そしてあまりに"美しい"ために重い罪があるプロパガンダ映画として名を残しているのがレニ・リーフェンシュタールの『意志の勝利』(1935)です。


ナチスによるニュルンベルク党大会の記録映画で、ドイツではいまだ上映禁止、おそらく日本でもDVDなどは出ていない。私はこれを異国の映画館で観たわけですが、終わった後に上映禁止になるのはわかると思いました。今でもなお、それだけの恐るべきパワーがあるわけです。

きちんと判断できる観客じゃなきゃ観ちゃダメー!だって、クラッときちゃうかもしれないから! 実際、これを観るまで、チョビひげのポマード親父のどこにカリスマ性があったのか理解不能でしたが、今なら賛同せずとも理解は可能。まさに奴はカリスマ親父であった。

要はプロパガンダですから、チョビひげ親父や親衛隊のイイ所しか映してないのに加えて、主な舞台設定がお抱え建築家アルベルト・シュペーアのインパクトある建物。シュペーアは「何千年も経ってその建築が廃墟となった時に美しい廃墟となる建築を」という、今の日本の建築関係者一同に見習ってほしいような「廃墟の論理」を提唱していただけあって、特に130基のサーチライトを放つ光の殿堂のスタジアム(巨大な鷲の像が鎮座してる)ときたら荘厳以外の何ものでもない。さらにレニは美しいものしか撮らない人なので、映画の出来はそれこそ明白。美と調和と健康が好きなレニによる映像魔術が炸裂しています。


最初の方は、整然と並んで一糸乱れぬ軍服の方々がかなり不気味だったのに、正直、だんだん脳がマヒしてきてそれがカッコよく見えてきちゃうのです。軍服のデザインもすばらしいとしか言いようがない。圧倒的に美しいものが正義であるというわけじゃないのね。常々、なぜ当時のドイツの人々がナチを支持していたのか疑問でしたが、こんな映像を見せられたらクラッといっちゃうかもしれない、少なくとも自分がクラッといかないという自信はない...と愕然としたわけです。マスゲームとか嫌いなのに、ナチスの思想も嫌いなのに、何ででしょうね。これはある意味、恐怖映画よりもホラーだ。

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この出来が良すぎた映画のせいで、レニは長らくナチの加担者としての烙印を押されてしまうのですが、彼女自身は自分は党員でもなかったし、美しいものにしか興味がなかったと主張し続け、実際に数々の裁判では無実を勝ち取っています。

レニ自身もプロパガンダを撮るつもりは無くて、芸術作品を撮ったんだろうと推察しますが、そこで冒頭の「芸術に社会的責任はあるか」です。

無邪気な困ったちゃんに対して、よく「あの人はいい人なんだけどさ、悪気がないのが一番困るよね」という言葉が囁かれますが、この映画に対してはまさにそんな複雑な気持ちとしか言いようがないのでした。

これを上映する際には、アラン・レネの『夜と霧』あたりを同時上映しないと、バランスが取れないかもしれませんね。


●おまけ
・本作品を観ようと思えば、全編Googleでも観られますが、あえてリンクしません。ただ映画館のスクリーンで観るのとはやっぱり迫力が違いますので、クラッとはしないだろう。

・レニ・リーフェンシュタールといえば、ベルリン・オリンピックの『民族の祭典』も国威発揚映画と言われてますが、これは美しいことは確かだけど、元ダンサーであったリーフェンシュタールの身体美とか健康美に対する執着心がこれでもかと映し出されて、ちょっとお腹いっぱいでした。そういえば、聖火リレーもナチスが考えたんだよね。

・アフリカのヌバ族の写真集制作の際の数々の逸話、そして71歳でスキューバのライセンスを取って、100歳で映画監督という、リーフェンシュタールのガッツは本当にすごいです。あまりに純粋すぎて時代に翻弄されたことが彼女の悲劇でしょうか。
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Commented by りりこ at 2006-10-12 15:06 x
これはホントにすごいよねえ。そんな映画なのにも関わらず、
後世多くの映画やらコンサートの演出なんかにも影響を与えてますしね。
バランスと言ったら、次の映画紹介は、「夜と霧」ですか?ふふ。
Commented by rivarisaia at 2006-10-12 23:35
SW エピ4のラストもそうだとアメリカのWikiにあったけど、
整列の美学としてやっぱり的を得てるんだわね。
今日は、お約束として「夜と霧」で。(→やや落ち気味)
by rivarisaia | 2006-10-11 23:58 | 映画/洋画 | Comments(2)