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見たもの読んだものについての電子雑記帳


by 春巻まやや
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アラビアの医術

先日読んだこの本がなかなかおもしろかった。


アラビアの医術』前嶋信次著 平凡社

本邦初の原典完訳『アラビアン・ナイト』を手がけた前嶋氏が、ユニークな逸話や史実を織りまぜながら、楽しく読ませるアラビア医学の系譜。

アラビア医学とは、中近東から中央アジア、インド、北アフリカ、イベリア半島にまで広がっていた医学を指し、この分野で活動していた人々にはキリスト教徒やユダヤ教徒も含まれているので、必ずしもイスラム医学というわけではない。エジプトやメソポタミアの医学をベースに、ギリシアやインド医学が入り込んで発達し、中国医学にも影響を与えているので、時折、中国の話もちらりと出てきます。

殺人マシン「毒娘」もおもしろかったけど、とりわけ興味深かったのは、いかなる毒にもすばらしい効能をもつ、ギリシャ伝来の「解毒剤テリアカ」の話。澁澤龍彦の本にもチラッと出てた気もするけど。

アラビア語でディルヤークまたはティルヤークというテリアカ(theriaca)は、「皇帝ネロの侍医だったギリシア人アンドロマコスが工夫し、ガレーノスが改良を加えた」という薬で、古来中国を経由して日本にも伝来しているし(「底也伽」「底野迦」と書く)、アラビアの医師からヨーロッパにも伝えられた。さらに、パリやウィーンの国立図書館には、12世紀末の彩色本『テリアカの書』が残されているそうです。

へえ、写本! テリアカの書!

アラビアの医術_b0087556_1853050.jpg

写本辞典として使用中の『Masterpieces of Illumination』を見てみたら、p.146-147に出ている「Kitab ad-Diryaq/ Kitab al Diryaq (Book of Antidotes)』がそうでした。

また、イタリア語では「Triaca または Teriaca」と綴るようで、ボローニャの薬局「Reale Farmacia Toschi」が昔のテリアカを所有していることを知る。結晶化しているけど、黒いジャム状の薬で特徴的な香りがあるらしい。同薬局のサイトに写真が出ています。

そういえば、小説『ペルシアの彼方へ—千年医師物語1』(ノア・ゴードン、角川文庫)の舞台が、中世のヨーロッパ〜ペルシアでした。こちらはあくまで小説ですけど、当時、ヨーロッパにくらべてアラビア医学の水準がいかに高かったのかが伝わってくる話です。
by rivarisaia | 2008-01-27 19:03 | 書籍 | Trackback | Comments(0)