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カテゴリ:本( 347 )

All the Birds in the Sky

表紙がとても気になって読むことにした本。ちょっとシュールで変わった話で、万人受けはしなさそうだけど、私は好き。

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All the Birds in the Sky』Charlie Jane Anders著、Tor Books

パトリシアは、6才のとき、傷ついた小鳥を助けようとして動物と話せることに気づき、自分にはどうやら魔女の素質があるらしいと知る。

ローレンスは、サイエンス・ギークの天才少年で、家に閉じこもってコンピュータの前で過ごしてばかりいるので、両親から心配されている。

友だちのいないふたりは、あることをきっかけに仲良くなるが、ローレンスがパトリシアの能力を目のあたりにした日から、ふたりの関係はぎくしゃくしはじめる。ローレンスは彼女を避けるようになり、友情にはヒビが入ったまま、ふたりは別々の道を進むことになった。ローレンスはサイエンススクールに進学し、パトリシアは知られざる魔法学校へ。

そして月日は流れ、大人になったふたりはサンフランシスコで偶然再会する。

その頃、あちこちで気候変動による大規模な災害が増加していた。ローレンスは、地球を救うための科学的な解決策を探るべくシンクタンクで働いており、パトリシアは魔女のコミュニティの一員としてひっそりと人助けをしていた。

しかしやがて世界は滅亡へと進みはじめる……

とまあ、こんな調子の話で、こうやってざっと書くと、さして変でもない、よくある話のような気がするけど、このストーリーの枠組みのあちらこちらにヘンテコ要素が挟まれているので、全体的になんとも奇妙な雰囲気を醸し出しているのだった。

たとえば。

小鳥を救うためにパトリシアが向かった、「鳥の議会」が開かれる森の奥の「The Tree」。そこで提示される「Endless Question」。ローレンスが作った「2秒間タイムマシン」。ふたりの命を狙う「名も無き暗殺団」の男。意志を持ち始めるAI。寂れたモールにある秘密の古本屋、魔法の代償……

物語の前半と後半ではトーンもがらりと変わる。ファンタジーっぽい児童書のような、どちらかというとほのぼのしたところの多かった前半とはうって変わって、後半はロマンスもあるけれど、SF、ディストピア、バイオレンスの色合いがより濃くなる。この展開にとまどう人もいそうだし、盛りだくさんなヘンテコ要素にどんな必然性が?と首かしげてしまう人もいそう。この本に向いてる人は、この点を楽しめる人。

パトリシアは自然(ネイチャー)、ローレンスは科学(サイエンス)を象徴していて、自然と科学は対立することも多いけど、互いに協調しないと地球/人類は救えない、というのが全体のテーマ。後半はかなり酷いことがたくさん起こるけれども、希望を感じさせる終わりかた。このあと、世界はどうなったのかなー。

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by rivarisaia | 2017-02-16 21:16 | | Comments(0)

small great things

ジョディ・ピコーの新作は「差別」がテーマです。ページターナーで、一気に読んでしまった。日本において自分はマジョリティに属しているという人(私も含まれます)は特に読むといいですね。

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small great things』Jodi Picot著、Ballantine Books

シングルマザーでベテラン看護師のルースは、病院の産科病棟で働く唯一の黒人女性で、同僚からの信頼も厚い。

しかしある日、ルースが新生児の世話をしていると、赤ん坊の父親から「すぐに出ていけ、そして上司を呼べ」と言われてしまう。赤ちゃんの両親は過激な白人至上主義者だったのだ。

面倒を避けたい病院側はカルテに「アフリカ系アメリカ人の職員はこの患者に触れてはならない」と記載し、ルースは担当を外される。

そして、事件が起きた。

新生児室にたまたまルースしかいない時に、突然、その赤ん坊の呼吸が停止してしまうのだ。子どもに触れるのは禁じられているけれど、看護師としてはすぐに対処をしなくていけないというジレンマに陥るルース。彼女はその時、いったいどうしたか。

結果的に子どもは助からず、ルースは子どもの親から殺人罪で訴えられる。彼女の弁護士を引き受けたケネディは、裁判で人種差別問題を持ち出すのは得策ではない、とルースに伝えるのだが……

語り手は3人。黒人女性のベテラン看護婦ルース、白人至上主義者の父親ターク、そしてルースの弁護を請け負う白人の女性弁護士ケネディ。

あとから考えると、ルースのパートは事例集に出てきそうな典型的なエピソード満載なのがやや気になるし、今のアメリカを考えるとエピローグも楽観的すぎるかもしれない。でもピコーが本当に伝えたいことは、タークとケネディのパートにある。

タークを見て、多くの人はこう思うはず:白人至上主義者って頭おかしいんじゃない? 自分は絶対にこんな差別はしない。

しかしケネディはこう言う:地球上の白人至上主義者をひとり残らず火星に追いやったとしても、差別はなくならないのです。

なぜなら偏見を持っていない人などいないから。それに、レイシズムはヘイトだけの問題ではなく、力を持つ者と持たざる者の問題でもあるから。

著者あとがきを読むと、ピコーは黒人読者からも白人読者からも反発がくることは覚悟の上でこの物語を書いたことがわかる。私が楽観的すぎると感じたエピローグも、現実に起こりうることだった、というところに、おそらくピコーは「決して希望を捨てないで」という想いを込めたのではないか。教科書的な小説という批判もあるかもしれないけど、考えるきっかけになる1冊だし、今読まれるべき本だと思います。



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by rivarisaia | 2017-01-27 19:09 | | Comments(2)

今年の「これを読まずして年は越せないで賞」も無事決定いたしました!
冬休みや新年の読書の参考にしてくださいねー。


I. 児童書/YA部門:『Raven King』Maggie Stiefvater
*Raven Cycleシリーズ4部作全体として評価

YAのファンタジーは似たりよったりの作品が多いなか、独特な物語と世界観を味わうことができる、非常に読み応えがあるシリーズなので、大人の読者にももちろんおすすめ。エリート男子校に通う4人の少年+ヒロインの少女という組み合わせが、日本だと『花より男子』を連想する人もいそうですが、似てるのは4人+1人っていうところだけです。

1作目から順番に次のようなタイトルになっています。
『The Raven Boys』 (The Raven Cycle, #1)
『The Dream Thieves』 (The Raven Cycle, #2)
『Blue Lily, Lily Blue』 (The Raven Cycle, #3)
『The Raven King』 (The Raven Cycle, #4)


II. ノンフィクション部門:『Becoming Nichole』Amy Ellis Nutt

こちらは私、感想書いていました。

III.フィクション(大衆小説)部門:『Before the Fall』Noah Hawley

著者は、アメリカのドラマ『BONES』や『ファーゴ』の脚本を書いているノア・ハウリー。乗員乗客11人のうち、たった2名が生還するというプライベートジェット機の墜落事故をめぐる話で、ミステリとしても読めるけれど、人間の弱さや醜さ、人生の選択肢などについて考えてしまうような小説です。

IV. フィクション(文芸小説)部門:『The Nix』Nathan Hill

私の感想は以下。これは今年、最大級にオススメ。

そして、今年の栄えある大賞は

『The Nix』

そして次点が『Becoming Nichole』に決まりました!

ツイッター会議や候補作の詳細については渡辺さんの「洋書ファンクラブ」や Togetterまとめ をじっくりお読みください。

では、来年も楽しい読書ができますように!


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by rivarisaia | 2016-12-30 22:30 | | Comments(0)

The Sun is also a Star

1作目の小説『EVERYTHING, EVERYTHING』がベストセラーになって、来年公開予定で映画化が決定している Nicola Yoonですが、2作目もこれまた評判がよくて、これまた映画化するみたい。社会的にもタイムリーに移民問題を扱っているのですが、ちょっと切ないラブストーリー。

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The Sun is also a Star』Nicola Yoon著、Corgi Childrens

Natasha:ジャマイカ生まれのナターシャ。家族でアメリカに移住してきて、もう10年もニューヨークに暮らしているけれど、一家は不法滞在であることが当局に発覚して、国外退去を命じられた。

Daniel:韓国系アメリカ人のダニエル。韓国からアメリカに移住してきた両親はヘアケア・ショップを営んでいる。詩を書くのが大好きなダニエルだが、両親はダニエルをイエール大学に入れて将来は医者になってほしいと考えている。

その日は、ナターシャのアメリカ最後の日。

なんとかアメリカに残ることはできないかと藁にもすがる思いで奔走するナターシャは、街中で偶然ダニエルと出会って……。

夢は決して叶わないし、宿命や運命なんて全く信じないというナターシャと、詩人であるがゆえにロマンチストなダニエルという、まるで正反対なふたりのたった1日のラブストーリー。でも決して閉じた世界ではなく、どこか広がりを感じさせるのは、ふたりの1日のちょっとした瞬間に交錯した人たちのエピソードが挿入されているからかも。ふと交わした一言や、たまたま遭遇した出来事によって、人生は大きく変わることもある。

世代の違いから生じる価値観の差、人種による偏見など、移民が抱える現実的な問題についても触れられていて、世の中うまくいくことばかりではないとしみじみと感じるけれども、いつもどこかに希望は転がってる。人生って何があるかわからないよね!という終わり方もとても良いです。

ナターシャの章、ダニエルの章…と交互に語り手が変わる構成で、ひとつの章が短い上に英語も読みやすいし、なによりふたりがどうなってしまうのかスリリングなので、英語で何か読んでみようかな、という人にもおすすめ。

追記(12/28/2016):『Everything, Everything』(難病の女の子が主役のラブストーリー)も読みましたが、断然こちらの『The Sun is also a Star』のほうをおすすめします。逆に『Everything〜』はいまひとつだった人も、こっちは大丈夫だと思いますよー。


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by rivarisaia | 2016-12-27 22:55 | | Comments(0)

The Nix

評判が良くて気になってた本ですが、すごく面白かった! これは必ず邦訳出るはず。

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The Nix』Nathan Hill著、Picador

作家…といっても全然本書けてない Samuel(サム)は田舎の大学で教師をしている冴えない男で、オンラインゲームにはまっている。

ある日、サムが子供の頃に家族を捨てて失踪していた母親の Faye が事件を起こし、インターネットやニュースメディアの注目の的となる。高校時代の初恋の人と結婚したごく普通の田舎の女性だったはずの母親は、メディアによれば、60年代には過激なヒッピーで売春婦だったというのだ。

職場では厄介な教え子とのトラブルを抱え、おまけに出版エージェントから多額の前払い金の返却を求められて後がないサムは、”時の人”となった母親の本の執筆をエージェントに確約して挽回しようとするが……。

若かりし日の母親の秘密を探る物語は、サムの父親のHenry、オンラインゲーム仲間のPwnage、サムの子ども時代の友人Bishop、Bishopの双子の妹でヴァイオリンを弾くBethanyなど、さまざまな人々の物語と絡みあいながら、サム自身の過去と現在、そしてノルウェーからアメリカに渡った祖父の過去へとつながっていきます。

章ごとに中心人物と時代が変わり、ウォール街デモが行われている現代のアメリカ、50~60年代の中西部、80年代のサバービア、1968年のシカゴ民主党大会、そして第二次世界大戦前後のノルウェー、と読者はあっちに飛んだり、こっちに飛んだりしながら、笑ったり、やるせない気持ちになったりしつつ物語を追いかけていくうちに、最初は断片的だったエピソードが最後にはぴっちりとはまって壮大な絵巻物が完成しているし、クセのある登場人物全員がとても愛すべき人々になっている(イラつくキャラもなぜか許せる)。

タイトルの「Nix」は、最初は60年代あたりのスポーツか何かのグループの名称?と勝手に思ってたんですけど(だって、野球チームとかにありそう)、ノルウェーはじめスカンジナビアの民話に登場する水の精霊で、人を魅了して水中に引き込んでしまう。ヴァイオリンを弾いて人を惹きつけるとも言われているようですが(だからベサニーが弾くのはバイオリンなのかな)、本書では「最も愛しているものに、最も深く傷つけられる」というメタファーにもなってます。

『The Nix』はメリル・ストリープ主演でドラマ化の話も出ていて、本の内容からして映画向きではないので、ミニシリーズだったらいいかも。配役をあれこれ想像して、しばらく楽しめそうです。ふふふ。


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by rivarisaia | 2016-12-26 19:27 | | Comments(0)

遅ればせながら、今年もやります「これを読まずして年は越せないで賞」の候補作リストが出ました!

詳しくは渡辺さんのサイトをご覧ください!
今年もまたもや感想を書けてない本がいっぱいあるのですが、ツイッター公開審査までに全部は無理そうだけど数冊くらいは書けるかな。

公開審査は12月29日19:00〜を予定しています。ハッシュタグは #これ読ま、横やり大歓迎です。では、今年もお楽しみに!

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by rivarisaia | 2016-12-23 01:23 | | Comments(0)

White Trash

先月はこんな本も読んだのだった。タイトルがズバリ「ホワイト・トラッシュ」(直訳すると白人のクズという意味)という歴史書。

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White Trash: The 400-Year Untold History of Class in America』Nancy Isenberg著、Viking

英国がジェームズタウンに最初の植民地を作った時代から現代にいたるまで、社会的階級の観点からみたアメリカの詳細な歴史。著者はルイジアナ州立大学のアメリカ史の教授。

ネイティブアメリカンや黒人の歴史に関する本はいろいろ出てるし、マイノリティが抱える社会的な問題についても語られることは多かったけど、アメリカの白人貧困層に関しては、白人はマジョリティだし人種問題のほうを優先していて、じっくり考えてみたことはなかった。

英国と違って階級制度はないと思われがちなアメリカにも、それはしっかり存在しており、雑な言い方をすれば、新大陸という「不毛な土地」にイギリスが最下層に位置する不要な人間をどんどん送り込んだ植民地時代に端を発する。そこに、奴隷制度などから生じた人種問題、優生学、キリスト教的思想が絡まり白人優越主義が生まれるけど、しかし南部の貧乏白人はある面においては長らくアフリカ系の奴隷以下の状況だったりもした。

歴史を振り返ると社会の下層に位置する人々はどこの国も似たような状況で、アメリカの白人貧困層が特別ではないんだけども、改めて19世紀から20世紀初頭の、sandhiller や clay-eater と呼ばれていた彼らの状況もやはりひどくて、1913年に撮影された、一般的な白人青年と貧困層の青年の写真を比べると身長や体格や顔つきからして衝撃的に違う。女性や子供の立場も悲惨きわまりない。ちゃんとした家庭の人間は子供をたくさん産むべきだけど、「価値のない階層」に属する南部の白人は優生学的視点から避妊手術をするべきともされた。そんな時代があった。

近年になっても、「田舎の学のない貧しい白人階級」としてある種のステレオタイプに押し込められ、メディアなどでも揶揄されることが多く、経済的な点においても自分たちが陥っている現状から抜け出すことはなかなか難しい。

こうした流れをふまえると、白人貧困層の怒りや無力感もわからないでもない。だけれども、マジョリティである白人だって貧困層はマイノリティよりひどい立場にあるのだとか、マイノリティのほうが優遇されているではないか、など、どちらが悲惨かという不幸自慢のような方向にいくのは間違ってる。

著者は結びで、これまで米国社会は「私たちとは違う」として白人の貧困層を見て見ぬふりをしてきたけれど、「彼らは私たちなのである」と書く。教科書に名前が残るのはエリート層だけど、いつの世も名もなき農民や労働者層が国を支えてきた主体であって、ときどき政治は社会の大半を占めるそうした層のことを置いてけぼりにしてしまう。これもアメリカに限ったことではないですね。


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by rivarisaia | 2016-12-08 21:53 | | Comments(0)

Hillbilly Elegy

ちょうどこの本を読んでた時期は、アメリカ大統領選があのような結果になるとは想像してなかった頃で、そもそも本書を読もうと思ったのも「著者の祖父母がアパラチア出身」という理由でした。何度か書いていますが、私はアパラチアを舞台にした小説に興味があるので、アパラチアという言葉に目を引かれるのである。

本書は小説ではなくて、メモワールです。

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Hillbilly Elegy: A Memoir of a Family and Culture in Crisis』J. D. Vance著、Harper

オハイオの貧困家庭で生まれ育ったけれども、その環境から脱出してロースクールに通い、今ではカリフォルニアで働いている J. D. ヴァンスが自分の生い立ちを記した本です。ヴァンスの育った家庭環境は、アメリカ白人貧困層あるあるエピソードに満ちている。

さて、本書の内容については、渡辺由佳里さんのブログに詳しいのでそちらをお読みください。

必ずしもトランプに票を入れた大半が白人の最貧困層という単純な図式でもなかったにせよ、いずれにしても今回のアメリカ大統領選は「白人貧困層」が注目されるきっかけとなったし、日本のメディアでも「ヒルビリー」という言葉を目にしたりもしました。

田舎者を指す蔑称のひとつである「ヒルビリー」を、白人貧困層の代名詞のように扱う日本のメディアもありますが、厳密にはちょっと違う。白人の労働者層や貧困層を指す蔑称には、レッドネック、ホワイトトラッシュ、といろいろあるのですが、ヒルビリーはその昔、アイルランドから移民として米国にやってきてアパラチア地域に定住したスコットアイリッシュの人を指します(したがって、例えばテキサスの田舎の白人はヒルビリーとは呼ばない)。

本書について「アメリカの話でしょ」と他人事としてとらえるのは簡単なのですが、読んでいて、これは日本にもとても通じる話なのでは…?と思う箇所が多々ありました。マジョリティの立場にある貧困層が抱える問題というのは、国は違っていても共通点があるんじゃないかな。だから日本の読者にもおすすめ。

考えさせられる点がいろいろあるのですが、そのひとつが対等な目線での教育やカウンセリングの重要性です。

「マウンテンデュー・マウス」のテレビ番組について著者が触れている箇所があるんですよ。これはABCのダイアン・ソイヤーがアパラチアの子どもたちの惨状について取り上げたドキュメンタリー(2009年)で、マウンテンデュー・マウスというのは、マウンテンデューやコーラを与えすぎて歯がぼろぼろに溶けちゃた乳幼児の口を指す。赤ん坊のミルクよりもマウンテンデューのほうが安いから、哺乳瓶に入れてあげちゃったりするんだよね。そしてミルク代は別のものに消える。

ソイヤーのドキュメンタリー(「Children of the Mountains」)は私も見て暗澹となりましたが、J. D. ヴァンスいわく、ヒルビリーの人たちもこの番組を見てる。で、大きなお世話だよっていう気分になっちゃってる。

本書では、ヒルビリーの人たちに「ミシェル・オバマが嫌われるのは、子供にまっとうな食事をさせてないと言うから。彼女の主張は正論だから」というくだりがあり、マウンテンデューを哺乳瓶で与えちゃう自分たちがダメな親だってことは、他人から言われなくても重々承知なんだよね。でもまっとうな暮らしをしているよその人たちから指摘されると、まるで非難されているような気持ちになって、すっかり嫌になってしまうというのは、私にもよくわかる。正論は、時として上から目線で言われているように受け取られることがあるというのは、アウトリーチの際にとても注意したいところ。

もうひとつ考え込んでしまったのは、アメリカにおける軍隊のこと。

日本で安保法案が話題になった頃に見かけるようになった「経済的徴兵制」という造語があって、私はこの単語は、貧困の解決にも結びつかなければ、兵役が抱える問題の指摘にもならず、ただのレッテル貼りの詭弁でしかないので大っ嫌いなので使用しませんが、貧困家庭の出身者が軍隊に志願するというのはアメリカでは実際あります。志願の理由はさまざまです。

私の知人の場合は、大学の学費が途中で払えなくなった、高等教育を受けたい、将来役立つ技術が身につけられる、除隊後に安定した生活が送れる、といった現実的な理由に加えて、「国に貢献できる」という大義名分(これも重要ポイント)を誇りに軍隊に入った人がほとんど。

J. D. ヴァンスも高校卒業後、海兵隊に入隊していて、その経験が人生を変えたと語っています。それは精神面(それこそ努力すること、全力で取り組むことを学んだりとか)だけでなく、普通の生活に必要な基礎知識(銀行口座を開いて、お給料はそこに入れる、といった基本的なこと)もすべて軍隊で教わっている。それは、そうしたことを教えてくれる人が周りにひとりもいなかったからです。

私は軍隊自体を完全に肯定はしないのですが、知人たちを見ると、入隊したおかげで教育を受けられたり、手に職をつけられたり、除隊後も安定した収入を得られたりしているので、ちょっと複雑な心境になります。J. D. ヴァンスも入隊が人生の大きな転機になっている。

もちろん、イラクで戦死することもなく、帰還後にPTSDを発症して家庭が崩壊することもなかった彼らはあくまでラッキーな例であって、まるで使い捨ての駒のような人生を送る人たちもごまんと存在するし、アブグレイブの事件に関与した女性兵士のひとりはアパラチア地域のトレイラーパーク育ちだったと記憶しています。 でもね、軍隊の代わりに底辺の彼ら・彼女らをサポートする機関って他にあるのかなと考えると、やっぱり私は「経済的徴兵制」なんて軽い言葉で批判することはできないですよ。


久々のアパラチアネタでものすごく長くなっちゃったので、本日はこの辺で終わり。

追記:
こんな記事も見つけたから参考までに。


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by rivarisaia | 2016-12-05 21:10 | | Comments(4)

先日、ジェンダー・フルイッドの子どもに関する小説を紹介しました。今回は、トランスジェンダーの子どもに関するノンフィクションです。

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Becoming Nicole: The Transformation of an American Family』Amy Ellis Nutt著、Random House

メインズ夫妻は、ジョナスとワイアットという一卵性双生児の男子を養子にした。双子が歩き始めるくらいの年齢になったとき、ふたりの性格がまったく違うことが明らかになってくる。ジョナスが好きなのはスターウォーズやパワーレンジャー、男の子向けのおもちゃ、それに対してワイアットが大好きなのはバービーやディズニーのお姫様なのだ。やがて3歳になると、ワイアットは、どうして自分にはおちんちんがあるのかと訴えて泣いてしまったりするようになる。

父親のウェインは典型的なアメリカの白人男性で、共和党の保守的な考えの持ち主であり、息子が大きくなったら一緒にキャッチボールをしたり、狩りに行ったりしたいと考えていたし、最初はワイアットの「女の子のような面」は見ないふりをしていた。近所の目も気にしていたし、息子が女の子の格好をするのを快く思ってなかった。

いっぽうで、母親のケリーは、ワイアットは別に変じゃないし、病気でもなく、ただちょっと「違っている」だけ、という考えで、みんなと同じ「普通の」家族を求めていた夫ウェインに対しても普通の家庭なんてものはないと言い、ワイアットを理解しようと積極的に行動する。

このように初めは正反対の考え方だった両親だけど、どちらも子どもを愛していて、やがては父親もワイアットは「男の子の身体に生まれた女の子だ」という事実を受け入れられるようになる。そしてワイアットは性転換の治療を受けて、名前をニコールに変えるのだ。

家族からも、友だちや先生からも受け入れられていたニコールだったが、5年生になった時に事件は起きた。

「孫の通う学校に、男のくせに女だといって女子トイレを使っている生徒がいる」

そう聞いたある男性が、それは由々しきことであり、絶対に許せないと考えたのだ。

彼は孫をそそのかし、ニコールと同学年だったその少年は、ニコールに対して執拗な嫌がらせを始めるようになる。それだけではなかった。キリスト教右派のその男性は学校に激しく抗議し、保守的な宗教団体のサポートを得て圧力をかけるようになったのだ。

最終的に学校は男性側に屈し、ニコールは転校を余儀なくされてしまう。

この件は後に裁判になり、2014年、メイン州の最高裁はニコールと家族の訴えを認め、学校がトランスジェンダーの生徒に対して女子トイレを使用させなかったことは権利の侵害であるとした。2014年って、かなり最近の話だ。

これまで私はトランスジェンダーの人のトイレの問題について、別に大したことじゃないのではと考えていたところがあった。しかし、たかがトイレでは済まないことなのかもしれないと真面目に考えるようになったのは本書を読んでから。またトランスジェンダーである本人やその家族が直面する問題について考えるきっかけとなる本として、本書はわかりやすくてとてもよい1冊だと思う。

ニコールの両親はすばらしい人たちだし、双子の兄弟であるジョナスのことも誇りに思う。特にジョナスにはニコールに注目が集まってしまうがゆえの苦労というのがたくさんあったはず。

また、偏見というのは後から形成されるのではないかと感じたのが、「メインさんちの”男の子たち”についてどう思う?」と聞かれたある子どもの答え。

「ママ、メインさんちの “子ども” についてでしょ? あれは男の子と女の子だよ。ワイアットはたまたまおちんちんがついてるだけで、女の子だよ」

偏見は大人が生み出していることも多いのではないかと思うと、私たち大人の責任は重大だよね。




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by rivarisaia | 2016-11-28 20:21 | | Comments(2)

ジェンダーは男性・女性の二択と考えられがちだけれど、実際にはそうではなくて多様な性別が存在する。男女の間を揺れ動く、「Gender Fluid:ジェンダー・フルイッド」のティーンが主人公の物語。

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Symptoms of Being Human』Jeff Garvin著、HarperCollins

主人公のRileyは、自分のことをある時は男の子、またある時は女の子、はたまた別の時にはその中間と認識していて、幼い頃から自分のアイデンティティについて悩んでいたけれども、15歳の時「Gender Fluid (性別が流動的な状態にある人)」という言葉に出会い、まさに自分はこれだと認識する。

これまで通っていた私立の学校でイジメに遭っていたRileyは、公立の学校に転校するにあたり、「少年っぽい女の子」にもみえるし、「女っぽい男の子」にもみえる「ニュートラル」なスタイルでいくことを選択した(私立の学校では不本意な制服を着せられていた)。

自分の性別について他人にあれこれ詮索されたくないし、父親が議員だということもバレないように気をつけて、とにかく目立たずに周囲に溶け込もうとするRileyなのだが、「あれは男? 女?」と初日からさっそく注目をあびてしまう。

この本がよくできてると感心したのが、読者には最後まで、Rileyの生物学的な性別が明かされないところ。周囲から「男か、女か」と好奇の目で見られる主人公は、「どっちだっていいじゃん。知ってどうするの?」と思っているし、読者である私も「そうだ、そうだ」と共感するのに、それなのに。

読み始めた頃に、私の頭の片隅に「そうはいっても主人公の生物学的な性別ってどっちなのかな」という「好奇心」がよぎってしまったのだった。話の本筋とも関係ないのに。どうしてそれが気になったのか、ちょっと考え込んでしまった。

Rileyは自分が「Gender Fluid」だということを両親にも秘密にしていて、それを知っているのは精神カウンセラーの医師だけ。その医師の勧めもあって、自分の気持ちを正直に告白する場として、Rileyはブログを始める。中傷コメントもつくものの、ブログは共感を呼び、またたくまにフォロワーが増えて支持されるんだけど、それが別の問題を起こすことに…。

「人は見た目でジャッジしがちである」というテーマのほかに、インターネットでの発言に人はどこまで責任が持てるのかという問題や、ネットの炎上や嫌がらせ、そして性的暴行やアウティングといった重いテーマを幅広く扱っていて、いろいろてんこ盛りなので読んでいて辛くなってしまう部分もあるんだけど、Rileyの学校の友人SoloやBec、LGBTQのサポートグループのメンバーたちなど、脇役が魅力的なのがとても大きな救いとなっています。現実世界ではなかなかそうはいかないのかもしれない。でもサポートしてくれる人たちは必ず存在する。巻末には困った時に相談できる各種団体のリストも掲載されています。

著者が本書を書こうと考えたのは、友人と車に乗っている時、トランスジェンダーの少女が、女子のロッカールームを使用する権利を求めて学区を訴えたという話になったのがきっかけだったとのこと。これはもしかするとニコール・メインズの話かな? 次はニコール・メインズの本を紹介しますねー。



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by rivarisaia | 2016-11-25 23:49 | | Comments(4)