「ほっ」と。キャンペーン

円高らしいですね。最近の私の更新頻度の低さからわかるように、もう暑くてダラダラした気分になっていて世間ズレしているうえに気力がぜんぜん出ないのですが、洋書買うなら今だ、という気がしてきました。

さて、こちらは数年前にイタリアの古本屋から購入した料理本です。ルネサンスの料理人バルトロメオ・スカッピが1570年に出した本。といっても、当然ながら私が持っているのは、復刻版。
b0087556_22115070.jpg

L'Arte del Cusinare』M. Bartolomeo Scappi著 Edizioni Stedar刊

正式タイトルは『Opera dell'Arte del Cucinare』だと思うのですが、どこにも「Opera」の文字がない。なんで? まあ、細かいことは気にしないことにします。

見開きはこんな感じ。
b0087556_22115727.jpg


この復刻版は1959年にミラノで刊行されており、オリジナルがBook1〜6まであるので、たぶん6冊シリーズだったのではないだろうか、と推測。私がもってるのは、そのうちの1冊です。

復刻版とはいえ、紙に味わいがあっていい感じなんですよ。
b0087556_22173651.jpg

このようにですね、ざらついた風合いの紙でところどころ透かしが入ってる。小口(天地も)が化粧断ちされてないというか、アンカット製本のものを切ってひらいたかのようによれよれしてます。

b0087556_2212767.jpg

本文はこんな感じ。レシピが書いてあって、たまに赤い色の挿画が入ってる。

イタリア語の先生に見せたら、「昔のイタリア語というか、今は使わない言い回しがたくさんあっておもしろい!」と言っておりましたが、私はそのあたりの違いがよくわからないけど、見たこともない単語がけっこう出てきます。

そして巻末にはかなり楽しい挿画のページが!
b0087556_22114344.jpg

それぞれの挿画のタイトルは次の通りです。

左上:台所のようす  
右上:牛乳の作業(左ページ)/台所のようす(右ページ)
左下:コンクラーベに出される食事を再検査人に見せる場面
右下:台所に隣接した中庭のようす(左ページ)/野原での調理場(右ページ)

6冊シリーズのうちの1冊と前述した本書は、Book6にあたる「Libro de' Convalescenti」つまり「病み上がりの人のための食事」です。うむ…。どうせならお菓子のレシピがみたかったけど、これはこれでスープやおかゆのレシピ満載で、役立つときが来るかもしれません。

残りの5冊がどこかにあるかどうか、探してみようかなー。

ちなみに、バルトロメオ・スカッピの料理本はUniversity of Toronto Pressから『The Opera of Bartolomeo Scappi』というタイトルで776ページの英訳本が出ています。ちょっと高いんですが、776ページでスカッピに関する充実した解説つきだからね! これも読んでみたい。
[PR]
by rivarisaia | 2010-08-30 23:26 | | Comments(0)

先日は古代ローマの日常を知る1冊『古代ローマ人の24時間』を紹介しましたが、中世ヨーロッパの日常生活なら、入門書としておすすめの本を2冊。

1冊目はタイトルもズバリ直球。

b0087556_22202550.jpg

中世ヨーロッパの生活
ジュヌヴィエーヴ・ドークール著、大島 誠訳、白水社(文庫クセジュ)

ヨーロッパ、とありますが、もっぱら当時のフランスが中心。内容は「物質生活(住居、家具、衣服、食べ物)」「時の流れ(日々の生活、年間行事)」「生涯(誕生、教育、結婚、病気と死)」の大きく3つにわかれています。

本書もまた私にとっての重要ポイントである「トイレ」について、短いですがちゃんとふれてますし、日常の食事の献立や子どもの遊びについても記述があります。そんなに厚い本ではないけど、かなりの情報が網羅されています。簡潔に多くを盛り込むっていうのは、至難の業だと思うので、そういう意味でこの本はけっこうおすすめ。

これで図版がついていればもっと楽しいんだろうけど、図版は当時の地図の1点のみ。残念! でもこちらは手頃な入門書として読んでもらって、さらに興味がわいてきた人は専門書に進むとよいのではないでしょうか。

2冊目は中世ドイツの騎士と城の本。

b0087556_22594977.jpg

中世への旅 騎士と城
ハインリヒ・プレティヒャ 著、平尾浩三訳、白水社

そもそも騎士とはどういう人たちなのか、騎士道とは何か、といったところから、城の構造、食事、ファッション、娯楽、遊び、武器、十字軍、と多方面から騎士の生活について解説されています。著者は高校の先生だったらしく、どうりで楽しく読めるはずだと納得。

中世の貴族の食事はかなり胡椒がきいていた、というのは有名ですが、ワインにも胡椒入れて飲んでたとは知らなかった。どんな味になったんだろう(現代のワインと当時のワインは濃さが味も違うだろうから見当もつかない)。

あとこちらの本はですね、私の好きな『マネッセ写本』についても言及してますよ!騎士文学についての章があって、ほかにもニーベルンゲンやクードルーン、イーヴァインなども解説されています。


先日の古代ローマの本にしても今回の2冊にしても、その時代の人々に対する著者の愛情が感じられるんですよね。昔の人は現代人にくらべて過酷な条件下で暮らしていたけれど、だからといって「昔の人は大変だよね〜」と現代人の尺度で見ていない点がいいです。ま、ふつう歴史の本はそうなんだけど、一般向けに書かれた本には現代人の視点で比較するような内容も多くて、そうなるとけっこう大事なことを見逃してしまうこともあるよね。

フランス、ドイツ...ときたら次は中世イタリアか…。中世のイタリアは混沌としてるというかコムーネの時代。いずれにしてもドイツもフランスもイタリアも便宜上そのあたりの地域を指してるだけで、国としてはまだ存在してないですけどね。中世イタリアのコムーネ時代の入門書で何かいい本ないかしら。
[PR]
by rivarisaia | 2010-08-24 23:19 | | Comments(6)

古代ローマ人の24時間

最近、やや忙しくて映画に行けないので読書量がぐんと上がってる日々を過ごしているんですが、なかでも強烈におもしろかった1冊がこちら。本屋で立ち読みして、一度図書館で借りたんですけど、あまりにおもしろいので早速購入。2400円でこの充実した内容はかなりお買い得ですよ、みなさん!
b0087556_14482552.jpg

古代ローマ人の24時間—よみがえる帝都ローマの民衆生活
アルベルト・アンジェラ著、関口 英子訳、河出書房新社

起源115年トラヤヌス帝のローマのある1日を追う、ドキュメンタリーのような本。貴族から庶民、奴隷まで、ローマの日常生活はどんなことになっているのか、これまで専門書でしか語られなかった事柄を一般向けに紹介しようという試みで、タイトル通り、日の出から深夜0時までローマの1日を追いかけながら、古代ローマ人がどんな生活をしていたのか、作者と一緒に自分の目で見て歩いているかのような気分になれる1冊。

これ1冊で、貴族から庶民の住居やインテリア、ファッションや身だしなみ(化粧の方法やカツラ)、食事、時間の数え方、商店や市場のようす、宗教、子どもの遊びや大人の賭け事、学校、裁判、元老院、処刑、コロッセウム、トイレや公衆浴場、出産や性、宴会…とあらゆる古代ローマのあらゆる情報がつめこまれていて、しかもわかりやすくて楽しい。

古代ローマ人が指でどうやって数字を表していたかという図がついていたり、当時の1セステルティウスはどのくらいの価値があったのか、物の値段と現代の物価を比較するコラムがあったり、間にはさまれる図やコラムも興味深いです。

こういう本を待ってました!!

なかでもなるほど…と思ったのが、当時の奴隷制度における考察で、著者は当時の邸宅が抱えていた奴隷の数を現代の私たちの家の家電製品と置き換えて考えてみると、私たちの生活も似たようなものだ、と書く。
現代人にとっての家電製品は、まさに「人工的に造られた奴隷」なのだ。電気店(現代版「奴隷市場」)で選んで購入し、大切に使わないだけでなく、思い通りに動かない場合には手荒く扱うこともあり…(以下略)

そうか。そう考えてみたことはなかったけど、その通りだ。試算すると、「家庭内の電気コンセントは奴隷30人分の労働力と同等のエネルギーを供給している」そうですよ。なるほど(このように具体的なデータが出てくるのも本書のおもしろいところ)。

さらに本書がすばらしいのは、当時のトイレのようすも克明に描かれている点! とにかくどの時代・場所においてトイレがどうなってたのかというのは、何をおいても私がいちばん気になるところ(そして歴史の本ではあんまり記されない部分でもある)。

ひとつ個人的に残念なのは、原書には「古代ローマでのラテン語の発音と現代イタリアの学校教育のラテン語の発音の比較」の章があったらしいのですが、ラテン語の知識がないと理解できない内容だったので日本語版では割愛されているという部分です。ええー!それは読みたかったなあ。初歩ラテン語学習者にとっては数少ない役立ち資料のひとつになったのに。イタリア語版を入手して読むしかないのか…(遠い目)。

余談ですが、市場の章で1段落ほどヤマネを売ってる商店の記述もありますよ。でた、ヤマネ!と思いました。うふふ。

ドラマ『ROME』ファンはもちろん、あんまり古代ローマに興味がなかった人の入門書としてもおススメ。解説では古代ローマの番組が見られるRAIのページのURLも紹介されています。後でじっくり見てみよう!
[PR]
by rivarisaia | 2010-08-22 14:59 | | Comments(4)

薬のういろう

先週末は所用で静岡方面に出かけたのだが、その帰途でなぜか私たち一行は小田原に立ち寄った。暑くてヘロヘロだったのに、皆で小田原。それもひとえに「ういろう屋」に行くため。

ういろう屋本店は店舗の建築自体が壮観。これは入り口の上の屋根。
b0087556_22175631.jpg


本店には、お菓子のういろうと、薬のういろうの二種類がございます。私がほしかったのは薬のういろう。
b0087556_2218634.jpg

市川団十郎の「外郎(ういろう)売り」ってあるじゃないですか。「拙者親方と申すは、お立ち会いのうちにご存じのお方もござりましょうが、お江戸を立って二十里上方、相州小田原一しき町を〜」ってやつ。あの外郎売りのういろうがこの薬。余談ですが、演劇部だったときに外郎売りの台詞全部覚えたなー。今はもうところどころ忘れてるけど。

私が買ったのは1000円の箱で、中味はこのように仁丹みたい。
b0087556_22181561.jpg

味も仁丹に似ています。成分は漢方薬。ちょうど風邪の病み上がりで咳が出るので、大事になめることにしたんですが、効能も幅広く、「頭脳疲労」や「精神憂鬱」にもきくうえに「男女逆上を引き下げ神経を鎮む」とありますよ。

仕事でウツウツとしながらたまに逆上している私にピッタリではないか!

追記:ごめん!「頭脳疲労」や「精神憂鬱」にもきくうえに「男女逆上を引き下げ神経を鎮む」とあるのは、「妙香散」だった。まさにいま私は「妙香散」を飲んだほうがいいかもしれませんね。そして、週末やたらゲホゲホしてたのに、咳が止まってきたのは「ういろう」をなめていたおかげかも...。

他にも頭痛に効く「妙香散」という漢方の粉薬もあって、偏頭痛にもいいですよと言われたので買ってみました。なにせ偏頭痛もちなので、今度頭痛におそわれたらためしてみます。

ういろう屋さんのサイトはコチラ

和菓子も置いてあって、店内には喫茶室もあります。お菓子も美味しいよ。
[PR]
by rivarisaia | 2010-08-17 22:39 | モノ | Comments(3)

日本のいちばん長い日

終戦記念日といえばこの映画。去年もアップし忘れたから今年こそ!
日本人必見の映画だと思うし、こういっちゃなんだが、2時間半はあっという間のものすごいテンションでひっぱる非常にスリリングな展開です。

b0087556_1391196.jpg


日本のいちばん長い日』監督:岡本喜八

日本政府がポツダム宣言受諾の勧告を黙殺していたら、海外では「黙殺」を「無視」あるいは「拒否」と翻訳されて報道されてしまい、その挙げ句に広島と長崎に原爆を落とされ、さらには日ソ中立条約を破ってソ連が参戦してきた。

このままいくと本土決戦は避けられない。ポツダム宣言受諾か、本土決戦覚悟の戦争継続か、議論がまっぷたつに分かれるなか、1945年8月9日深夜、鈴木首相は天皇の御聖断を仰ぐべく御前会議を開く。ここで天皇自ら受諾を了解し、終戦へ向けて動き出すも、またもや事態は紛糾。

受諾に関する日本からの申し入れに対する回答の中に「天皇および日本国政府は連合国司令官に"subject to"する」という一文があり、"subject to"を「制限の下に置かれる」と解釈した外務省と「隷属する」と解釈した軍部が対立したのだった。

そこで8月14日、ふたたび御前会議が開かれる。天皇は「反対の意見もよく聞いたが、これ以上戦争を続けることは無理だと考える」と終戦の意を表明した。


ここまでが本作の前フリ。このプロローグの丁々発止も目が離せないけど、本筋となる「8月14日正午の御聖断から翌15日の玉音放送まで」の激動の24時間が凄まじい。

一度はじめてしまったものを終わらせることの難しさ。「生きて虜囚の辱めを受けず」と戦ってきたのに、「勝つ、勝つ」って言ってきたのに、いまさら無条件降伏なんてできるかよ、国が消滅しちゃうかもしれないんだよ、という言い分もわからないでもない。でももう続けるのは無理なんだよ。勇気をもって負けようじゃないか。

閣僚が終戦手続きに向けて奔走するなか、納得のいかない陸軍の一部の青年将校たちは戦争を続けるためにクーデターを起こそうとする(宮城事件)。近衛師団長を暗殺し、宮城を占拠し、玉音放送を阻止しようと必死に試みる。反乱兵士は放送会館も占領するが、決起声明を放送させろという彼らの要求をNHK職員は突っぱねる。首相官邸も襲撃され火が放たれる。

14日夜、玉音放送録音中にも、児玉基地からは特攻機が飛び立っていく。

緊迫感にみちた怒濤の24時間。教科書には「日本はポツダム宣言を受諾し、8月15日正午に天皇のラジオ放送で戦争終結が国民に伝えられました」と1文で書かれる出来事の背後で、こんなことが起きていたなんて、この映画を観るまで私は知らなかった。この映画、高校の歴史の授業で見せたらいいのになあ。

余談ですが、鈴木貫太郎首相ってずいぶん肝が座ってる人だなと思っていたら、二・二六事件の体験者(襲撃されたが助かっている)だった。Wikipediaの数々のエピソードもすごい…。
[PR]
by rivarisaia | 2010-08-15 20:10 | 映画/日本 | Comments(8)

もうじき日本全国お盆休み(いや、もうすでにお盆休み?)ですが、東京のお盆は7月だし、むかしから8月中旬はお盆というよりは終戦記念日という印象のほうが強い。

もちろん私は戦争体験者ではないんですけど、祖父母や親の世代は戦争体験者であるからして、親戚一同から世界大戦時のあれやこれやを子どものころからいろいろ聞いており、これを嫌というほどちゃんと聞いておいたのは、今にしてすごくよかったと思う。

ただ運がよかったことに、うちの親戚は父方も母方もそれほど悲惨な経験はしていない。戦死した親戚もいるし、家自体は空襲でぜんぶ焼けちゃいましたけどね。焼けなかったら、けっこう興味深い昔のモノがいっぱい残ってたと思うけどね...。そんわけで以前は家の庭に深い穴を掘ったりすると、溶けたガラスの破片が出てきたりしたこともあった。最近は見ないから(そう深い穴掘らないし)、取っておけばよかったな。

それはさておき、昨年亡くなった祖父の遺品を整理していたら、こんなものが。
b0087556_23292844.jpg

軍隊手帳です。大きさはてのひらサイズ。iPhoneよりひとまわり大きいくらい。

b0087556_23293728.jpg

なかはこのようになっており、勅諭集と戦陣訓の冊子が入っています。

陸軍の手帳だけど、使用された形跡がなく(つまり保存状態がよい)、兵役欄も空欄で「二国」とあるので、これはつまり

いざというときに召集される第二国民兵


ということですね。祖父はふたりとも職業柄、徴兵されなかった。それはとてもラッキーだった。手帳の後ろにはポケットがついておりまして

b0087556_23295341.jpg

遺髪と遺爪と書かれた包みと、第二国民兵軍事教育修了証の紙が入ってました。あとじいちゃんの当時の名刺。知らなかったが、職場は銀座だったのかー。

勅諭をあらためてちゃんと読んでみるに、なるほどと思える箇所もあるとはいえ、全体的にこれを盲信して突っ走った結果が軍の暴走状態かと思うとなんともいえない気分におちいることはなはだし。
[PR]
by rivarisaia | 2010-08-12 23:59 | モノ | Comments(0)

私は寝ている間にたくさん夢をみるタイプで(というかみた夢をけっこう覚えているタイプ)、さらにすごくいい所で目が醒めたときには二度寝して続きをみたり、嫌な夢だった場合は、途中で巻き戻したり、寝なおしてつづきをみたりすることもある。ここ2日ばかし、風邪で寝込んでいたので夢を見ほうだいでした!

夢の世界はカオスだけどそこがまた楽しい。そんなわけで、この映画も楽しかった!
b0087556_1855422.jpg

インセプション(Inception)』監督:クリストファー・ノーラン

他人の夢に潜入してアイデアを盗むという産業スパイが、今度は他人の潜在意識にアイデアを植えつける(=インセプション)という任務を引き受けることになる、というのがおおざっぱなあらすじ。

私にとって本作の主役は、産業スパイ・チームのリーダーであるコブを演じるレオナルド・ディカプリオでもなければ、仕事の依頼人サイトウを演じる渡辺謙でもなく、コブの相棒アーサーを演じる『(500)日のサマー』のジョセフ・ゴードン=レヴィットでございましたよ。

無重力空間と化したホテルで大活躍でしたよねえ、ゴードン=レヴィット。空中遊泳するゴードン=レヴィット。一層前の橋から落下するワゴン車の中で腕がぶら~んとなるゴードン=レヴィット。すてきー!

イームスを演じるトム・ハーディも頼りになる兄貴っぽくてかっこよかったけどね。『スペル』であやしい霊媒師を演じてたディリープ・ラオも今回もあやしくてよかったけどね。

でもやっぱりゴードン=レヴィットが最高。

さて、ひとしきりゴードン=レヴィットをホメたたえたうえで、以下盛大に結末部分にふれます。

最後のあの場面をどうとらえるのか、でひとしきり考えたのですが(夢?それとも現実?)、どっちもありえるかもしれないと思いはじめてきました。

くるくる回るコマはガタガタッと止まりそうな気配を見せているし、夢のなかでは決して振り返らなかった子どもたちも振り返る。よく見ると子どものようすも夢の中と最後のシーンではちょっと違うような気がする。父親との確執を夢の中で解消したキリアン・マーフィーのように、妻のことでトラウマを抱えていたディカプリオが、最終的にはそれを克服して現実に戻ってきたと考えると、この映画はディカプリオの再生の物語ともとれる。

いっぽう、ユスフの怪しげな地下のラボで、老人が「彼らの夢が彼らの現実なのです」と言ってたように、ディカプリオの夢がディカプリオの現実という線もあるかもしれない。むしろ映画全体がディカプリオじゃない誰か別の人の夢かもしれない。

ひとつ謎。トーテムって個人のものなんですよね。でもってトーテムの重要なのは触った感じや重さであって、回りつづけるかどうかじゃない気がするんですよね。さらにディカプリオのトーテムであるコマは本来は奥さんのトーテムだったってこと?奥さんのトーテムをリンボでゲットしてましたよね?ますますディカプリオのトーテムの存在が謎になってきた。なんか見落としてるかも。私はもう1回観るべきでしょうか。


「インセプション」の映画詳細、映画館情報はこちら >>
[PR]
by rivarisaia | 2010-08-10 18:58 | 映画/洋画 | Comments(2)

怪人マブゼ博士

ある晩、ハードディスクに録画していた映画を整理している最中に、ふと冒頭だけ見始めたらそのままハマってしまい、ハタと気づいたら最後まで観てしまっていた。すっかり真夜中。真夜中にマブゼ博士。

怪人マブゼ博士(Das Testament des Dr. Mabuse)』(1932年)
監督:フリッツ・ラング

『ドクトル・マブゼ』をきちんと通して観たことがない、というか断片的に観た記憶しかなく(だって長いじゃない、あれ)、『M』の記憶ははるか彼方遠くへ追いやられてしまっている私ですが、その2作の続編といえる作品です。こちらはトーキー。

ローマン警部のもとに、元部下のホフマイスターから1本の電話がかかる。ある事件の真相をつかんだ!というのだが、ホフマイスターはそのまま失踪。彼の部屋に「マブゼ」という文字が残されていることがわかる。しかし、かの有名な催眠術師で犯罪者の怪人マブゼ博士はバウム教授の精神病院に監禁されていた…


この映画、画面の構図がけっこう好き。いかにもドイツっぽい雰囲気のセットも好きだし、ローマン警部のキャラも大好き。そして爆破やカーチェイスなどのアクションあり、愛は勝つ!というロマンス要素あり、社会の秩序を乱すテロルの恐怖あり、と結構もりだくさん。

ロマンス要素の部分については、「あなたが犯罪者でもこれから更生したらいいじゃない(はあと)」とウットリした笑顔のヒロインが別の意味で恐かったりもするんですけどね…。まあ、いいか。若い人の恋愛は一途だねえ!

それはそうとマブゼ博士はある種の帳面派。『セブン』のエントリで帳面派は電波な人の可能性があるとも書きましたが、究極の帳面派は凡人の域をやっぱり超えますね。マブゼ博士は帳面というよりは紙片なんですが、とんでもない量の犯罪指示メモを…。それをページ順に整えて製本したのはバウム教授です。

マブゼ博士の犯罪帳面(あえて帳面と呼ぶ)の手書き文字はなかなかかわいらしいよ。几帳面な文字というだけでなく、ぐりぐりと太字で見出し書いたりしてさ。

密告』に出てくるカラスの密告書の文字もかわいらしかったけど、嫌ですよねえ、見た目かわいいのに内容が恐ろしいって。ドイツ語やフランス語が読めなかったら、「わーステキ!おしゃれ!」とかなんとか言って切り貼り帳に貼付けちゃったりするかもしれないですよ。

さらに余談ですが、入院中のマブゼ博士が、マーロン・ブランド演じる『ゴッドファーザー』の入院中のドン・コルレオーネにちょっと似てると思いました。

『ドクトル・マブゼ』をちゃんと観たい気分になったけど、いかんせん長いので気力と体力が…。
[PR]
by rivarisaia | 2010-08-06 17:32 | 映画/洋画 | Comments(0)

Amazonさんから何度も勧められるので、Kindleに落として読んでみたところ、なかなかいい話だった。ニューベリー賞受賞作です。

b0087556_2211593.jpg

When You Reach Me』Rebecca Stead著 Wendy Lamb Books

ニューヨークのアパートでお母さんとふたりで暮らしている小学校6年生のミランダが体験する不思議な物語。ミステリーでもあり、SFでもあり、友情や初恋の話でもあります。

突然自分を無視するようになった親友、新しくできた友だち、苦手な友だち、恐い男の子たちのグループ、変なホームレスのおじさん。ミランダと彼女を取り巻く日常がいきいきと描かれていて、彼女の心境がとてもリアル。小学校のときって私もそうだったかも。

そんなミランダに、ある日届いた不思議なメモ。ちょうど家のスペアキーが紛失するという事件も起こり、どうやら彼女のことを見ている人が書いたと思われる謎めいたメモに恐怖を感じるミランダですが、そのメモはまだ起きていない未来のことを予言しており、どうやらある人を危機から救おうとしているらしいことがわかる。それにはミランダの協力が必要なのだった。でもいったい何をどうしたら?

メモに書かれた一文、

「I will not be myself when I reach you.」


の意味が判明し、すべての謎がつながったとき、ある台詞を思い返して何とも切ない気持ちに。ああ、そうだったのか…。

この物語の舞台は1979年なんですよね。いまは2010年、この小説の登場人物たちはみんなどんな大人になってるのかなあ。

児童書に分類される本ですが、大人が読んでも楽しめます。難しくないので英語で読んでもいいかも。
[PR]
by rivarisaia | 2010-08-04 22:15 | | Comments(0)

ぼくのエリ 200歳の少女

夏に涼しげな北欧の冬を舞台にした映画。そういや、最近読書も北欧づいてる私です。暑いから無意識のうちに涼しげなものを選んでいるのでしょうか。北欧ものは憂いを秘めてて心も寒々してくることが多いけどね! しかし、この映画はハッピーエンドではないかと感じました。

b0087556_126513.jpg

ぼくのエリ 200歳の少女(Låt den rätte komma in/Let the Right One in)
監督:トーマス・アルフレッドソン

ストックホルム郊外。12歳の少年オスカーが母とふたりで暮らしているアパートの隣の部屋に、父親と少女が引っ越してくる。いじめられっこで友だちのいないオスカーは、エリと名乗るその少女と親しくなるが、その頃町では猟奇的な殺人事件が起こり…


ご承知の通り、吸血鬼の話です。ホラーです。ホラーなんだけど、初恋の話でもあり、静謐で透明感のある詩情に満ちた映画でもあります。

雪の降り積もるスウェーデンの長く厳しい冬という舞台にふさわしく、イジメ、孤独、アル中、離婚、いき場のない鬱屈した気持ち、報われない愛情、殺人といった、陰鬱な気配が全体を覆うなか、ポツンと灯るロウソクの光のように、ひとりぼっちの少年オスカーと吸血鬼という秘密を抱えるエリが純粋な愛を育んでいく。真っ白な雪に飛び散る深紅の血液、オスカーの金髪とエリの黒髪などの対比もきれいなのですが、燃え上がるベッドやプールでの惨劇の場面が美しくて印象的。

ま、エグイといえばエグイんだけどね。ああいう見せ方は綺麗だなあ。「12歳」で成長が止まっているエリの表情が、ほんの一瞬老婆のように変化する描き方もよかった。

ただし、日本公開版で残念なのが、微妙な邦題はさておき、非常に重要な場面で傷(モザイクとも言うが、この場合はスクラッチ状の傷)が入っていることです。あれはナイよなー。あの場面で何が映っていたかによって、物語の解釈が大きく変わってくるというのにですよ! いっそR指定にして見せたらよかったではないか!

原作『モールス』(ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト著/ハヤカワ文庫)も読んだんですけど、原作は映画とはまた違って、かなり鬱々としていてエグさ倍増でした。おもしろいけど。しかし、これはうまく映画化したよなあ。思い切ってあれやこれやをカットしたのがよかったのね。

原作を読むと、エリが吸血鬼になったいきさつや、エリと「父親」の関係性、傷の入った場面に映っていたであろうもの等がわかるのですが、基本的に原作と映画は別物なので、映画ではあの傷の場面がどう解釈されていたのかは、オリジナルを観ない限り不明です。そういう意味でも、とても残念。

ちなみに本作は『Let Me In』というタイトルでハリウッド・リメイクが決まっていまして、トレイラーを見た限りではまあまあおもしろそうではありますが、冬のスウェーデンという設定から醸し出される静けさはかけらもございませんでした。


「ぼくのエリ 200歳の少女」の映画詳細、映画館情報はこちら >>
[PR]
by rivarisaia | 2010-08-02 23:34 | 映画/洋画 | Comments(2)