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ルイーサ

ガチなおばちゃんの話かと思いきや、ちょっとしょっぱいおばちゃんの話だったというのが意外でした。

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ルイーサ(Luisa)』監督:ゴンザロ・カルサーダ

ブエノスアイレスのアパートで猫とくらすルイーサは人づきあいが嫌いで、愛想もなく、淡々とふたつの仕事をかけもちして規則正しい生活をおくる毎日。しかし、定年退職を目前に、愛猫が死に、仕事はふたつともクビになり、さあどうしよう、という話で、ここから奮起した結果、地下鉄で物乞いの道を選んでたくましく進んでいくのかと想像していたら、かなり頼りなげにとにかく地下鉄で物乞いすることにしてみました、という展開が予想外。

ルイーサは、70年代のある日に家族をふたりいっぺんに亡くしているらしいことがわかるのですが、それは交通事故だったのか、あるいは当時の恐怖政治のアルゼンチンで粛正の名のもとに殺されたのか、その巻き添えで死んでしまったのかはわかりませんが、いずれにせよ、彼女の時間はそこで止まってしまったんだと思われます。

だから規則正しく、黙々と、他人に心を開かず、死んだように生活していたのかな。

地下鉄での物乞いも、「ルイーサ、あんた何やってんの!?」と声をかけたくなるような有様なのですが、結果的にはそのおかげで、オラシオと出会えたし、過去にとらわれて死んでた自分と決別できたのではないか、これからは前を向いて生きていけるんじゃないかなーとラストでは感じました。

それにしても、なんて君はいい人なんだ、と思った人物は、ルイーサのアパートの管理人ホセ。

どんなに無愛想にされても、毎朝きちんとルイーサに挨拶する(これ大事なことですよ)。彼はおそらくルイーサに起きた過去の不幸な事件を知っている。だからルイーサを心配し、さりげなく気遣い、困ってるルイーサを影から支えてくれたりするのだった。それでいて、過度に立ち入ったりしないの。すごいよ、ホセ。彼のような人が近くにいて、本当によかった。
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by rivarisaia | 2010-11-30 14:55 | 映画/洋画 | Comments(0)

エアーズ家の没落

サラ・ウォーターズの小説は、物語の設定はいいんだけどねえ…とあまり選ばれし読者ではなかった私でしたが、新刊は没落していく屋敷物として傑作。後味悪いけど。

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エアーズ家の没落』(上・下)サラ・ウォーターズ著 中村 有希訳 創元推理文庫

ゴシック・ロマン、ミステリー、ホラー、サスペンス、と読む人によって印象が変わりそうな本書ですが、私の中には「屋敷小説」というジャンルがあり、これはまさしくそのジャンルに入る1冊。最盛期の屋敷もよいが、滅びゆく屋敷も捨てがたいし、廃墟と化した屋敷もまた最高である。本書は「滅びゆく屋敷」。

第二次世界大戦終了後、かつて隆盛を極めたエアーズ家の人々は斜陽を迎え、朽ちゆくハンドレッズ領主館にひっそりと暮らしていた。ある日、メイドを往診したことをきっかけに、エアーズ家の人々と親しくなる医師ファラデー。やがて、屋敷では小さな異変が起きはじめ…


本書の序盤では、語り手である主人公ファラデーが少年時代にまだ栄えている頃の屋敷を訪問する様子が描かれるため、その後の屋敷の朽ち果てっぷりが対照的で印象に刻まれます。屋敷を維持していくというのは、カネも人手もかかる大変なことなのだった。

屋敷では当然のように怪奇現象が起きる。この怪奇現象の真相は最後まで明かされないので、本当に幽霊がいた、と思うもよし、いやそれには犯人が、と思うもよし、という感じではありますが、とにかく問題は、主人公の語り手はまったく信用ならないということです。

本書の原題は『The Little Stranger』で、このタイトルはすばらしいですね。いったい誰が "The Little Stranger" なのでしょう。それも最後まではっきりと明かされず、読者にすべてはゆだねられています。

が、さて。

以下核心にふれますのでたたみます。

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by rivarisaia | 2010-11-29 11:48 | | Comments(2)

The Whole Story and Other Stories

前にお知らせしたこれを読まずして年は越せないで賞の候補作についての私の感想は、賞が決定してから書きますね。といっても、全部について書くかどうかわかんないけど、ということで、本日は別の本。

最近気になる作家のひとり、スコットランドのアリ・スミス。この短編集はよかった。

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The Whole Story and Other Stories』Ali Smith著 Anchor刊

2月からスタートして、それぞれの月を背景にしているらしい12の短編ショートストーリーがおさめられた1冊。読むまで気づいてなかったけど、この中の『May』という話は岸本佐知子さん編訳の『変愛小説集』に入っている『五月』だった。『五月』って他のアンソロジーでも目にしたんだよなあ。人気なのね。でも私は本書の中では『五月』はそれほど気に入ってない。

そもそも本書を読もうと思ったのは、Kindle にサンプルを落としてまず目に入った一番最初の『The Universal Story』の書き出しがなんじゃこりゃ?とかなり変テコだったからだ。

墓場の近くに住む男の話かと思いきや、それはすぐに否定されて、墓場のそばに住む女の…いや古本屋に住む女の話になり、1974年のペンギン版『偉大なるギャツビー』、その本にとまる1匹のハエ、そして妹のために『偉大なるギャツビー』を買い集める男、『偉大なるギャツビー』で船をつくる妹…と話がどんどん転んでいくのであった。

帰宅途中に駅で死神に会う話、バグパイプ・バンドに取り憑かれた年配の女性の話、モダンアートにアレルギーのある(と思っている)若い女性の話など、他の話もかなり変テコですが、その変テコさがさらっとしていて、ごく自然なところがいい。ちょっと変だけど、ま、そういうこともあるかもね、という絶妙なバランス。

レオノーラ・キャリントンの『耳ラッパ』のペンギンから出ている英語版では、序文をアリ・スミスが書いていることを知り、激しく納得しました。そんなアリ・スミスの邦訳は『ホテルワールド』しか出てないのが残念。英語では新しい短編もあるので、そちらも読んでみます。
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by rivarisaia | 2010-11-26 02:26 | | Comments(0)

女は女である

今週末からゴダール映画祭2010がはじまりますが、私の好きな『はなればなれに』は平日の日中のみという勤め人には厳しい日程。ま、皆観てるだろ、ってことなんでしょうかね…。

そりゃそうと、ゴダールの映画については、私は選ばれし観客ではなかった…と思うことが多く、ジャン=ポール・ベルモンドとアンナ・カリーナの魅力をもってしても『気狂いピエロ』は私と相性があわない(途中で意識がぼんやりしてきて惰性で観ることになっちゃう。ごめんなさい)。

とか言いつつ、先月だったかTVをつけたらシネフィル・イマジカでゴダールの映画を放映していたのでまた何本かつい観てしまった。そのひとつ。

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女は女である(Une Femme est une Femme)
監督:ジャン=リュック・ゴダール

白状すると、本作もまあ「実験的なかわいらしい映画ですね」としか言えず、本当に自分が選ばれし観客じゃないことを実感するのみなのですが、非常にグッとくる場面がひとつあります。

それはアンナ・カリーナとジャン=ポール・ベルモンドがシャルル・アズナブールの曲を聴く場面。これすごく好き。

この場面のジャン=ポール・ベルモンドは、若い頃のジャン=ポール・ベルモンドの中で一番かっこいいと思う。襟と袖にふわふわの白い毛皮のついた明るいブルーのワンピースのアンナ・カリーナ(髪には青いリボン)もかわいらしくて、こんな格好はアンナ・カリーナじゃなきゃ似合わないよ、とつくづく思うし、そもそもアンナ・カリーナのほうがメインなんだけど、それより何よりジャン=ポール・ベルモンド。

彼女を見つめるジャン=ポール・ベルモンドの横顔、だまって煙草をふかすジャン=ポール・ベルモンドの表情がすばらしくかっこいい。『勝手にしやがれ』もいいけど、じつはこのワンシーンのほうが好きだったりします。

グレーのタートルに茶色のジャケットという普通に着ると野暮ったい服装が、かっこよく似合うのはジャン=ポールだから! そもそも男性の茶色のジャケットって着こなしが難しいんだよね。そんな茶色のジャケットは、以前生でみたマチュー・アマルリックもおしゃれに着こなしていて、さすがフランス人は違う…と感じたのでした。
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by rivarisaia | 2010-11-24 15:04 | 映画/洋画 | Comments(0)

リトル・ランボーズ

楽しい映画であると同時にひそかに社会派なところがイギリスらしくて、かなり気に入った作品なのですが、何よりも私としては、この映画は帳面派の映画であることを強く訴えておきたい。そこで帳面派というカテゴリーも新設しました。映画のテーマ曲がCUREの曲だというのもポイント高し。

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リトル・ランボーズ(Son of Rambow)』監督:ガース・ジェニングス

ポスターのキャッチコピーがすべてを語ってます。

大人になるしかなかった子供と、子供らしさを禁じられた子供。彼らを救ったのは、愛でも、神でもなく、たった一本の映画だった。


1982年のイギリス。11歳のウィルは、戒律の厳しいプリマス同胞教会に属している家庭で育ち、映画もテレビもすべて禁止されている。だから授業でクラス全員がテレビをみるときも、ひとり廊下に出されちゃう。

ウィルの楽しみは、教科書や聖書にマンガを描くこと。そう、ウィルはまさしく帳面派なのだった。

ある日、ウィルが例のごとく廊下に出されているとき、悪ガキのリー・カーターと出会う。お金持ちの親にほったらかしにされているカーターは、実質兄のローレンスとふたり暮らしのような孤独な子ども。

そんなカーターの家で、ウィルは生まれてはじめて映画をみて衝撃を受ける。その映画は『ランボー』。「ぼくはランボーの息子だ!」と宣言するウィル。かくしてウィルとカーターの映画づくりがスタートする。

楽しい子どもの世界の後ろに垣間見える大人世界の暗い影、子どもの頃に同じ悲しみを経験していたウィルの母の決断、横暴だと思ってた兄ローレンスとの兄弟愛など、グッとくる箇所もたくさん。全力でごっこ遊びをした自分の子ども時代なども思い出したりしましたが、何よりもウィルの帳面が最高で、私としては「ビバ!帳面派」と讃えたい1本です。

劇場ではウィルの帳面を再現したZINEが販売されておりまして、1500円にしちゃ薄いと思う人もいるだろうが、私はこの帳面にかなり満足ですよ。こんなの。
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中味はアート本なので画像は小さくしますが、ウィルの落書きが満載。
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これからも帳面派映画は、こうやって劇中の帳面を再現して販売してくれるといいのになー。少なくとも、今回、これを制作しようという企画はグッジョブ!

ラストで、ふたりが撮った映画『ランボーの息子』完成版が観られるのですが、とても楽しくて私は泣き笑い。トラウトマン大佐に意外な事情が!
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by rivarisaia | 2010-11-22 13:49 | 映画/洋画 | Comments(0)

ヴィクティム

なんだか最近、映画館の動員に関する世知辛い話を耳にしますと、ああこんな私のブログでも、観たらすぐ感想書いて人に勧めるようにしないとねえ、と思ったりするわけですが、上映終了間際に観たりすることが多いもんですから、「いまさら書かなくてもいいか!」となっちゃって、ほとぼりが冷めるまで放置してるものが多数。本の感想も書くかどうかは気分次第だしな…。うーん。

努力するけど、冬休みの課題にします(えっ、先送り!?)

そりゃそうと、先日香港映画のDVDを観ました。ラウ・チンワン主演(いやレオン・カーフェイが主演なのか?)だけど、これ観たことなかった! そしてなんだか不思議な映画だった。

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ヴィクティム(目露凶光)』監督:林嶺東/リンゴ・ラム

ある男(ラウ・チンワン/劉青雲)が誘拐され、幽霊ホテルに監禁される。救出された男はまるで人が違ったようになり、事件にかかわった刑事(レオン・カーフェイ/梁家輝)は疑問を抱きつつ捜査を続行するが…


クロスジャンルっていうんですかね。そうですよね、いやきっとそうに違いない。

というのも、どうもホラーっぽいんですよ。ホラーだな、きっとホラーだと思って観てたんですよ。幽霊ホテルはまるでシャイニングのようないわくつきホテル。一家を惨殺した男がホテルに取り憑いていて、監禁されていたラウちんに取り憑き…という展開なのかなーと思ってたの。

ところが、中盤から犯罪事件の匂いがぷんぷんしてきて、一気にサスペンス&アクションという展開へ。

あれ、ホ、ホラーじゃなかったのか?

と首をかしげつつも、でもサスペンス&アクションもなかなかおもしろい展開だったので見入っていると、ラストでやっぱりホラーだったのかもと思わされるという、なんとも予測できない映画でした。

予測できない展開は、ほかにもちょこちょこあって、信頼関係や絆が壊れていく展開になると思いきや、じつはサプライズ・パーティーだった、という力技には仰天。ここは私がいちばんびっくりしたシーンといってもいい。

誘拐された男はかつて…という展開もなかなかおもしろくて、サスペンスにちょっとホラーの味付け、人間やはり後ろめたいことがあると幽霊に見入られちゃうよ、という映画でした。
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by rivarisaia | 2010-11-18 14:43 | 映画/香港・アジア | Comments(2)

『バウドリーノ』の邦訳がようやく出版されましたね! 先日書店に行ったら、あらこの本も邦訳が出たのね〜と嬉しかったので紹介。
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オリーヴ・キタリッジの生活』エリザベス・ストラウト著、小川高義訳、早川書房
Olive Kitteridge』Elizabeth Strout著、Random House

去年読んだペーパーバックで個人的にはベスト10には入る連作短編小説集。アメリカ北東部の小さな港町クロズビーを舞台に、そこに暮らすオリーヴ・キタリッジという女性を中心とした物語。とはいえ、ある1篇はオリーヴが主人公だけど、別の1篇ではオリーヴは脇役といった具合なのですが、13篇を読んでいくと、だんだんとオリーヴ・キタリッジなる人物の人となりが浮かび上がってきます。

人にはさまざまな側面があります。仕事での自分と、家での自分、あるいは友だちといるときの自分、それぞれ他人に与える印象は違うはず。本書のオリーヴも、それぞれの短編のなかで違った姿をみせており、それが故に、13篇すべてを読み終わった後にこの見知らぬオリーヴが、すごく身近な、昔からの知り合いのような気がしてくるのでした。

独立したひとつひとつの話がどれも完成度が高く、扱っているテーマは決して明るいものではないかもしれないけれども、読後は、静かでとてもやさしくあたたかい気持ちに満たされる。そんな作品なのでおすすめです。

日本語版の表紙のデザインもとてもきれい。もう1度、邦訳でも読んでみよう。
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by rivarisaia | 2010-11-16 19:31 | | Comments(0)

昨年から洋書ファンクラブの渡辺由佳里さんが主催している「これを読まずして年は越せないで賞」略して「これよま賞」に参加していますが、今年は何故か私は審査員に任命されております。

で、今年度の候補作のロングリストが発表されましたので、英語の洋書読みの皆様は、ぜひ以下の渡辺さんのブログから応援する作品または最終候補に残りそうな作品の予想を投票してくださいませ。

リンク先:
2010年洋書ファンクラブ「これを読まずして年は越せないで賞」候補作決定

ノンフィクション、文芸小説、児童書の3部門あります。
どれが受賞するのか楽しみ! というか、これはすべての部門でかなり悩みそう。
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by rivarisaia | 2010-11-15 20:29 | | Comments(6)

アパラチア小説にハマってる私ですが、その理由を簡単に説明するとココで書いたように、この秋、私がクマに取り憑かれていたから。

心の中にクマを抱えたままマウイ島に旅立った私は、マウイの書店であるペーパーバックの表紙に目がクギづけになった。「クマだ!」

それがこの本。
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A Walk in the Woods: Rediscovering America on the Appalachian Trail
Bill Bryson著、Broadway刊

ビル・ブライソンのエッセイは機知に富んでおもしろいうえに、洞察に満ちているので大好きなのですが、本書はそんなブライソン氏が、世界最長といわれる自然歩道アパラチアン・トレイルを旅するというエッセイ。

メイン州からジョージア州にかけて、北米を南北につっぱしっているアパラチアン・トレイル。グレートスモーキー・マウンテンやブルーリッジなどもここに含まれます。全長約3500キロ。

ブライソン氏は友人とふたりで南から北上するようにトレッキングをするんですけど、トレッキングの準備段階からして可笑しい。そして旅の友に選んだ親友はとても頼りない。ヘタしたら道中ケンカ別れしてもおかしくないんだけど、このふたりの距離感がいい感じなので、まるで漫才コンビのようです。

アパラチアン・トレイルの成り立ちや国立自然公園の抱える問題点から、道中の山小屋のようす、食べ物、近くの町のレストラン情報まで、あらゆる話がもりだくさん。

いいなあと思ったのは、別に強制されて歩くわけじゃないんだから、途中嫌になったらスキップしてもいいし、ある時点で離脱してもいいんだよ、というブライソン氏の考え方。最初は歩く気満々なんだけど、やっぱり途中で気力・体力ともにムリ!となっちゃう時もある。そういう時に変な義務感でがんばらない。そういう気持ちの切り替えって、できるようで意外とできないことも多いので、これは大切。

そうそう、クマについては、旅立つ前にクマ情報をたくさん仕入れて、クマに遭遇したらどうしようと怯えるブライソン氏ですが、クマとの遭遇はありませんでしたよ。

読み終わった後に、アパラチアン・トレイルを歩きたくなっちゃう1冊。

ちなみに本書は邦訳も出てました。

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ビル・ブライソンの究極のアウトドア体験―北米アパラチア自然歩道を行く
ビル・ブライソン著、仙名紀訳

邦訳本の表紙にもさりげなくクマが!


●参照:
アパラチア関係のエントリ
ウィンターズ・ボーン
『Burning Bright』Ron Rash
『Serena』Ron Rash
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by rivarisaia | 2010-11-12 18:39 | | Comments(2)

先日『ウィンターズ・ボーン』の感想書いた際に、アパラチアの小説って何読んでるの?と知人から聞かれたので、忘れないうちに書いておきます。何冊かあるんだけど、今日紹介するのはアパラチアの作家として知られている Ron Rash。

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Burning Bright』Ron Rash著、Ecco刊

フランク・オコナー国際短編賞受賞作で、全部で12の物語が収録されてます。どれも比較的短くて、さらりと読めてしまうのですが、どの話も読み終わった後に心に小さいトゲが刺さったような気分になるといいますか、いつまでも物語の印象が消えない。ああ、あの人はあの後どうなったんだろう、と気になってしょうがない。

南北戦争から、大恐慌時代、現代と時代設定はさまざまですが、登場人物の多くがガチ。誰も頼りにせず自分の信念にしたがって突き進む(しかない)人たち、貧しいけれどもアパラチアの自然とともに誇りをもって生きている人たち、予想外のことに巻き込まれて出口を見つけようと葛藤する人たち、孤独な気持ちを抱えて生きている人たち。

1番最初の話『Hard Times』からして、静かだけれど衝撃的。大恐慌時代、自分の鶏小屋から卵がなくなるのは動物か蛇の仕業だろうか、と考える農夫の話ですが、私は読んでいる最中に、卵の殻がパリパリと噛み砕かれる音を聞きました。

そこに暮らす人々が動的なのに対して、周囲の自然は過酷だけどあくまでも静か。この対比が強烈な印象を残すのかもしれません。情景がまざまざと目に浮かぶし、風の音やフクロウの鳴き声、墓を掘り起こす土の音さえも聞こえる。コーマック・マッカーシーは読んでいて暑い空気に乾いた土と血の匂いがするけど、ロンラッシュは冷たい空気に湿った土と枯れた涙の匂いがする。

Ron Rashは長編小説『Serena』が映画化の話が出ていたので、ついでに邦訳出たらいいのになあ。本書は、英語がそんなに難しくないので、原書で読んでみてもいいかも。『Serena』は私はこれから読みます。

●参照:
アパラチア関係のエントリ
ウィンターズ・ボーン
『A Walk in the Woods(ビル・ブライソンの究極のアウトドア体験)』Bill Bryson
『Serena』Ron Rash
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by rivarisaia | 2010-11-10 21:08 | | Comments(0)