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Alice:血まみれでバイオレンスな戦うアリスの話

だいぶ前に読んだ本だけど、悪夢的なイメージが強い印象として残っていてたまに思い出すので、感想書いとこう。


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Alice』Christina Henry著、Ace

『不思議の国のアリス』をモチーフにしているのですが、最初に断っておくと、かなり血まみれバイオレンスで、レイプや殺人や虐待の描写も多く、そんなわけで万人にはおすすめしません。しかし、虐げられた人々のために戦うアリスの話です。

子どもの頃「ウサギ」のティーパーティーに行ったあと血まみれで記憶を失って戻ってきたアリスは、精神に異常をきたしたとして、長いこと精神病院に閉じ込められていた。唯一の友人は、隣の部屋にいて壁越しに話しかけてくる謎の男性「Hatcher」。ある日、病院で火事が起き、そのどさくさにまぎれて、アリスとハッチャーは脱出する。

ふたりが逃げ込んだオールド・シティは、「セイウチ」「カーペンター」「イモムシ」「チェシャー」と呼ばれるボスが牛耳る暗黒街だった……

という調子で、ともにみずからの記憶がおぼろげなアリスとハッチャーは、自分たちの過去を探りつつ、極悪非道のギャングのボスたちと戦い、さらには「ジャバウォック」や「ウサギ」と対決するという展開です(なんだそりゃ)。

マッドハッターならぬ、マッド・ハッチャーは、斧で何人も虐殺した殺人鬼といわれているけど、彼の過去に本当は何があったのか、そして「ウサギ」のティーパーティーでアリスに何が起きたのか。

さまよい込んだオールド・シティは、ワンダーランドどころか、邪悪ランドというありさまで、ダークファンタジーというよりホラーファンタジー色が強い。このあたりが好き嫌いが分かれるところじゃないかと思います。私も好きかといわれると微妙なんですけど、ターセム・シンが映像にしたらすごそうだなと思える部分がちょっとある(『ザ・セル』を連想しています)。

なので、読んでいる最中は、ターセム・シンで脳内に映像化していました。衣装はもちろん、故・石岡瑛子さんで。

本書は「The Chronicles of Alice」シリーズの第1巻なのですが、2巻にあたる『Red Queen』は悪夢的な描写が減ったかわりにロマンスが増えた。このロマンスの展開はかなり安易だと思うし、同じように不満に思う読者も多かったようす。同じシリーズとは思えないくらい、がらりとテイストが変わってしまい、まったく面白くなかったのが残念です。

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2巻の表紙デザインは好きなんですけどね。さらに続きそうな感じで終わるんですけど、3巻が出てもたぶん読まないかなー。



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by rivarisaia | 2018-01-24 23:58 | | Trackback | Comments(2)

2017年これを読まずして年は越せないで賞 受賞作!

今年の「これを読まずして年は越せないで賞」も無事決定いたしました!

候補作のリストはこちらをどうぞ。

そしてツイッターで話し合った結果は……

I. YA 最優秀作品: 『The Hate U Give』Angie Thomas

YAの最優秀作品は、「ブラック・ライブズ・マター」や、日常の差別や偏見についてがテーマの作品。こちらは私、感想書いてました。

児童書については来年の2月に審査を行う予定です。

II. ノンフィクション 最優秀作品:『Born A Crime』Trevor Noah

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南アフリカ出身のコメディアンで、2015年からアメリカの「The Daily Show」のホストをつとめているトレヴァー・ノアの回想録です。幼い頃から笑い事じゃないくらい大変な人生を送っているんだけれども、それをユーモアを交えて語っていて、悲惨なのに笑ってしまうし、逆境に負けないエネルギーがつまっていて、なぜだか読んでいてとても元気が出る。本人が読んでいるオーディオブックでもう1回読もうかなー。

III. ジャンル・フィクション(SF、ミステリを含むジャンル小説)部門

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「Shades of Magic 三部作」V.E. Schwa

1巻から順に、タイトルは次の通り。
『A Darker Shade of Magic』
『A Gathering of Shadows』
『A Conjuring of Light』

ジョージ3世の時代、灰色、赤、白、そして滅亡したとされる黒と、3つ(4つ)のロンドンが並行して存在する世界が舞台で、そのパラレルワールドを行き来できる魔法使いが主人公。1巻より2巻が、2巻より3巻が面白い。そして登場するキャラクターがとてもいいです! (NetflixかHuluあたりでドラマ化してほしい〜)


IV. フィクション:(大衆文芸)『Beartown』Fredrik Backman
  (文芸小説)『The Tsar of Love And Techno』Anthony Marra

フィクションは迷いに迷って、タイトルも多いので受賞は2作になりました!
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「Beartown」は『幸せなひとりぼっち』の著者フレドリック・バックマンの長編。過疎化が進む小さな田舎町ベアタウンでは、人々にとって非常に重要な位置にあるものがアイスホッケー。町を再び繁栄させるため、アイスホッケーチームを強化させようと取り組んでいる最中に起きた、ある事件。舞台はスウェーデンだけど、日本に置き換えてもじゅうぶん通用する話だし、まさに今の日本でも話題になっているテーマが描かれています。

文芸の『The Tsar of Love And Techno』は、私が絶賛してて感想も書いてますのでどうぞ。Marraは物語の構成はもちろんのこと、文章もとてもいいのです。



そして2017年の栄えある大賞は『Born A Crime』に決まりました!

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誰が読んでも心に残る箇所があるはず。明るい気持ちにもなるし、本当におすすめ。

ツイッターでの審査の経過は由佳里さんがTogetterに今年もまとめてくださったので、ゆっくりお読みください。



それでは、みなさん、よいお年を! 来年こそは、短くてもできるだけこまめに感想書くようにしたい(毎年言ってる気がする来年の抱負)。



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by rivarisaia | 2017-12-30 23:57 | | Trackback | Comments(2)

2017年これを読まずして年は越せないで賞 候補作!!

今年も渡辺由佳里さんやモナさんとともに「これを読まずして年は越せないで賞」略して「これよま」を行います! 日程は決まり次第おしらせしますが、年末です。

候補作のリストは以下の通りですが、感想を書いてない本が多いので(よくよく反省して来年はもう少しがんばります)、各タイトルの内容など詳しくは、渡辺さんのサイトをご覧ください! 




I. 児童書/YA(今年はYAオンリー。児童書は来年2月に延期します!)

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The Hate U Give / Angie Thomas
Words In Deep Blue / Cath Crowley


II. ノンフィクション
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Born A Crime: Stories From a South African Childhood / Trevor Noah
Shoe Dog: A Memoir by the Creator of NIKE / Phil Knight
Lost City of Monkey God / Douglas Preston
What Happened / Hillary Rodham Clinton
Fantasyland / Kurt Andersen

III.フィクション(SF、ミステリを含むジャンル小説)部門
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All The Birds In The Sky / Charlie Jane Anders
The Dry / Jane Harper
Shades of Magic三部作 / V.E. Schwab
Jane Steele / Lyndsay Faye


IV. フィクション(文芸小説、大衆小説)

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A Gentleman In Moscow / Amor Towles
The Guest Room / Chris Bohjalian
Beartown / Fredrik Backman
Eleanor Oliphant Is Completely Fine / Gail Honeyman
Little Fires Everywhere / Celeste Ng
Lincoln In The Bardo / George Saunders

どれが賞を取るのか楽しみ! ツイッターで話しながら決めるけど、遠慮なく横ヤリを入れてもらって構わないのでお気軽に参加してくださいね〜。ハッシュタグは #これ読ま です。

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by rivarisaia | 2017-12-17 17:28 | | Trackback | Comments(0)

Hate U Give

アメリカでは、警官による黒人殺害事件をきっかけに「Black Lives Matter(黒人の命も大切だ)」という運動が起きていたことはニュースで見た人もいるかと思いますが、日本ではいまひとつ実感がわかないので、よく理解できなかった人も多いのでは。本書は、そのあたりの理解を深める上でもおすすめ。
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Hate U Give』Angie Thomas著、Balzer + Bray

Starr という16歳の少女が主人公。

スターが住んでいるのは黒人が多く、治安の悪い貧困地域なんだけれど、スターの両親は教育のことを考えて、子どもを郊外の私立学校に通わせている。学校の生徒のほとんどが落ち着いた住宅街にくらしているので、スターにしてみると「学校」と「地元」では世界がまったく違う。

ふたつの世界で、うまくやってるつもりだった。あの事件が起きるまで。

地元の友だちに誘われてパーティに行った帰り、幼なじみのカリルが運転する車が警察に止められ、スターの目の前でカリルは警官に撃たれてしまう。

これまでスターは、黒人だからという理由で誰かが殺されたとき、ハッシュタグをつけてツイートし、タンブラーで写真をリブログし、あっちこっちに署名をして、何が起きたのかを世界に知らしめるべく声をあげてきた。でも、いざ自分が渦中の人になってみたら、とても怖くて何も話せなくなってしまう。

学校の友人に「殺されたのはどうせ麻薬のディーラーなんでしょ、仕方ないよねー」と言われても、「彼はわたしの友だちだったんだけど」とすら言い返せなかったスター。でもそんな彼女が、だんだんと信念にもとづいて行動するようになっていく。

大きな流れは「Black Lives Matter」についての話だけど、日本人にわかりにくいかというとそうではない。むしろ、アメリカで、黒人でいて、警察に車を止められたとき、どんなプロセスが踏まれ、どんな心境になるのか、とてもよくわかる。

また、日常生活にひそむちょっとした差別・偏見についても考えてしまう内容になっている。

言った本人は悪気のない冗談なんだけど、なんだか嫌な気持ちになったり、微妙な心持ちになったりするということはしばしば起こり、

「彼女、いつもこんなジョーク言ってたのかな。で、私は笑ったほうがいいかなと思って、いつも笑ってたのかな」

と、スターは思う。面白いのは、そんなスターにまるで偏見がないのかといえばそうでもないところで、スターの彼氏は白人なんだけど、その彼と事件後にぎくしゃくしてしまい、問い詰められたスターは

「あんたは白人なの、わかる? 白人なの!」

と言っちゃったりする。で、絶句した彼氏に「俺が白人って、それが何だっていうんだよ?」と返される。この彼氏がとてもいいやつなのが救い。

途中、展開がだれるところもあるものの、YAとしては良書で、映画化も決まってます(たぶんいま撮影中)。

最近、日本だと差別の話題になった際に「昔はよかったのに、息苦しい」「悪気はないのに」と怒り出す人がいたりするけど、本書にも似たような人が出てくる。「昔は許されていた」といっても、いやー10年もあればだいぶ人も社会も変化するからね!

たとえばこのブログも10年くらい書いてるけど(怖い)、10年前と今では私も、同じ映画や本に対する感想も違ったりするし、昔とは考え方がだいぶ変わったりもしてるんですよね。逆にいうと、達観してる聖人ならいざしらず、昔も今もまったく思考が変化しないのも、進歩してない感じするよね……。

ちなみに、本書のタイトルはラッパーの2PACの「THUGLIFE: The Hate U Give Little Infants Fucks Everybody」からきています。

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by rivarisaia | 2017-12-07 23:21 | | Trackback | Comments(0)

補足:They Were Like Family to Me とブルーノ・シュルツ

8月にホロコーストをテーマにした短編集を紹介したんですけど、その中の「In the Land of Armadillos」という話に関する補足(In the Land of Armadillos」のネタバレにも通じるので注意)。


In the Land of Armadillos」は、SSの将校がユダヤ人の絵本作家に子供部屋の壁画を描かせる話です。人を殺すことをなんとも思わない冷血な将校が、人生に絶望している絵本作家と会話を交わすうちに、どういうわけだか絵本作家に生きる気力を取り戻させようとするという皮肉な展開が待ち受けています(そもそもナチスのせいで絶望的な世の中になっているというのに)。

で、この絵本作家なんですけど、ブルーノ・シュルツがモデルでした。

ブルーノ・シュルツはポーランドのユダヤ系作家&画家で、短編集『肉桂色の店』収録の「大鰐通り」はクエイ兄弟のアニメーション『ストリート・オブ・ クロコダイル』の原作で、また以前このブログでふれたジョナサン・サフラン・フォアのダイカット本『Tree of Codes』の元になった本でもあります。


シュルツは絵本は書いてないけど、自分の本の挿画を描いたりはしていた。先日、ブルーノ・シュルツに関する本を何冊か読んでいたら、2001年2月9日にシュルツの「壁画」数点が見つかったという記述がありました。

タルノフスキエゴ通り14番地にあるヴィラ・ランダウという家屋で、三重に塗られたペンキを剥がしたら壁画が出てきたのです。ランダウは、シュルツを庇護したとされるウィーン出身のゲシュタポで、ドイツ兵の幼い息子の部屋に絵を描くという使役をシュルツに与えていました。実際の壁画は、グリム童話がモチーフだったようで、制作時期は1942年の春か初夏。

残念なのは、壁画がそのまま保存されることはなく、はがされてエルサレムの博物館に送られちゃったということです。なんてこと! ドイツの映画監督ベンヤミン・ガイスラーが絵画が発見された際の記録映画を撮っているそうなので、機会があれば一度見てみたいな。

さて、以下、ブルーノ・シュルツの人生にざっくりと触れます。

1892年、ポーランドのドロホビチ(現ウクライナ領)に生まれたシュルツは、1910年〜20年代は画家として活動、1933年に短編集『肉桂色の店』(15編収録)、1937年に『砂時計の下のサナトリウム』(13編収録)を出版し、その他雑誌に4本の短編を発表しました。

シュルツがくらしていたポーランドのドロホビチ(現ウクライナ領)は、1941年にナチスに占領され、ゲットー地区が規定されて、シュルツ一家も移転をよぎなくされますが、シュルツ自身はゲシュタポ将校であるランダウのお抱え画家としての仕事を得て保護されていました。

1942年11月19日の黒い木曜日、「アーリア人証明書」を得てワルシャワへと向かおうとしていたシュルツは、旅行用のパンを受け取りに行く途中でゲシュタポが「野蛮作戦」とよぶユダヤ人殺戮に遭遇、路上で射殺されました。シュルツを殺した人物は、彼がランダウのお気に入りのユダヤ人であることを知っていたとみられ、ゲシュタポ同士の仲間割れのとばっちりで殺されたともいわれています。

[参考文献]
『ブルーノ・シュルツ 目から手へ』加藤 有子著、水声社
『シュルツ全小説』ブルーノ・シュルツ著、工藤幸雄訳、平凡社ライブラリー

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by rivarisaia | 2017-10-25 21:37 | | Trackback | Comments(0)

4 3 2 1

ブッカー賞ショートリストに残ったオースターの広辞苑並みに厚い小説を読みました。ただし、じつは「not my cup of tea」で、私は選ばれし読者ではなかった。

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4 3 2 1』Paul Auster著、Henry Holt and Co

大西洋をこえて20世紀最初の日にエリス島に到着したユダヤ人のレズニコフ氏は、アメリカで新生活を始めるにあたり、ユダヤ名は捨ててこれからはアメリカ人っぽい名前を名のったほうがいいぞ、そうだな「ロックフェラー」にしろよ、という助言を受けるも、入国審査官に名前を尋ねられた際「Ikh Hob Fargessen!(忘れちゃった!)」とイディッシュで答えたがゆえに

イカボッド・ファーガソン

という名前になった。

イカボッド氏は結婚し、息子たちが生まれ、さらに孫が誕生し、この本はその孫のひとりであるアーチボルド・ファーガソンの人生についてのおはなし。それもこのアーチボルド・ファーガソンには四つのバージョンが存在する。

同じ両親から同じ日に生まれて、同じDNAをもってるけど、それぞれ全然違う人生をおくることになる4人のファーガソン。まるで別の人生を歩むとはいえ、4人というか4つのバージョンには、どこか似ている点もあるし、共通する脇役も登場する(脇役はファーガソンとの関係性が違っていたり、両親はじめ親族の人生もまたそれぞれ異なる)。

小説自体は、「1.1」「1.2」「1.3」「1.4」「2.1」「2.2」……「7.4」という構成になっていて、「1.1」「2.1」……がファーガソン ver. 1の人生、「1.2」「2.2」……がファーガソン ver. 2の人生(以下略)という具合。

それぞれの人生でいろいろなことが起こるため、読んでいる最中でけっこう混乱して「で、このファーガソン、どのファーガソンだっけ?」となるため、カギとなるポイントをメモして読んでいったんですけど、混乱するとはいえ、「1.1」「2.1」……というふうに読むのは再読のときにして、最初は本の構成順に読んだほうがいいです。

タイトルの意味や4人が存在した理由が最後のほうで明らかになるからです。

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ネタバレ防止でぼやかしてますが、メモを取らないとめっちゃ混乱する


で、このファーガソンの物語がどうかというと、最初の頃はよかったんだけど、だんだん飽きてきちゃって、ときどき面白いことや驚きがあるとはいえ、全体としてはどのファーガソンにも私はあまり興味が持てなかった(ごめんね、オースター)。もっとも期待できそうなファーガソンは早々に「あれっ?」ということになっちゃうし。

途中から「どうしてこんな重い本(内容ではなく、物理的に重量がある)を読んでいるのかー」「だから何なの」とうんざりしてしまって、だんだん惰性で読んだので、これ以上の感想は保留にします。

『4 3 2 1』がブッカー賞を取ったらかなり驚きだけど、去年の『The Sellout』も「え、なぜ……?」って感じだったから(『The Sellout』は最後の2、3ページ以外はサッパリ良さがわかりませんでした)、どれが受賞するか見当つかない。発表が楽しみ。


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by rivarisaia | 2017-10-12 18:39 | | Trackback | Comments(0)

The Twelve Lives of Samuel Hawley

アクション&バイオレンス+クライム・サスペンス+謎の死にまつわるミステリー+父と娘のロードトリップ+ティーンの少年少女のロマンス+少女の成長物語……という、もりだくさんの1冊です。

「タランティーノのようなひねりの効いたプロット」という紹介文もどこかで読んだ気がする。それも一理あるかも。ページターナーで面白かった。

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The Twelve Lives of Samuel Hawley』Hannah Tinti著、Dial Press

いい意味で予想を裏切る展開だったので、詳細はあまり知らずに読むのをおすすめ。そこで、あらすじはざっくりとだけ書きます。身体に12の銃痕を持つ男 Samuel Hawley と彼の娘で聡明でタフな Looの話。

幼い頃に母親を亡くしたルーは、父親のサミュエルとともに各地を転々として暮らしてきた。やばい裏稼業に手を染めていた父親は、身の安全を守るため、ルーにも幼いうちから銃の扱いやサバイバルの方法を教え、ひとつの場所に長居することもしなかった。しかし、ルーも十代になり、そろそろ腰を落ち着けるべきではないかと、親子はある小さな港町に越してくる。

そこはルーの母親リリーの故郷だった。

ルーは高校に編入し、サミュエルは漁師として生計を立てはじめ、初めはよそ者扱いされていた親子も、いろいろな出来事を経てだんだん町の人々から受け入れられるようになる。長いこと友人ができなかったルーにもついに気になる存在の同級生があらわれたり、疎遠になっていた祖母(リリーの母)とも少しずつ歩みよっていったりする。しかし、サミュエルの過去がじわじわとふたりを追いかけてくるのだった

そもそも母親リリーの死は本当に事故だったのか。

そしてサミュエルの身体の12の銃痕にはどんな真実が隠されているのか。

おもにルーを中心にした現在の章と、第1の銃痕、第2の銃痕……という形で明かされるサミュエルの過去の章が交互に展開する構成になっています。

因果応報とはよく言ったもので、自らの行いにはそれに応じた報いがいつかやってきて、うまく切り抜けたつもりでいても必ず後で代償を払うはめになる。それなりに小さなツケを払いながら生きてきたサミュエルとルーも、前に進むために過去と向き合い、きっちりと清算しなくてはならなくなる時がやってくる。

バイオレンスに満ちているものの、どこかファンタジーのような雰囲気も漂っている。サミュエルが裏稼業で取引しているブツが麻薬などではなくて意外なブツである点も理由のひとつかも。

何度も切ない気持ちになりながらも、最後は何かを成し遂げた清々しい気分で本を閉じました。登場人物たちのその後が気になる〜。どうなったかな……。


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by rivarisaia | 2017-09-13 22:22 | | Trackback | Comments(0)

Days without End

2016年コスタ賞大賞受賞作で、今年のブッカー賞ロングリスト入り。今年はけっこうブッカー賞リストの本を読んでいる……ような気がする。この本、なかなかよかったです。

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Days without End』Sebastian Barry著、Viking

19世紀半ば大飢饉に襲われたアイルランドから、カナダ経由でアメリカへ渡った17歳の Thomas McNultyが主人公。ゴールドラッシュからインディアン戦争、そして南北戦争のアメリカを生きたトーマスの半生を描いた話。語り手はトーマス。

ちなみに McNulty という姓の人々が、著者の他の本にも登場するんだけど(私は何冊かあるうちの『Secret Scripture』しか読んでない)、本書のトーマスはそんな McNulty家のご先祖のひとりだそうです。

家族も失い、命からがらアメリカへやってきたトーマス。時代はゴールドラッシュで、彼は女装して酒場で坑夫の男たちのダンスの相手をする仕事につく。その時に一緒に職にありついたのが、マサチューセッツから飢饉を逃れてやってきた John Cole だった。ジョンはトーマスにとって、唯一無二の親友、生涯愛する人、強い絆で結ばれた戦友となる。

成長して見た目が女として通用しなくなると、トーマスとジョンは軍隊に入り、インディアンとの戦いに赴く。血みどろの虐殺が行われ、インディアン側も騎兵隊側も容赦なく殺戮され、大自然は猛威をふるい、過酷な日々の連続。これはほんとうにつらい。

そんななか、彼らはわけあってスー族の少女ウィノナと暮らすことになる。軍隊を退き、新しい生活をスタートさせ、ウィノナはやがて娘のような存在になっていく。

しかし楽しき日々は南北戦争が勃発して終わりをつげた。トーマスとジョンは北軍に入隊、再び血なまぐさい戦いに巻き込まれていくのだった。

その後も彼らの人生は山あり谷ありで、そんなにページ数の多い本ではないのに、振り返れば最後まであまりに波乱万丈で、でも最後は希望の光が射している。

『Secret Scripture』では、アイルランドの歴史に翻弄された女性の人生を描いていたけれども、本書も主人公とともに、アイルランド移民、インディアン戦争、南北戦争という激動のアメリカ史をたどっていく。ただ、トーマスには歴史に翻弄されたという感じがあまりしない。

女性の格好でいるほうがしっくりくると感じているトーマスは、暴力にみちたマチズモ的な世の中に身を置きながらも、愛するジョンとともに平穏に暮らそうとする。ごく自然の成り行きなので読んでる最中はまるで気に留めてなかったけど、よく考えてみれば、今よりも自由が制限されていたとされる時代に同性カップルが家庭を築く話でもあった。

著者はこの本をゲイであることをカミングアウトした息子に捧げている。そのあたりはガーディアンの記事に詳しいので、参照までにどうぞ。そして今更気づいたけど、だから虹がかかってる表紙デザインだったりしたのかな。




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by rivarisaia | 2017-09-05 18:53 | | Trackback | Comments(0)

News of the World

ちょうどテキサスが舞台の本の感想書こうとしていたら、ハリケーン・ハービーのせいでテキサスが大変なことに。今日、ヒューストン近郊の友人が「ようやく太陽が出た!」と喜んでいるので、このまま天気のよい日が続きますように。

テキサスが舞台の本は、これです。

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News of the World』Paulette Jiles著、William Morrow

南北戦争後のテキサス。退役軍人の老人Captain Kiddは、テキサス北部の町をまわって人々にニュースを読み聞かせる仕事をしていた。

ウィチタ・フォールズの町で、彼は10歳の白人少女を親戚の元へ送り届けるよう依頼をうける。少女の家族は4年前にインディアンのカイオワ族の襲撃にあって殺害されており、その後カイオワに育てられた彼女は英語も忘れてすっかりインディアンになりきっていた。

Captain Kiddは、何度も逃げ出そうとする上に言葉も通じない少女を連れて、彼女の親戚がくらすサンアントニオ近郊の町を目指すが……

道中さまざまな人たちに出会い、何度か危険な目にあいながらも老人と少女は旅を続けるのですが、目的地に到着した時、老人はさらなる決断をせまられることになるのでした。

そんなに長い話ではないし、結末もなんとなく想像できる展開ではあるんだけども、しみじみと心に残る話。実在の人物も登場するし、地図を見たり、時代背景を調べたりしながら読むと、開拓時代のテキサスについてなお理解が深まると思う。

たとえば、Kiddに仕事を依頼する Britt Johnsonは、テキサスで活躍していた実在の黒人のカウボーイ(詳しくはコチラをどうぞ。英語だけど写真もあります)。私は後で知ったんだけど、ジョンソンはコマンチとカイオワに誘拐された自分の家族を取り返したりしている(参照)。著者のPaulette Jilesは、ジョンソンを主人公にした小説『The Color of Lightning』も書いてます。

ランパサスのHorrell brothersも実在の人たち(詳しくはコチラ)。無法者といわれてるけど、「実際にはそうではなかったのではないか説」の研究書もあるみたい。

インディアンに誘拐されて育てられた子どもの話として著者が進めていた本は『Captured: A True Story of Abduction by Indians on the Texas Frontier』。これも興味ある。

本書に登場するカイオワに育てられた少女はドイツ系の移民で、実際テキサスにはドイツ系の移民が多い。旅の途中に出てくる Fredericksburg(フレデリックスバーグ、通称フリッツタウン)には私も何度か行ったことがある。何もないけど古い町並みが残る小さな町で、メインストリートにはドイツ系の名前の店が多く、レストランのおすすめはドイツ料理でメニューもドイツ語併記だったので、なるほどドイツ移民の町なんだな、と思った記憶があります。

フレデリックスバーグ、ハリケーン大丈夫だったかな。サンアントニオやオースティンあたりの内陸部は比較的大丈夫みたいだけど、東南部の海岸沿いがひどいことになっていて、ヒューストンのダウンタウンは広大な沼のようになってるんですけど、これはどうやったら水が引くの……。

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by rivarisaia | 2017-08-30 23:02 | | Trackback | Comments(0)

They Were Like Family to Me

第二次世界大戦中のドイツ占領下のポーランドが舞台の、ホロコーストをテーマにしたマジックリアリズムな連作短編集。これがすごく、すごくよかった。じつは去年から気になってたのになんとなく読むのを躊躇してたけど、早く読めばよかった。

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They Were Like Family to Me』Helen Maryles Shankman著、Scribner

最初は『In the Land of Armadillos』というタイトル(右の表紙)で出版された本。全部で8つの話を収録。

ユダヤ人の絵本作家に子供部屋の壁画を描かせるSSの将校、パルチェフの森に潜むパルティザン、森林地帯に身を隠す人々、ふらっとやってきて「人を救うのもうやーめた」と宣言する救世主、ある日突然現れたゴーレムらしき謎の男……

ウォダバという小さな町の、ポーランド人、ユダヤ人、ドイツ人たちのおはなし。すべてに共通して登場するカギとなる人物がドイツ人将校 Reinhartと、鞍作り名人のユダヤ人 Haskel Sorokaのふたり。

世界はこんなにもカラフルで美しいのに、人間はどこまでも非道なのだった。気持ちが和んだのも束の間、はっと息が止まるほど絶望的な瞬間がふいにおとずれる。読んでいて「あっ!」と思わず口にしてしまうほど。

どの話も、善と悪、真実と嘘がはっきりと区別できない曖昧な境界の上にあって、それぞれ心に刻まれるんだけれども、特に印象深いのが、ユダヤ人をドイツ兵に密告しまくっていた男が仕方なくユダヤ人の少女を匿うはめになる「The Jew Hater」と、シンドラーのようなドイツ人将校 Reinhartを主人公にした「A Decent Man」のふたつ。

Reinhart は「彼のもとで働くユダヤ人は命を守ってもらえる」と評判の、みんなから愛される男。「情け深い」彼は、自分の地位と権力をおおいに利用してユダヤ人たちの命を救うと心に誓う。一見、好ましい人物に見えるけれども「ユダヤの救い主」たらんとしている彼には傲慢さはなかったか。

「A Decent Man」の中で、Reinhart が警察隊をもてなす場面が出てくる。「ハンブルクから来た」という警察隊の男性がユゼフフでの任務の話をすることからも、彼らはまさしく先日の『普通の人びと』の第101警察予備大隊なのだった。

また「The Jew Hater」と「A Decent Man」に共通して出てくる「話す馬ファラダ」は、グリム童話の「ガチョウ番の少女」に登場する馬がモチーフ。

巻末の著者のエッセイによれば、どれも両親や家族の経験談がもとになっており、Reinhart にもモデルがいた。おとぎ話のようなマジックリアリズムを取り入れたのは、恐ろしい現実から距離をおいて、私たちがもうすでに知っている事柄を新しい視点でとらえるため。おとぎ話というのは、人々に警告を伝える役割があって、またいつまでも忘れないために語り継がれていくものだから。

●収録話
In the Land of Armadillos
The Partizans
The Messiah
They Were Like Family to Me
The Jew Hunter
The Golem of Żuków
A Decent Man
New York 1989




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by rivarisaia | 2017-08-24 23:54 | | Trackback | Comments(2)

見たもの読んだものについての電子雑記帳


by 春巻まやや
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