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『The Friend』

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The Friend』Sigrid Nunez著、Riverhead Books

2018年全米図書賞受賞作。

主人公の「わたし」は物書きであり大学の教授でもある女性。同じく物書きで、教授で、主人公の良き師でもあった長年の親友である「あなた」が自殺してしまい、残された年老いた巨大なグレート・デーン「アポロ」を引き取るはめになってしまう。「わたし」は猫派であり、おまけに狭いアパートはペット禁止だったために退去勧告も受けてしまうのだが……

愛と友情、悲しみと癒し、そして女性と犬の絆の物語、という紹介文からして、馴れない老犬とのてんやわんやの生活が描かれているのかなと想像していたら、それはそうなんだけれど、なにやら印象がかなり違った。

「犬との生活」が物語の背景にあって、主人公である「わたし」の「意識の流れ」がメインになっている。犬に関するトリビアを披露したり、昔のことを思い出したり、「わたし」はあれこれと思索する。動物について、文学や映画について、死について、書くことについて、友情について、愛について……と実にさまざまな思考が自由に流れていく。このパートを面白いと思うかどうかという点では読者を選ぶのかもしれないけど、私は面白いと感じる部分が多かったです(そうでもないところもあったけど)。

以下、内容にふれます。

物書きである「わたし」は、「あなた」のことを何か書いてみたらどうかと勧められていて、第11章は「わたし」が書いたと思われる創作のエピソードになっている。「あなた」の自殺がもしかして未遂に終わって、「あなた」が生きていたかもしれない世界の話。

この本のレビューサイトでのディスカッションを見ていたら、第11章こそ現実で、他の章が創作なのでは?と解釈している人がいて、それも面白いなと思いました。でもこの後につづく最終章で人称代名詞の指す対象が変化する。これまで「you=親友」だったのが、「you=アポロ」になってるんですよね。やっぱり11章は主人公が書いた「こうであってほしかった物語」だったんじゃないかなあ。書いたことで自分の気持ちに折り合いをつけることができたので、最終章で「you」の対象が変化したのではと考えたんだけど、どうでしょう。



# by rivarisaia | 2019-11-10 20:07 | | Trackback | Comments(0)

ある妊婦の秘密の日記:東京国際映画祭2019

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ある妊婦の秘密の日記(The Secret Diary of A Mom to Be/Baby復仇記)』監督:ジョディ・ロック/陸以心


広告代理店でバリバリ仕事をしていて、ベトナムに栄転か!?というタイミングで妊娠が発覚したカーメン(ダダ・チャン/陳静)。子供なんてちっともほしくなかったのに、しぶしぶ妊婦になるものの、母性なんて育たないし、夫は気持ちをわかってくれない。
一方、バスケ選手の夫(ケヴィン・チュー/朱鑑然)のほうは、父親としてやっていけるのか自信がなく、情緒不安定な妻にどう接していいのかもわからない……

というドタバタコメディで、おせっかいな義母、義母が連れてくる胡散臭さMAXの男性のケアシッター、にぎやかな女友達と、まわりの人たちに嫌味な人がひとりもいない。悩める妊婦たちについて面白おかしく描いてるけど、要所要所でけっこうリアルなんじゃないかなと思った。

妊娠したことないからわかんないけど、たぶん私もこうなるんじゃないかね、というところもあったり、友人もそんな感じだったよなと思い出したり。大体、妊娠してすぐ母性が育つことに対して懐疑的というか、私のまわりにはお腹に向かって微笑んで話しかけるみたいな人がいなかったので……。個人的にツボだったのは、カーメンの見る悪夢。体が変化するんだから、そりゃうなされそうだよね。

カーメン自身がとても憂鬱になってしまうのは母親の思い出が原因であることが後でわかる。でもきっと仲直りするんじゃないかなー。

あとね、出産の大変さをうかがい知るのに、男性が見るといいんじゃないかなって思いました。出産準備期間に鑑賞して、あの人形をプレゼントしたらいいかもね。

私の今年の東京国際映画祭はこれでおわり。日程があわずに断念した作品も多かったので、どこかで観る機会がありますように。


# by rivarisaia | 2019-11-06 17:49 | 映画/アジア | Trackback | Comments(0)

ラ・ヨローナ伝説:東京国際映画祭2019


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ラ・ヨローナ伝説(La Llorona)』監督:ハイロ・ブスタマンテ

グアテマラの映画。かつてグアテマラでは内戦があり(終結は1996年)、多くのマヤ人が殺戮されたという史実が映画の背景となっています。

ジェノサイドを指示した罪で告発されている将軍の家では、夜な夜な女性の泣き声がすると将軍が訴え、家族はアルツハイマーの進行を疑うが、使用人は恐れをなしてひとりを除き全員辞めてしまう。そこに新たに若い女性が雇われることになるのだが……

将軍の家では、ボディガードの男性はいるものの、家族は女性ばかり。老婦人である将軍の妻、医師をしている長女とその娘、そして古株のマヤ人のメイドがいる。他の使用人たちが怖気づいて逃げ出す中、ひとり残るこのメイドは将軍家に非常に忠実なのだが、その理由はのちのち判明する。

将軍の長女の夫はどうやら行方不明であるらしく、直接的には言及されないけれど、母親やボディガードとの会話から察するに失踪には将軍が関与しているのではないかという気がした。おそらく人権を尊重する人物だったのではないか。

監督いわく、これは3部作の3つ目の作品で、3部作全体のテーマは「侮辱」だとのこと。侮辱され差別されている代表的な対象が3つあり、まず、グアテマラではマジョリティのはずなのに差別的な扱いを受けている「マヤの人たち」。それからマチズモの社会で女性的だとされて蔑まれている「ゲイの人たち」。ゲイの人たちへの差別は、女性を下に見ているという思想とつながっている。そして最後は「共産主義」で、これは政治的な意味ではなく「人権=共産主義的発想」だととらえられているから(これは日本でもそうじゃないですか? 人権が、という話をするとすぐにサヨク呼ばわりするよね)。

大量虐殺を指揮し、マヤの女性たちを虐げてきたのにまるで反省の色のない将軍に対する、ラ・ヨローナの復讐の物語。

ラ・ヨローナの伝説にも女性蔑視的なところがあり、女性だから気がふれて我が子を殺して呪われた、というオリジナルの話を、そうではなかったという形で語り直したと監督は話していました。


メモ:劇中ではスペイン語のほかに、カクチケル・マヤ語、イシル・マヤ語も話されています。


# by rivarisaia | 2019-11-05 22:28 | 映画/洋画 | Trackback | Comments(0)

動物だけが知っている(東京国際映画祭2019)

今年の私のTIFF動物枠*。すごく面白かった! 強いて言うなら内田けんじの映画のようにひとつの出来事を複数の視点で見せていって、最後に驚きの事実が明らかになるという構成です。起きたことはかなりひどいんだけど、笑っちゃった(場内もかなりウケていた)

*動物枠とは、印象的な形で動物が登場する映画で、TIFFは昔から動物枠映画がある。今年も何本も動物枠あった中でこれを観ました。

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動物だけが知っている(Only the Animals/Seules Les Bêtes)』監督:ドミニク・モル

冒頭、いきなりヤギを背負って呪術師の元に赴く少年から話がはじまる。あれ、アフリカの話?と思っていると一転して舞台はフランスの雪深い農村へ。

農村では都会からやってきた女性の失踪事件が起きていた。人付き合いの悪いひとり暮らしの農夫が怪しまれるが、やがてその農夫と不倫していた女性の夫も失踪してしまい……

謎が謎を呼んで、いったいどんなふうに話が転ぶのか予想もつかない。

メインとなる視点人物は、

  • 怪しい農夫と不倫をしてた農家の女性
  • 怪しい農夫
  • 行方不明となる女性と恋愛をしていた若い女性
  • コートジボワールの若者
  • 怪しい農夫と不倫してた女性の夫

え、なんでいきなりコートジボワール!?と思うでしょう? 私も思いました。雪山の田舎といったいどんな関係が? それがまさかそうつながるとは……という感じで、いやはや人間とはなんとマヌケで悲しい生き物であることよ。ラストのオチもここまでくるとけっこう怖い。世の中に偶然などない、というようなことを言っていたコートジボワールの呪術師、じつはものすごい力の持ち主なのでは?


# by rivarisaia | 2019-11-03 21:42 | 映画/洋画 | Trackback | Comments(0)

ファストフード店の住人たち(東京国際映画祭2019)

今年の東京国際映画祭は全部で4本だけ。最初はこれでした。

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ファストフード店の住人たち(i'm livin' it/麥路人)』監督:ウォン・シンファン/黃慶勳

某大手ファストフードチェーンを思わせる原題ですが、24時間営業のハンバーガー店に寝泊まりしている、いわゆる「マック難民」の人々を描いた人情味あふれる物語。

家族と喧嘩して家を飛び出した少年は、ある日ホームレスの男性(アーロン・クォック/郭富城)と出会い、街でしたたかに生きていく術を学ぶ。どうやらかつてエリートだったらしいこの男性は面倒見もよく、仲間からも慕われていたのだけど……。

家出少年、元エリートの証券マン、夫を亡くして義母の借金を肩代わりするシングルマザー、場末のクラブで歌手をしている女性など、登場人物はみなそれぞれに貧困にあえぎ苦しい人生を送っている。しかし、やたら情に厚い人ばかりなので、話が悲惨になりすぎなかったのが救い。現実はなかなかこうはいかないだろうから、都会のファンタジーの趣というかある種の希望を見せてくれているのかも。

街中では無料のお弁当が配られていたり、道端に置かれた冷蔵庫に「ご自由にどうぞ」と書かれて食べ物が入っていたり。これらが実際にどの程度普及しているものなのかわからないけど、これもこういう優しさは大事なのでは?という提案にも見える。

あと、これは実際に存在するそうなのですが、公園のトイレに無料で使えるシャワーがあるのはびっくりしました。

アーロンが親しくしている場末の歌手がミリアム・ヨン/楊千[女華]。彼女はアーロンがバリバリの証券マンとしてきらびやかに活躍していた頃を知っていて、転落した彼のことを親身になって支えているけど、それが同志みたいな関係でよかった。

映画の後にQ&Aがあり、さらにその後、なんと握手会もあって、アーロンとミリアムと監督に握手してもらいました。なんの心の準備もしてなかったけど、四天王のひとりと握手するとは思ってなかったので、とにかくびっくり。東京の滞在楽しんで!と伝えました。


# by rivarisaia | 2019-11-02 23:58 | 映画/アジア | Trackback | Comments(0)

Where the Forest Meets the Stars:星からやってきたという少女

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Where the Forest Meets the Stars』Glendy Vanderah著、Lake Union Publishing

母を亡くして、自身も乳がんの手術を乗り越えたばかりのジョアンナ(ジョー)は、大学院で鳥類学を研究しており、鳥の巣のリサーチのため夏の間をイリノイの田舎で過ごしていた。早朝から夕方まで孤独に作業するジョーの前に、ある晩不思議な少女が現れる。

アーサ(Ursa)と名乗る少女は、5つの奇跡を見るために宇宙から地球にやってきたと話す。

少女の話を到底信じられないジョーはシェリフに通報するが、少女は身を隠してしまう。その後、ふたたび姿を表した少女をしぶしぶ家に泊めるジョーは、謎の少女について近隣に住むゲイブに相談するのだが……


という大まかなあらすじだけしか知らずに、どっちの方向に進むのか全然わかんない状態で読みました。たぶんその方がいいかも。

アーサは、果たして宇宙人なのか、そして5つの奇跡を目撃したら星に帰っちゃうのか、どうなるのでしょう。それは読んでのお楽しみ。

サイエンティストであるジョーも彼女の周囲の人たちも、宇宙人話は到底信じられないので、行方不明者リストを当たってみたりもするんだけれど、アーサに似た少女の届けは出ていない。最初に呼んだシェリフもあまり助けにならず、かといって少女を放ってもおけずに仕方なく家に泊めることになってしまう。しかし見ず知らずの未成年を家に泊めるというのは善意であっても犯罪になってしまうため、ジョーと彼女に協力することになるゲイブの二人は大きな問題を抱えることになります。

それぞれトラウマを抱えて孤独に生きてきたジョーとゲイブなのですが、年齢の割には聡明なアーサに興味を持ち、またアーサもジョーとゲイブにとても懐いてしまい、3人はまるで家族のようにどんどん離れがたくなっていきます。しかしそこで予想もしない事態が発生するのでした。

私の想像とは全然違う展開だったし、最後のほうがやや急ぎ足で、ちょっと不要かなと思う部分もあったけど、面白く読みました。ジョーの親友タビーが最高にすてきなキャラクター。もっとタビーが出てきたらいいのにと思うくらい大好き。こんな友達がいていいなあ! というか、むしろタビーのような人になりたいものです。


# by rivarisaia | 2019-11-01 21:45 | | Trackback | Comments(0)

ボーダー 二つの世界

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ボーダー 二つの世界(Gräns)』監督:アリ・アッバシ

原作・脚本は『ぼくのエリ』の原作者ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト。『ぼくのエリ』がそうだったように、北欧の透明でしんとした空気の中で、しずかにしずかに息をひそめるようにしてくらしている者たちの話。

スウェーデンの税関で働いているティーナには人の心を嗅ぎ分けることができるという特殊な能力があって、違法な物を持ち込もうとする人を見分けることができ、それゆえに同僚や上司からの信頼も厚い。賢くてやさしい性格なのだけれど、他人とは違う容姿であるため孤独な生活を送っていた。寂しさからヒモのような同居人とくらしているものの、彼女が本当にのびのびと自分らしくいられるのは自然の中にいるときのだった。

そんなある日、ティーナは税関で怪しげな旅行者ヴォーレと出会う。本能的にヴォーレに何かを感じ取るティーナだったが……。

これ以上の内容は何も知らないまま観たほうがいいと思います。わたしは予告以外の情報は何も持たずに鑑賞して、話がどう展開するのか皆目見当つかず、途中何度も「えっ!」と驚き、とても強い衝撃を受けました。したがって、ここではあいまいな感想しか書かないでおきます。

美と醜、善と悪、普通と普通じゃないもの、我々の常識と非常識、こちらの世界とあちらの世界を隔てる境界線っていったいなんでしょうか。何度も感情がゆさぶられて、しばらくいろいろなことを反芻しながら考えることになりそうです。観た人の想像に任されているオープンな終わり方だったようにも感じたのですが、新たなはじまりという予感もしました。

ぜひ観て。


# by rivarisaia | 2019-10-28 23:58 | 映画/洋画 | Trackback | Comments(0)

見たもの読んだものについての電子雑記帳


by 春巻まやや
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