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見たもの読んだものについての電子雑記帳


by 春巻まやや
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(さらなる追記あり 9/19/2018)いまだ私が光文社古典新訳文庫を買う気になれないわけ

さらなる追記(9/19/2018):相変わらず、いまだ検索でこの記事を見にくる人が一定数いらっしゃるのですが、ほぼ10年近く前、こうした「制作の姿勢」に対して怒っていた時代は本当に平和でした。

嫌韓・嫌中本、差別本、トンデモ医学本、妄想の域に達してる歴史本などが、複数の大手出版社から平気で出るようになって、さらにはここ数日の『新潮45』の一件です。もはや購買意欲が失せちゃうなーなどと呑気に言える気分ではなくて、こうしたものを出している出版社の本は、たとえ関係ない部署の本だとしても、購入しようという優先順位は果てしなく下がっています。

優先順位の下がりっぷりは、この記事の時の比ではなく、もう本当に出版社からの納得のいく見解をみない限り、他人を傷つけるような言論を出している出版社の本は買いたくない。新潮社がどんなによい文芸書を出していたとしても、無理です。わたしの予算だって限られてるんだし。幸いなことに、よい本だけを出している出版社はまだまだあるので、そうした真っ当なところを支持します。

言論の自由や表現の自由には制限があることを忘れているのではないですかね。人権を侵害したり、差別や暴力、憎悪を唱道するのは自由の中に含まれていないし、そうした事項に対する両論併記などありえないです。

不買的な意思表明をするのはどうかなと迷ったけれども、この記事がいまも読まれているのにフェアじゃないと思ったので長い追記をしました。


追記(3/1/2017):こちらは2009年に書いたものですが、なぜだかいまでも検索してくる人が一定数いるようです。最近では私の気持ちも落ち着いていまして、この件に対してはもうこんなにもやもやしてないので、記事取り下げたほうがいいのかな?とも考えたのですが、やっぱり「文句があるなら自分でやれば」というのは、言ってはいけない言葉だし、私もそういう発言をしないように気をつけよう、と改めて思ってしまったので、しばし残しておくことにします。

新訳文庫に期待するのは、定番の翻訳がふつうに入手可能なものの新訳よりも、良い本なのに訳されてない、絶版になっている、訳文が古すぎるというものをたくさん訳してほしいです。そういうところに期待しています。

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つい先日、知人と話していて、翻訳小説って売れないんだねえ…という話題から、新訳は前よりも出てるね、という流れになって、思い出した。

私は過去に光文社の古典新訳文庫に対して浮かれたエントリを書いたのですが、その後、同社の姿勢に頭にくる一件があって以来、このシリーズを図書館でかりることはあっても、買う気がおきなくなってしまった。

そう、あれは忘れもしない昨年の6月、発端は野崎歓訳スタンダールの『赤と黒』をめぐる誤訳論争でした。最初に批判したのは立命館大学の下川茂教授(参照)。そしてそれは亀山郁夫訳『カラマーゾフの兄弟』への批判へも波及しました。

誤訳の話は、明らかに間違っているものを指摘するにとどまらず、誤訳というより日本語が変という国語の問題に発展したり、表現や解釈の違いを言い出して砂かけ論になったりもする。そもそも言語が違う以上、絶対的に正しい翻訳なんてないので難しい。

が。

くだんの『赤と黒』のケースの場合、私がひっかかったのは、訳ヌケ、つまり訳し忘れて欠落している箇所がかなりあるという点でした。

出版物の場合、翻訳者だけではなく、編集者にも責任はある。翻訳者も人間なので間違いもするし、凡ミスだってある。そこを補うべく、チェックするのが編集者の役割なんですよ。原文と訳文の照らし合わせチェックのできない編集なんて意味ないというか、編集として機能してない。原書の言葉がわからないなら、チェッカーや校閲に仕事を依頼すればいいんだし。

もちろんつけあわせをしても、訳の間違いに編集サイドが気づかない、単語の訳し忘れを見落とすなどといったことも起こり得ますが、欠落があまりに多いとなると、どういう仕事をしてるのか、ほかの本は大丈夫なのか、と私は不安になります。

そしてこの件で私がブチ切れたのは、光文社文芸編集部の駒井稔編集長の当時の発言。いまさらですが、私は決して忘れませんよ、という意味で引用しておく。

「当編集部としましては些末な誤訳論争に与(くみ)する気はまったくありません。もし野崎先生の訳に異論がおありなら、ご自分で新訳をなさったらいかがかというのが、正直な気持ちです」


段落まるごと訳し忘れって「些末」じゃないし、挙げ句のはてに自分で訳せだなんて、出版社の姿勢としてありえない。ただ読みやすければいいのか、たくさん売れたらいいのか。新訳で出す意義ってそういうことじゃないよね。

読者をバカにするにもほどがある、と昨年この言葉を見たときに頭に血がのぼって怒りまくったのでした。

指摘があった場合、それが真っ当なであれば真摯に受け止め、修正した場所を明らかにして改訂版を出せばいいじゃないですか。初版1刷で絶版になる本ではなく、売れてる本なんだからなおのことですよ。『赤と黒』は増刷時に何カ所か訂正したらしいけど、どうもすっきりしない。

あれから1年が経ち、タイトル数も増えたところで出版社としての姿勢は正されたのだろうか。このシリーズの表紙を目にするたびに、あの編集長の発言が脳裏によみがえって購買意欲が失せるという状況からいまだ抜け出せず、私が受けた悪印象が払拭されるにはもう少し時間がかかるとみた。なかにはおもしろかった本もあるだけに、もやもやします。
Commented by まるま at 2009-09-10 22:19 x
引用されている発言は大ショックです。どこどこ(←場所)に足を向けて眠れないという表現が真っ先に頭に浮かびました。ああ無情……。
Commented by まるま at 2009-09-10 22:27 x
連続投稿ですみません。足を向けて眠れない、ではなくて、足を向けて寝られない、ですね。とほほ。こんなふうに後から気づけば、増刷時(たくさん増刷されるなんてすごいですよね!)に訂正したくなるのが人情では、と思います……。
Commented by ゆずきり at 2009-09-10 22:49 x
仕事しているオトナの発言とはおもえないですね、編集長。確かに買う気なくなります。私結局『プークが丘のパック』しか買っておりません。よかったもっと買わなくて。と思っちゃいますね。
本というのはロングセラーというのが成立しうるのだから、そんな切り売りな適当な仕事でやってると、自転車操業になって大変なんじゃないかなあ、かえって。
それから、ぬけてるってのは、誰が見てもぬけてるんでしょうから、訳者の方も、そんな凡ミスを指摘されて、直したくならないのかなー。
Commented by rivarisaia at 2009-09-11 19:02
>まるまさん、
引用元は当時の産経で、売り言葉に買い言葉だったのかもしれないけど、同業に近いところにいるせいかあれは衝撃でしたよ…。

本来なら、1年前に書くべき内容でした。いまさらほじくり返す必要があるのかとかなり迷いながらも、どうしても払拭できないものが残っているのでアップしてしまいました。

ふつうは訂正したくなっちゃうはずですよねえ。
Commented by rivarisaia at 2009-09-11 19:23
>ゆずきりさん

訳者も編集者もぬけてるのは絶対直したくなっちゃうはず! 好意的に考えるなら、編集長は翻訳者と編集者をかばった発言だったのかもしれないですが、言葉を選んだほうがよかったと思う。

シュペルヴィエルの『海に住む少女』やロダーリの『猫とともに去りぬ』は買おうかなーという気になるんですけどね...。なんか躊躇しちゃうんですよ。いまだに尾をひいてまして。

いまや、出版界ではロングセラー本は危機的状況の1歩手前です。一頃より落ち着いたかもしれませんが、新刊を次々に出さないとまわらないので、良書があっという間に埋もれていっちゃうのも困りものです。

Commented by min at 2013-07-14 15:32 x
ぼくは光文社の古典新訳のほうがよっぽど信用できる、なぜなら出版された瞬間から次々と誤訳が発見されていくから。光文社には、これからもどんどん、誤訳が発見される小説を出版して欲しい。是非とも、完璧な、書き込みだらけの新訳書を作るべきだ。我々読者の頭を賢くしてくれる優れた翻訳(笑)を、光文社は出版するべきだ。
Commented by rivarisaia at 2013-07-15 16:04
minさん、こんにちは。4年も前のこのエントリにいまだにアクセスがあるようで、どうしようかな…と思ったのですが、当時の記録として残しておくことにしました。

さて、最近ではこのシリーズもタイトル次第かな、と思うようにもなりました。タイトルによってはとてもいいし、タイトルによってはあまりよくない、という感じです。

完璧な翻訳というのは決してありえないし、時代性もあると思うので、いろんな人に文句言われたり評価されたりしながらも、光文社をふくめ、いろいろな出版社が翻訳物を出し続けてほしいです。
Commented at 2018-03-07 21:10 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by rivarisaia at 2018-03-20 00:24
ハガキはわりと読まれてますよ! きちんと修正されたり、回答いただけたりするのは、とても真摯な対応でよいですね。誠実な姿勢は大切だと思います。
by rivarisaia | 2009-09-10 01:54 | 書籍 | Trackback | Comments(9)