リンさんの小さな子

クローデルの『ブロデックの報告書』を読みまして、ひさびさに充実した時間を堪能しました。共同体は余所者を排除することで平和を保ち、人間は負の記憶を消し去らなくては生きていけず、世界は恐怖が支配する。もうちょっと余韻に浸りたいので、まだ感想は書きません(って、いつか書くのかどうかも不明)。ちなみに同書は高校生ゴンクール賞受賞作。フランスの高校生ってすごいね...。

さて、代わりと言ってはなんですが、クローデルの別の著作を紹介しておきます。

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リンさんの小さな子』フィリップ・クローデル著、高橋 啓訳、みすず書房

戦争で家族を失ったリンさんは、生まれてまもない孫娘を抱いて祖国を離れ、船にゆられて異国の港町へとやってきた。まったく言葉の通じない国で、リンさんはある日ひとりの太った男と出会う。バルクさんという名のその男性は、最近妻を亡くしたばかりで悲しみにくれていた…。


小学生にも読めるくらいの平易な言葉で書かれた、"すっきりとした"物語ですが、一見すっきりとした裏側には戦争や友情や悲しみや喜びや優しさや奇跡といった、さまざまな事柄がぎっしりとつまっています。

なれない手つきで懸命に赤ちゃんの世話をするリンさん。赤ちゃんの名前は、リンさんの国の言葉で「穏やかな朝」を意味するサン・ディウ。バルクさんはそれをフランス語の「サン・デュー(神なし)」だと勘違いする。そもそもリンさんとバルクさんは「こんにちは」しか言葉が通じない。でもふたりの心は言葉を超えて通じあうことができるのだった。

この物語にはハッとする瞬間があり、その瞬間、それまでモノクロームで思い描いていた世界にさあっと色がついたのでした。これは読書ならではの体験。神様なんていないかもしれないと思えるような世界にも、穏やかな朝のように希望はおとずれ、そして奇跡も起こるのです。
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by rivarisaia | 2010-01-26 23:58 | | Trackback | Comments(0)

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