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見たもの読んだものについての電子雑記帳


by 春巻まやや
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チェイサー

そういやこの映画って、去年の5月頃の公開ではありませんでしたか。劇場で観るつもりだったのに、「ものすごくいい映画だけど、かなり落ちるよ」と口々に言われて腰が引けているうちに、公開が終了していたのでした。で、すこし前にようやく意を決してDVDで観たわけですが…

落ちたね。絶望という名の底なし沼に。でも、すごくいい映画ですよね。未見の人は鑑賞したらいいと思う。落ちるけど。
チェイサー_b0087556_184891.jpg

チェイサー(The Chaser)』監督:ナ・ホンジン

2004年に韓国で実際に起きた連続猟奇殺人事件をもとにした映画。
デリヘルを経営している元刑事のジュンホは、店の女性が相次いで失踪したことに頭を悩ませていた。ある晩、ジュンホは女の残した携帯電話の着信履歴から、顧客のひとりであるヨンミンが関わっているのではないかと疑いを抱く…。

デリヘル経営者が執念で殺人犯を追う話と思いきや、確かに大筋はそうなのかもしれませんが、そう単純な話ではなかった。

もともとは正義感からではなく、「女には手付け金払ってんだよ、勝手にいなくなられちゃとんだ迷惑だ!」という動機で犯人を追うはめになったジュンホ。そして意外にあっさり捕まり、警察に連行されるヨンミン。しかし、ここからが本当の悪夢のはじまり。

監督は犯人の動機も、どうしてそんな人物になってしまったのかという背景も明確には描かない。そこを出したら、きっと観客が安心するからだ。「ああ、そういう育ち方をした人がそういう理由で人を殺してるのね、恐いわねー」と他人事になっちゃうからだ。この映画はそういう安心感をぜんぜん与えてくれない。

さらに警察が肝心なときにまったく役に立たない。だから犯人が捕まってひと安心ということにもならない。だれの努力も報われない。些細なことが積み重なり、なすすべもなくひたすらずぶずぶと絶望という名の底なし沼にはまっていくしかない。

これは…なんと言えばいいんでしょうね。

少し先に光がさしこんでるのは見えるのに、どうしてもそこにはたどりつけない、あるいは差しのべられた救いの手に届いたと思った瞬間、つかんだ手がずるりとすべって、ドーン!と奈落の底に落ちていく、そんな感じ。

とくに後半のある場面で、ああもうだめだ…絶望ってこういうことか、と嫌でも追体験させられる箇所があり、私は久々にかなり落ちました。3日くらい引きずりました。だってまさかあんなことになるとはふつう思わないじゃん!

しかもその場面の描かれ方が、とてつもなく効果的で、ぐりぐりと脳裏に刻み込まれた感じですよ。目をつむるといまでも蘇るよ。私はあれでかなりどっと来てしまい、ラストなんてもぬけの殻の虚脱状態になってましたからね(遠い目)。

えーっと、本作はディカプリオがリメイク権買ったという話でしたが、欧米人にはあのじめっとした画面は出せないだろうなあと推測するので、たぶん同じ絶望底なし沼でもちょっと違った印象になるんじゃないかと思います。
by rivarisaia | 2010-04-30 01:13 | 映画/香港・アジア | Trackback | Comments(0)