少年は残酷な弓を射る

邦題は詩的で美しいところがよいのですが、本作ははじめからおわりまで原題の「私たち、ケヴィンについて話しあわなくちゃ」という悲痛な声が聞こえてくるような、そんな話ですので、なにゆえにそのタイトルにしたのか!と話し合いたいところではあるが、まあ仕方あるまい(最近の私は割とあきらめが早い)。

音楽や色の使い方が絶妙で、特に赤い色が強烈な印象を放っています。トマトの赤、ブラシで必死にこすりおとすペンキの赤、点滅するライトの赤、芝刈り機の赤、スーパーマーケットの缶詰の赤、洋服の赤、ボールの赤、閉まった扉の赤。赤、赤、赤。赤は血の色であり、それは母子の絆の血。

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少年は残酷な弓を射る(We Need to Talk About Kevin)』監督:リン・ラムジー

小さな家にひとりで住んでいるエヴァ。朝起きると、家にも車にも真っ赤なペンキが投げつけられている。旅行作家として夫とふたりの子どもとくらしていたエヴァにいったい何があったのか…


原作も衝撃的でしたが、これはかなりよい映画化です。エヴァの現在と過去が交互に描かれて、いったい全体彼女の身の上に何が起こったのかが、徐々にわかってくる構成。明かされる彼女の過去は(想像つくだろうとはいえ)あまりに重く、出口のない悪夢なのだった。女性にとってはかなりホラーですが、男性はどう感じるんだろう。

また、本作ではケヴィン視点も夫視点も一切ありません。そこがまた原作に忠実たるゆえんです。ここ重要です。なぜその視点がナイのか、よく考えてみよう!

子どもを妊娠しているときからちっとも嬉しそうではなく、孤独なお母さん。息子は小さい頃から問題児で何かがおかしいことに気づいているのは母親オンリー。理想の家族像を頭に描いている父親は、異常にまったく気づいてないのか、無関心なのか、面倒を避けたいのか、そこにいるというのに、この家族において父親は不在である。よく考えてみると、父親だけじゃなく、「何も心配ないですよ」という医師の男性もオフィスの同僚の男性(→すげーむかつく)もそうなのだが、男性陣は彼女をまったく理解せず、唯一親切な言葉をかけてくれるのは車椅子の男の子だけだ。

子どもが何かをやらかしたときに、苦しむのも責任を感じるのも母親で、それなのに世間から激しく非難されるのもまた母親なのである。そこにあるのは、母性に対する幻想である。それでも最後まで子どものそばにひとり寄り添うのは母親。しかも主人公はずっと「We need to talk about Kevin!」と心の中で叫んでいるのに、誰にもその叫びが届かない。こんな苦しい話があるだろうか。辛い…辛すぎる。

最後のケヴィンのセリフでね、深い深い溝で断絶されてた彼がちょっと歩みよってきた感じがいたしますよ。実際はどうか知るよしもなく、そのように思いたいところですが、そんなことはおかまいなしにケヴィンの部屋を整えるエヴァがいるのであった。

映画はコミカルな部分もまぶしつつ大変に重苦しく(特に女性には)、非常にすばらしいのですが、原作にはまた違ったよさがあるので次回感想書きます。(→書きました
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Tracked from soramove at 2012-07-16 18:28
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「少年は残酷な弓を射る 」★★★★ ティルダ・スウィントン、ジョン・C・ライリー、 エズラ・ミラー出演 リン・ラムジー監督、 112分、2012年6月30日公開 2011,イギリス,クロックワークス (原題/原作:We Need to Talk About Kevin ) <リンク:人気ブログランキングへ">>→  ★映画のブログ★どんなブログが人気なのか知りたい← 「予告は謎めいていて どんな映画なのかよく分からなかった、 憎しみさえ感じる母親への悪意 それが意味するものは何か? ...... more
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by rivarisaia | 2012-07-10 03:14 | 映画/洋画 | Trackback(2) | Comments(0)

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