The Prague Cemetery(プラハの墓地)

悪名高き「シオンの議定書」をあつかった物語だということは聞いていて、議定書にあまり興味がなければ、ユダヤの陰謀ネタも嫌いなのでながらく保留にしていたのですが、ふと読んでみようという気になりました。

ただし時代が1830年頃から1898年のナポレオン3世やガリバルディの頃、とこれまた私の苦手とする時代…。

まさに理解力に欠ける読者、それが私。という状態だったので、できれば邦訳で読みたいです。余談ですが、描写される食べものが美味しそうですよー。

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The Prague Cemetery』Umberto Eco著、Richard Dixon訳、Vintage Books

ろくな感想は書けないので、ざっくりと本の紹介だけ。

本書は語り手が3人います。ひとりはズバリ「語り手=The Narrator」。もうひとりは主人公となる語り手シモーネ・シモニーニ。彼は何故かここ最近(1897年3月)の記憶があやふやになっており、その記憶を整理するために日記を記し、自分の半生を振り返ろうと試みる。

ところが、ここでダッラ・ピッコラ神父という謎の人物が登場する。ピッコラはシモニーニの人生に深く関わる人物で、シモニーニが寝ている間に彼の日記にコメントを書き残したりする。もしやこいつは俺の分身なのでは?とシモニーニは疑心暗鬼になるのだった。

ということで、本書は、
・シモニーニの日記
・シモニーニの日記にコメントを入れるダッラ・ピッコラのメッセージ
・語り手=The Narratorによるまとめ
という構成になっています。

さてはて。シモニーニは本当に嫌らしい男で、偏見のかたまりである。これはユダヤ人嫌いの陰謀論者っぽい祖父に育てられたせいだと思われます。法律を学んだシモニーニは偽造文書の技術を身につけ、ガリバルディがシチリアに上陸している頃、ピエモンテ共和国の秘密諜報員として活躍しますが、調子にのってやりすぎてしまい、パリへ逃亡。そして文書偽造屋として生計を立てるが…というおはなしです。

本書にはアレクサンドル・デュマやフロイド、パラディウム団事件のレオ・タクシルが登場し、イエズス会やフリーメイソンやカトリック教会やユダヤの陰謀がまことしやかに語られますが、エーコは「主人公のシモニーニだけが虚構で、あとは全員実在の人物」と述べており、シモニーニがやったとされていることだけがフィクションで、それ以外は全部実際に起こった事実…と考えていくと、まさに事実は小説より奇なりというか、事実がホラーすぎて背筋が寒くなるというものです。

ところで、本作はエーコの文学講義『小説の森散策』(エーコ著、和田忠彦訳、岩波)の第6章「虚構の議定書」の内容を小説に落とし込んだもので(読みはじめて気がついた)、議定書に関する歴史的事実はこの第6章でわかりやすく解説されています。あわせて読むとさらに理解が深まるのでおすすめです。


…わたしたちは、小説の森を散策したおかげで、小説という虚構が現実の人生を浸食するメカニズムを理解することができたのです。その結果が、ときには、ベイカー・ストリート巡礼といった愉快で罪のないものだったりもするわけです。ですが、時として、現実の人生を、夢ではなく、悪夢へと変貌させてしまうこともありうるのです。こうして読者と物語、虚構と現実との複雑な関係を考察することは、怪物を産み出してしまうような理性の眠りに対する治療の一形式となりうるのです。
  —『小説の森散策』エーコ著、和田忠彦訳、岩波書店



小説には書かれないけど、虚構が現実を浸食した結果、20世紀にヒトラーがやることは周知の事実。陰謀論を真に受けたり、特定の人種に対する憎悪からありもしない陰謀をねつ造したりするのはおやめなさいよ、ということですね。なんだか最近の日本のことみたい…。
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Commented by fontanka at 2013-06-01 20:32 x
すいません。
本の表紙をみて、エーコではなく「エコ」を連想してしまいました。
これ、コピーライトして小ネタ「バラの名前」をつくります。

ジロもおわり、夫からはプロトン殺人事件をブラシュアップするようにいわれました。
Commented by rivarisaia at 2013-06-03 23:18
今年のジロは天候に恵まれず、なんとも過酷なレースになっておりましたね。プロトン殺人事件では天候がカギを握ったりしないのかしら。

ツールが100周年ということもあり、いまから楽しみです!

Commented by fontanka at 2013-06-05 20:47 x
「プロトン殺人事件」にはエピソードが沢山あって、
天候もありますよ→まさかの雪で○○峠にいかなくて、計画が狂う

雪に死体を埋める(?)とか
Commented by rivarisaia at 2013-06-05 20:58
「まさかの雪で○○峠にいかなくて、計画が狂う」って、それはまさしく今年のジロ!!
天候が悪くて中継できない、っていうのも使えそうですね。うふふ。

by rivarisaia | 2013-05-28 21:45 | | Trackback | Comments(4)

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