His Bloody Project

ブッカー賞ショートリストに残った作品の中で一番気になって、さっそく読んだ本。賞を取るかどうかはさておき、この本をショートリストに残してくれてありがとう! これは面白かった。

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His Bloody Project』Graeme Macrae Burnet著、Contraband刊

1869年、スコットランド北東の海沿いにある小さな村カルダイーにて、三人の村人が惨殺されるという事件が起きた。犯人は17歳のRoderick Macrae。彼が有罪なのは疑う余地もないが、なぜ犯行に及んだのか。被害者とはどのような関係だったのか。そして、そもそも彼は正気だったのか。

ノンフィクションの体裁をとったフィクション。”著者”がたまたま手に入れた「犯罪者の手記」を中心に、村人の証言、検死報告書、犯罪学者の記録、裁判記録などで構成されてます。複数の視点で語られる、歴史小説+クライムノベル。しかし、真相は藪の中。

今こうして感想を書こうとしてみたら、作中の小さな謎のほとんどに作者が答えを提示してないことに気づきました。ああ、だから何度も反芻してしまうのねー! どんでん返しも、あっと驚く展開も別にないんですけど、妙に後を引く話なんですよ……。

19世紀スコットランド寒村の小作農の厳しい生活は、ちょうど同じ頃にあたる明治初期の日本の貧しい農村の生活と共通するところがある印象も受けました。日本の状況と比較して読んでも面白いかも。

本書の語り手のひとりでもある犯罪学者(この人は実在の人物)の上から目線の物言いも、笑ってしまうくらい鼻につくけど、これは「インテリ層から見た貧しい農民」の姿であり、堕落した貧困階級から生まれる犯罪者という彼の自説は現代でもよく聞く話だったりします。

私には理解できていない部分がたくさんありそうなんだけど、当時の小作農が置かれた状況や、階級制度、宗教観に詳しい人が読んだなら、もっと気づくことがあるはず。長老派の教会が精神的支えとしてまったく機能してないことが描かれるんですけど、意図があるのかな。あ、それから、英文(言い回し&単語)も19世紀のスコットランドの人たちの言葉になっているのでやや難解です(一応、用語ページも付いてる)。

さて、邦訳が出るかどうかわからないから以下、少々内容にふれます。

Roderickことロディが殺害したのは、長年彼や彼の父親に嫌がらせをしてきた constable(治安官)のLachlan Mackenzieと、その娘と息子だった。

土地の収益管理人からみれば、Lachlanは汚れ仕事を引き受け、人々に規律を守らせ、治安官として信頼のおける人物なのだが、ロディの手記を信じるなら、および近所の人の証言によれば、Lachlanは本当に意地悪で嫌なやつで、ロディが殺害にいたる動機も理解できる。でも娘と息子は?

ロディが言うには、たまたまその場に居あわせたからやむを得ず殺したということなんだけれども、幼い息子のほうはさておき、十代の娘のほうはどうだろう。裁判でも指摘されたように、検死報告の状況からすると「やむを得ず殺した」感じではないんだよね。この点に関しては真実が明らかにならず、読者に考えが委ねられるけど、どうも薄気味悪い。

そう、本書では、曖昧にしか描かれていない「女性にまつわるさまざまな事柄(特に性的なこと)」から、なんともいえない薄気味悪さが漂ってくるんですよ。たとえば、事件の一年ほど前に、出産がもとで死んでしまったロディの母親。予期せぬ妊娠だったというのは、Lachlanと関係があったのでは?とうがった見方をしてしまう。

そしてぼろ雑巾みたいな扱いを受けている(と私は感じた)ロディの姉。家族からも、Lachlanからも性的虐待を受けていた。でも彼女に関する真実も最後までうやむやなままだったりする。近隣の家の娘に対するロディの不審な行動も、もっと問いただすべきことだったのではないか。

ロディは頭のいい子どもで、きっと彼はあえて手記に書き残していないことがある。彼が書いていないことを読むために、もう1回読み返してみます。



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Commented by CHIAKI at 2016-09-18 18:10 x
こんにちは。これすっごく面白そうですね!春巻さんが昔紹介されてた「ミステリウム」をちょっと思い出しました。英語で読むの難しそうなので、どこか日本語版出してほしいです~。
Commented by rivarisaia at 2016-09-26 20:06
これ面白かったですが、英語が難儀したので、邦訳出たら日本語+解説付きで読み直したいです。日本の歴史にも通じるところがあるから、理解しやすい話だと思うんですよね。万が一ブッカー賞とったら、どこか出してくれるかしら。
Commented by chiaki at 2016-10-04 08:52 x
おお、そんなに難しいんですね…。ミステリ仕立てっぽい感じならどこか出してくれそうですけど。ブッカー賞取ったらいいですね。
Commented by rivarisaia at 2016-10-07 18:53
言葉の言い回しが独特でした。先日、ドラマ化の話が出ているという話をどこかで見たので、キャスティングがよければ日本でも見られるかも....とちょっと期待〜
by rivarisaia | 2016-09-16 23:59 | | Trackback | Comments(4)

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