Becoming Nicole:トランスジェンダーの子どもの話

先日、ジェンダー・フルイッドの子どもに関する小説を紹介しました。今回は、トランスジェンダーの子どもに関するノンフィクションです。

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Becoming Nicole: The Transformation of an American Family』Amy Ellis Nutt著、Random House

メインズ夫妻は、ジョナスとワイアットという一卵性双生児の男子を養子にした。双子が歩き始めるくらいの年齢になったとき、ふたりの性格がまったく違うことが明らかになってくる。ジョナスが好きなのはスターウォーズやパワーレンジャー、男の子向けのおもちゃ、それに対してワイアットが大好きなのはバービーやディズニーのお姫様なのだ。やがて3歳になると、ワイアットは、どうして自分にはおちんちんがあるのかと訴えて泣いてしまったりするようになる。

父親のウェインは典型的なアメリカの白人男性で、共和党の保守的な考えの持ち主であり、息子が大きくなったら一緒にキャッチボールをしたり、狩りに行ったりしたいと考えていたし、最初はワイアットの「女の子のような面」は見ないふりをしていた。近所の目も気にしていたし、息子が女の子の格好をするのを快く思ってなかった。

いっぽうで、母親のケリーは、ワイアットは別に変じゃないし、病気でもなく、ただちょっと「違っている」だけ、という考えで、みんなと同じ「普通の」家族を求めていた夫ウェインに対しても普通の家庭なんてものはないと言い、ワイアットを理解しようと積極的に行動する。

このように初めは正反対の考え方だった両親だけど、どちらも子どもを愛していて、やがては父親もワイアットは「男の子の身体に生まれた女の子だ」という事実を受け入れられるようになる。そしてワイアットは性転換の治療を受けて、名前をニコールに変えるのだ。

家族からも、友だちや先生からも受け入れられていたニコールだったが、5年生になった時に事件は起きた。

「孫の通う学校に、男のくせに女だといって女子トイレを使っている生徒がいる」

そう聞いたある男性が、それは由々しきことであり、絶対に許せないと考えたのだ。

彼は孫をそそのかし、ニコールと同学年だったその少年は、ニコールに対して執拗な嫌がらせを始めるようになる。それだけではなかった。キリスト教右派のその男性は学校に激しく抗議し、保守的な宗教団体のサポートを得て圧力をかけるようになったのだ。

最終的に学校は男性側に屈し、ニコールは転校を余儀なくされてしまう。

この件は後に裁判になり、2014年、メイン州の最高裁はニコールと家族の訴えを認め、学校がトランスジェンダーの生徒に対して女子トイレを使用させなかったことは権利の侵害であるとした。2014年って、かなり最近の話だ。

これまで私はトランスジェンダーの人のトイレの問題について、別に大したことじゃないのではと考えていたところがあった。しかし、たかがトイレでは済まないことなのかもしれないと真面目に考えるようになったのは本書を読んでから。またトランスジェンダーである本人やその家族が直面する問題について考えるきっかけとなる本として、本書はわかりやすくてとてもよい1冊だと思う。

ニコールの両親はすばらしい人たちだし、双子の兄弟であるジョナスのことも誇りに思う。特にジョナスにはニコールに注目が集まってしまうがゆえの苦労というのがたくさんあったはず。

また、偏見というのは後から形成されるのではないかと感じたのが、「メインさんちの”男の子たち”についてどう思う?」と聞かれたある子どもの答え。

「ママ、メインさんちの “子ども” についてでしょ? あれは男の子と女の子だよ。ワイアットはたまたまおちんちんがついてるだけで、女の子だよ」

偏見は大人が生み出していることも多いのではないかと思うと、私たち大人の責任は重大だよね。




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Commented at 2016-12-01 21:55 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by rivarisaia at 2016-12-05 15:44
そうなんですね。最終的にその方は戸籍を変えることができてよかったですね。

トイレ(または更衣室なども)の問題は、私は本当に大したことじゃないと気にもとめずにいた期間が長かったので、マジョリティしてみればたかがトイレかもしれないけど、マイノリティにとってはそうではないし、トイレ以外でも同様のことは起こり得る、という点をきちんと意識するように心がけるよう気をつけたいです。
by rivarisaia | 2016-11-28 20:21 | | Trackback | Comments(2)

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