A Gentleman in Moscow
2017年 02月 23日
今回も、表紙がいいな、と思ってあらすじに目もくれず読んだ本。モスクワにやってきた英国貴族の話かな?と勝手な想像をしていたんですけど、まったく違った。あるロシア貴族の30年という月日を描いた、美しい余韻が残る1冊。
『A Gentleman in Moscow』Amor Towles著、Viking
反体制的な詩を書いたとして有罪になったアレクサンドル・ロストフ伯爵は、1922年、モスクワ中心部に位置する高級ホテル、メトロポールに軟禁される。彼がそこで過ごしたおよそ30年間の物語。
メトロポールはクレムリンから目と鼻の先にある実在の高級ホテル。そのスイートルームにひっそり滞在していた伯爵は、革命的な詩を書いたかどでボルシェビキ政府から軟禁を命じられ、ホテルの屋根裏部屋に追いやられてそこで暮らすことになってしまう。ホテルから一歩でも外に出たら、射殺すると言い渡されている伯爵だが、いっぽうで貴族であるにもかかわらず、ロシア革命後に処刑もされず、シベリア送りにもならずにすんだのは、その詩のおかげなのだった。
楽天的でウィットに富んだ伯爵は、ホテルの屋根裏で新しい人生をスタートさせる。とはいえ、そんな伯爵もやはり最初は先行きを悲観して自殺を図ろうとするんだけれども、本当に偶然の、ささやかな出来事があって(この場面が好きなので秘密にしておきますが、キーワードは蜂蜜)、伯爵は死ぬのをやめて、ホテルの中でせいいっぱい生きることにするのだった。
生きるにあたっては働かなくてはならない。ということで、伯爵はホテルのレストランでウエイターの仕事をする。スターリンからフルシチョフへと外の世界がめまぐるしく動いていく中、閉ざされたホテルの中の世界では、さまざまな出会いがあり、魅力あふれる大切な人々との間で友情や愛情が育まれていく。やがて明らかになる真実。守らなくてはならない人のために迫られる決断。はたして、伯爵は一体いつまでホテルにいるのか、外へと出ていくチャンスは巡ってくるのでしょうか、というのは読んでのお楽しみ。
そしてラストシーン。時代によってどんなに外側が変化しても、決して変わらない内なるロシアの精神があるとするなら、それを体現していたのが伯爵だったのかもしれないなーとふと思ったりしました。
春巻さん、こんにちは。この小説は『洋書ファンクラブ』の書評を読んで以来ずっと気になっていたのですが、最近やっと読むことができました。重い歴史小説を想像して「難しいんじゃないかな、理解できるかな」と心配していたのですが、全然違っていて、笑わされたり泣かされたりハラハラドキドキさせられたりで、本当に楽しめました。いちばんよかったのは構成が凝っていたことで、「前に出てきたエピソードが後になって少し形を変えて出てくる」ということがいくつもあり、「やられた~!」という感じでした(←「蜂蜜」も然り)。章ごとのタイトルの頭文字が全部「A」というのも凝っていると思いました。
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rivarisaia at 2018-12-12 13:29
Sparkyさん、こんにちは。この本、わたしも大好きなので、楽しく読んでいただけたみたいでよかったです! 設定だけ聞くと、重くて暗い眉間にしわが寄るような内容にも思えますが、まったくそんなことはなく、伯爵のキャラクターからして最高に素敵ですよね。構成も「あの時の!」みたいなことが何度もあるし、めちゃくちゃハラハラするスリル満点な展開も待ってるし。ラストもよかったです。
そしてあの章タイトルの「A」は「うわ!これは仮に邦訳が出るとしたら、翻訳者泣く!」と思ってしまいました(笑)
そしてあの章タイトルの「A」は「うわ!これは仮に邦訳が出るとしたら、翻訳者泣く!」と思ってしまいました(笑)
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rivarisaia at 2018-12-12 13:34
「おまけ」どうもありがとうございました。読んでから見ると「あぁ、あのシーンだ!」と楽しさが増しますね。
それから、最新記事にコメントしようかと思ったのですが、こちらに・・・
「これを読まずして年は越せないで賞」は、いつも本選びの参考にさせていただいています。今年も楽しみにしています。
それから、最新記事にコメントしようかと思ったのですが、こちらに・・・
「これを読まずして年は越せないで賞」は、いつも本選びの参考にさせていただいています。今年も楽しみにしています。
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rivarisaia at 2018-12-15 14:16
このトレイラー、読んだあとのほうが楽しいですね〜。
「これを読まずして年は越せないで賞」は審査員の独断と偏見も交えつつ、日本の読者にもぜひ薦めたい本を選ぶように心がけていますが、少しでも本選びの参考になるようであれば、嬉しいです! 私も毎年、年末のトークを楽しみにしています。
「これを読まずして年は越せないで賞」は審査員の独断と偏見も交えつつ、日本の読者にもぜひ薦めたい本を選ぶように心がけていますが、少しでも本選びの参考になるようであれば、嬉しいです! 私も毎年、年末のトークを楽しみにしています。
by rivarisaia
| 2017-02-23 23:12
| 本
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