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Pachinko: Min Jin Lee

表紙のデザインが何種類かあるのですが、下の写真のデザインがとてもよくて、出版時にこの本が気になる気になると騒いでいたくせに一年以上経ってようやく読んだ。とてもよい本で、これは邦訳が出なかったらおかしい。

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Pachinko』Min Jin Lee著、Grand Central Publishing

在日韓国人の家族の4世代にわたる年代記。

1910年の日本統治下の韓国から第1部が始まる。釜山の影島(ヨンド)で見合い結婚した夫婦。何人か子供が生まれて死に、一人娘Sunjaだけがすくすくと成長した。1930年代、Sunjaは魚市場の仲買人をしているというKoh Hansuの子供を身ごもるが、彼には日本に妻子がいた。

Sunjaの親が営む下宿屋に滞在していた牧師のIsakは、事情を知った上でSunjaと結婚、ふたりはIsakの兄夫婦がくらす日本に向かう。

第2部は1939年から1962年。大阪の猪飼野にくらすSunja夫婦には、長男Noaと次男のMozasuが生まれる。Noaは成績優秀で東京の大学に進学し、正義感が強くて勉強が嫌いなMozasuはパチンコ屋に就職する。

第3部は1962-1989年。NoaとMozasuはそれぞれ家庭を築いていた。Mozasuの息子Solomonは横浜のインターナショナルスクールで学び、アメリカの大学に留学した後、韓国系アメリカ人の彼女とともに帰国し、外資系企業に就職する……

と大枠はざっくりこんな感じ。ここに書いていないけど、本当にいろいろな、ときに予期せぬようないろいろなことが起きて、人々は時代に、運命に、翻弄される。タイトルの「パチンコ」は、この家族と関わりの深い「仕事」であると同時に、パチンコの玉のように思い通りの方向に進まない人生を象徴している気もした。

在日韓国人の話というと、日本人を非難するような内容なのではと身構える人がたまにいるけど、この本は全然そんな内容ではないし、そんな単純な図式の薄っぺらい物語でもない。日本人にも韓国人にも、いい人もいれば、悪い人も等しく存在する。

もちろん「移民」の話なので、理不尽な困難やいわれのない差別はあり、日本で生まれ育ったのに、日本人にもなれず、韓国でも受け入れてもらえない二世や三世の苦労も描かれている。こうしたことは、形は違えども全世界の移民が経験することで、だからこそこの本は、日本を舞台にした韓国人の話であるにもかかわらずアメリカで大きく話題になったんだろうなと思う。

そうした普遍的な面もありつつ、在日韓国人のSolomonが、在米韓国人の彼女と微妙にすれ違っていって分かり合えないという対比も興味深いし、日本社会のダメなところもまさしくその通りなんだけど、在日だろうが日本人だろうが関係なく、枠組みから外れた人に対して社会は冷たくて、でも社会も国も決して変わらないから、あてにしない、という精神が全体に流れている。大切なのは真っ当に生きること(Solomonの義理の妹で日本人のHanaもそう言っていた)。

以下は余談。

英語の小説で、登場人物が外国語を話していることを表現するためにセリフに外国語を少々混ぜるというのがよくあって、本作も「omoni」「yobo」「oishi」「irasshai」などが時折入っているんだけど、「maji?/マジ?」というのがとても気になった。人名もたまに妙なのがあって、中でもTotoyamaさん。どんな漢字なんだろ。

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Commented by Sparky at 2018-04-20 17:58 x
はじめまして。渡辺由佳里さんのブログ『洋書ファンクラブ』のファンの Sparky と申します。

私は、この小説についての『洋書ファンクラブ』の記事に・・・
英国で暮らすようになってから特に、人種・民族・国籍・性別・職業・宗教・信仰などについて、自分の歴史の知識の乏しさや、自分が持っていた固定観念・先入観・偏見に気づくことが増えました。この本もそういう機会を与えてくれる本でした。主要登場人物のそれぞれに(良い意味でも悪い意味でも)「私もこういうことを考えたことがある」と共感する部分がありました。 Noa と Mozasu の生き方が特に心に残っています。
・・・というコメントを書きました。

「maji?」については私も「この場面で、または、こういう人間関係で、『マジ?』は使わないよなぁ」と違和感を感じるところがありました。「Totoyama」さんは私の頭の中では「戸々山」さんだったのですが、たぶんありませんよね(笑)。
Commented by 古島 at 2018-04-21 21:49 x
 これまた面白そう。そういえば日本の小説界ではこういう年代記ものをあまり見かけないように思います。なぜでしょう。
  思い出したのですが、ペダーセンというノーベル賞獲得者(1987年)は釜山で生まれたそうです。おかあさんは福岡の人で、お父さんはノルウェー人。晩年にはアメリカ国籍をとっていたそうですが。このひとも移民の悲哀をだいぶ味わったことでしょう。激動の時代に直面した世代ですし。
  わたしは時々刃物を研ぎます(主に庖丁)。砥石が社会だとしたら、刃物は移民でしょうか。砥石が擦り減ってへこみ、使いにくくなることがあります。割れ砕けることもあり、砕けたかけらでこまかい研ぎ(ハサミの刃ですとか)をこなすこともあります。
  
 
Commented by G at 2018-04-22 17:18 x
すごい偶然って、世の中にはあるのですね。

私もPACHINKOとい変わったタイトルが気になって、今月8日~17日にかけて読んだばかりです。
そして、この2,3年くらいで読んだ数十冊のくらい洋書のなかでは、最も心を動かされました。

人生ではいろいろの人と知り合います。でも、一人の人間の少女時代からおばあさんになってまでの、生き様をじっくりと知ることは、自分の家族でもなければ不可能です。
でも、この本のおかげでそれが可能となりました。
そしてこの本を読んで感じたのは、「人間はどんなに頑張っても、一人では生きられない。」ということや「日本人にも、日系韓国人にも、他の人を思いやる心優しい人もいれば、他人を踏み台にして自分さえよければいいという人もいる。」ということでした。
日本では日系韓国人が多いわりにその生きざまや・・・また、日本では十人に一人がやっているといわれるパチンコ業界を描いた小説もいままでに出合ったことがなく、私はとても新鮮なものをたくさん感じました。

こんなに日本が主な舞台となっている本なのに、まだ和訳されていないおかげで日本では話題にはならず、本当にもったいないですね。(反面、洋書読みをしていてよかったなと、嬉しく・・・)

はじめての投稿でした。 また機会があったらよろしくお願いします。       G
Commented by rivarisaia at 2018-04-26 10:46
>Sparkyさん

はじめまして、こんにちは! 由佳里さんとは毎年のこれを読まずして年は越せないで賞で楽しく洋書の話をしていますが、この小説は、今年のこれ読まの候補作に入れようということになりました〜(まだ先の話ですけど)。

Sparkyさんは英国にお住まいなんですね。海外でくらすと日本でマジョリティだったときには気づかなかった自分の中の偏見や先入観に気づく機会が増えますよね。

良し悪しは別として Akiko や Phoebe の態度やセリフにもハッとする箇所が多くありました。登場人物の誰もが、住んでる国や人種に関係なく読者の身近に感じられるところがあって、アメリカでベストセラーになったのも納得でした。

翻訳されるときは maji? は修正されると思いますが、Totoyamaさんがどうなるか気になります。戸々山さん、可能性高そうです!(私の想像の斗々山さんより、断然ありえる!)
Commented by rivarisaia at 2018-04-26 11:01
>古島さん

これは面白かったです。言われてみると、日本の小説でこうした家族の一代記は最近あまり見かけないですね。パッと思いついたのは『楡家の人びと』くらい。

ペダーセン氏のこと、まったく知りませんでした。ちょうどこの小説の前半と時代が重なりますね。戦争中はアメリカで働いていたみたいで、母親が日本人だということで苦労されたかもしれないですね。

砥石は刃物のきれ味をよくするためのものであって、逆に刃物を壊してしまうような砥石はダメですね。日本はいまダメな砥石になってるようなところがある気がします。

Commented by rivarisaia at 2018-04-26 11:47
> Gさん

はじめまして、こんにちは! 私もこの本が気になったきっかけはタイトルとパチンコの表紙でした。とはいえ、もしパチンコ業界がメインだったらあまり興味持てないかもしれない...と読む前はやや心配もしたのですが、まったくの杞憂でした。

私も日系韓国人やパチンコ業界をこうした形で描いた小説には出会ったことがなく、とても新鮮で心に響く箇所、考えさせられるくだりがたくさんありました。アメリカの小説だけども、日本社会の描写にまったく違和感がなくて、むしろ指摘がその通りだったりするところも驚きました。

善悪は人種ではなく個々の問題で、また内面の良し悪しも外面から判断できない、というのもくりかえし出てきたかと思います。人種は気にしないとやたら態度に出していた人たちが、結果的にはずいぶん酷いことをしたり。

この小説は日本の話でもあるので、ぜひ日本でも読まれてほしいんですけど、邦訳出なかったらもったいなさすぎますよね。本当にこれは読んでよかった1冊でした。

またいつでもいらしてくださいー。
by rivarisaia | 2018-04-19 22:48 | | Trackback | Comments(6)

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