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ローラ・インガルス・ワイルダー賞の名称変更について知ってほしいこと

アメリカ図書館協会の「ローラ・インガルス・ワイルダー賞」の名称が今年から「児童文学遺産賞/Children's Literature Legacy Award」に変更された件で、趣旨を理解しておらず、勘違いして怒っている人が見受けられるので、ちょっと書いておこうと思います。

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うちにあるシリーズはもともと母のものですっかりボロボロ


まず、私はローラ・インガルス・ワイルダーの著作は大好きなのですが、アメリカ図書館協会の今回の判断を支持します。

日本の報道も誤解を招く要因なのでは?と疑問ですが、まず、言論統制だ、検閲だと思っている人、これはまったく勘違いしています。言論統制でもなければ、検閲でもありません。差別的な表現を削除しろとも言ってません。

そもそも基本的には「賞の名称を変える」だけであり、それは検閲を意味するのでもなければ、読むなとも言っていません。詳しいことはアメリカ図書館協会の声明を読んでほしいのですが、その点は強調されています。

「ローラ・インガルス・ワイルダーの著作は、これまでもそうだったように、これからも多くの読者にとってとても大切なものであり続けるでしょう」

と、最初にアメリカ図書館協会は述べています。それでも今回名称を変えることにしたのは、ワイルダーの本は1800年代のアメリカの開拓者としての経験や視点にもとづくもので、先住民や有色人種に対する描写が現代の多様な社会にはそぐわず、そこがアメリカ図書館協会の価値観と矛盾するからです。

賞の名前を変えるからといって、ワイルダーの本に対する個人的な関わりや気持ちも変えてほしいと読者に呼びかけてもいないのです。また、児童文学に多大なる貢献をした過去の受賞者や作品を否定するものでもありません。

読むのを禁止したり、本について話したり、子どもに読ませないようにしろとも言ってません。

ただ、大人は、ワイルダーの著作に関して批判的に読み解き、議論してほしい、と言っているのです。

批判的に読み解きというのは「think critically」ということですが、時代背景や歴史などを踏まえて多角的な視点で考える、ということです。

これの何が悪いのかな?

またひとつ注意したいのは、日本国内での読まれ方とアメリカ国内での読まれ方は違う、ということです。

日本人としては所詮これは他国の遠い昔の物語ですが、アメリカではもっと身近な話だし、学校の授業で使われることもあります。それこそ時代背景や歴史をふまえた読み方をしないと、傷つく子どもが出ることもあるのです。開拓時代のインディアンや黒人に関する描写が、現代の視点で見ると差別的なのは、確かに当時はそういう時代だったからなのですが、「当時は今と違った」という読み方をきちんとしてきたのかな?

実際に1998年には、スー族の8歳の少女がいるクラスで、教師が「よいインディアンは死んだインディアンだけ」というくだりがある箇所を読み聞かせたことが、大きな問題になっています(ワシントンポストの記事)。

名称が変わらざるをえなくなったのは、これまでの(アメリカにおける)読者(主に白人)が、クリティカルに読むという行為を怠ってきたツケでは?という気もします。

インディアンの描写が一番問題がある巻は2冊目の『大草原の小さな家』ですが、日本語版は巻末に日本女子大学の清水知久先生の「アメリカ・インディアンのこと」という解説がついています。

この解説では歴史的な背景に加えて、日本人も白人と同じような目でインディアンを考えてしまうこと、そして異なる文明を認めるというのはどういうことなのか、今読んでもハッとすることが書いてあるので、読んでいない人はぜひ読んでみてください。

私は英語版のPBも持っているんですけど、残念ながらこういった解説はついてないんですよね。最近の版はどうだろう。Study Guide的なものはついてるのかな? この話はまた続きます。


*続きも書きました(8/2/2018)



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Commented by ricabando at 2018-08-01 01:27
ワイルダーの本は、小説家となった娘のローズの本まで、アメリカ人の娘を育てている時に原文で読みました。ネイティブアメリカンや黒人のみならず、フロリダ州のスパニッシュ系の人種に対する余りの人種差別にショックを受けました。
ニューヨークに住んでいると、そう判断出来るけれど、白人のみの居住区だと難しい問題ですよね。アメリカ図書館協会の判断は正しいと、私も同意見です。
ワイルダーの本は、心から好きなのは変わりませんけれどね。
Commented by rivarisaia at 2018-08-01 23:33
ricabandoさん、こんにちは。
私が夢中になって読んでいたのは小学校の頃で、当時はそうした差別的な表現についてはあまり深くは考えていませんでした。外国の昔の物語という認識だからだと思います。今回の改名に反発しているアメリカの、それこそ白人が多数の地域の人たちは、同じ開拓民の子孫としてワイルダーのことを誇りに思っていて、自分たちの名誉が傷つけられたように感じてしまうのかもしれませんが、その受け取り方はやはりちょっと違うような気がしています。ワイルダーの本は、私も今でも大好きです。
by rivarisaia | 2018-08-01 00:11 | | Trackback | Comments(2)

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