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ワイルダー賞名称変更の続き:先住民の描かれ方のこと

前回はワイルダー賞の名称が変わることについて書きました。そのつづき。




『大草原の小さな家』は、日本では一定の年齢層にはドラマ版のイメージが強く残っていそうで、本に関しては、年齢層を含めどのくらいの読者に読まれているのか、私は知りません。

書籍の「小さな家シリーズ」は、ローラの自伝だととらえる人もいるけれど、あくまで著者の経験をもとに書かれたフィクションです。

以前『Pioneer Girl』のエントリでふれましたが、もともと大人向けに書かれた原稿を子供向けに書き直すことになったという経緯があって、ローラ自身も「子ども向けのフィクション」として、想定する読者にあわせてエピソードを取捨選択して執筆しているし、さらに娘ローズが原稿に大幅に手を入れてます。

出版当時の社会にあわせて書かれているから、現代に適さない描写が出てくることもあるでしょう。今でも色褪せない魅力があるから読み継がれているけれども、「児童書」として適切か、というのは、このシリーズに限らずどんな本に対しても常にアップデートされていくものだと思います。

そういった視点でシリーズをざっと読み返し、個人的に気になった箇所にフセンを貼るとこんな感じ。

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緑のフセンは、私が先住民だったら嫌だなあと思う箇所。でも『シルバー・レイク』のビッグ・ジェリイなど、特定のキャラクターにまつわる描写やローラ個人の感情などは除外しています。

ピンクのフセンは黒人差別だと指摘された『大草原の小さな町』の5ページにわたって描写される文芸会でのミンストレルショウです。ローラの父さんが「骨を鳴らした黒人」を演じました。

ただ、今改めて黒人の登場があまりに少ないのも逆に気になってきました。自由州にはもっと人口がいたと思うけど、どうだろう。印象的なのは実在の人物だったタン先生くらい。深い意味はないのか、あえて除外したのか、それとも西部劇になぜか白人しかいないパターンと同じかな(このあたり詳しく研究してる人もいそう)

フセンの数は、人によってはもっと増えるかもしれないし、減るかもしれませんが、問題箇所が圧倒的に多いのは『大草原の小さな家』。インディアンテリトリーという舞台設定に加えて、インディアンが嫌いな母さん&スコット夫妻という人物がいるためです。

たとえば、スコットのおばさんのこんなセリフ。

「土地が知ってますさ。インディアンは、この土地に何ひとついいことをしてやしませんからね。ただあちこちうろつき歩いてるだけじゃないですか。野生の動物みたいに。条約がどうあろうと、土地はそれを耕す者たちのものですよ。それが常識っていうもので、正しいさばきでしょうが」
おばさんは、なぜ政府がインディアンと条約を結んだりしたのか、まるでわからないというのです。よいインディアンというのは死んだインディアンだというとおり、インディアンのことを考えただけで、血が凍ると、おばさんはいいました。

このあとミネソタの大虐殺の話題にチラっとふれます。「よいインディアンというのは死んだインディアン」という文章はほかにも複数回出てきます。

インディアンのことを「ただきらいなんですよ」と言う母さんは、「あの吠えたてる野蛮人がいたからですよ—— プンプン匂うスカンクの毛皮を腰にまいてるような連中が」(『シルバー・レイクの岸辺で』)といった具合にストレートに嫌悪感を表していますが、では偏見のなさそうな父さんはどうかというと、「インディアンのことはこわがることはない」と言いつつも、防御柵をつくるかどうかという話の時には

「こっちがこわがっていると思わせるようなことをするのは、ぜったいにしたくないからな」—『大草原の小さな家』

と言っています。

そもそも父さんは家族を連れて、白人移住者には開放していなかったインディアンテリトリーに勝手に移住しているわけです。父さんはときどき本音をもらします。

「白人がここらの土地全部を開拓して、住みつくことになるんだ。われわれはいちばん先にここにきて、自由にえらべたから、いちばんいい土地が手に入った」

「政府は、いつだって、移住者を開拓した土地から追い立てたりはしないよ。インディアンを立ちのかせるにちがいないんだ」
—『大草原の小さな家』


結果的にインディアンテリトリーから、インディアンたちは出て行くことになりますが、インガルス一家も政府によって追い出される(父さんは兵隊がくる前に出ていくことを決める)ことになります。

また『大草原の小さな町』では7月4日の町のようすで、国旗のそばに立つ男性が次のような演説をします。

「……婦女子を殺させ、焼き、また皮をはいだりさせた残虐なる赤い皮膚の野蛮人とも戦わなければならなかった。少数の、はだしのままのアメリカ人が、彼ら多勢と戦って、やっつけなければならなかった。そして、彼らはまさに、戦い、そしてやっつけたのであります」

子どもの頃の私は、インディアンはかわいそうと思いながらもあまり深くは考えていませんでした。それは、外国の昔の話で自分からは遠いこと、興味があったのが「開拓時代のライフスタイル」だったからです。

開拓民視点の話だから、白人がインディアンに対して抱いた恐怖心について想像するのは容易です。描かれていないのは、先住民側の感情です。

そして大人たちの態度だけでなく、インディアンは自由でうらやましいと無邪気に思い、インディアンの赤ちゃんがほしいと泣くローラの態度をみても、全体的になんだかインディアンは人間ではなくて、何か違う生き物のような印象すら受けます。

ただし、劇中でローラは両親に「ここはインディアンの国ではないのか」「なぜ母さんはインディアンを嫌うのか」とたびたび質問しています。あえて繰り返しこうしたセリフを挿入しているのは、どうしてだろう。私は、これは著者ワイルダーによる読者への問いかけなのかもしれないな、と思っています。


小さな家シリーズ
インガルス一家の話
『大きな森の小さな家』恩地三保子訳、福音館書店
『大草原の小さな家』恩地三保子訳、福音館書店
『プラム・クリークの土手で』恩地三保子訳、福音館書店
『シルバー・レイクの岸辺で』恩地三保子訳、福音館書店
『長い冬』鈴木哲子訳、岩波少年文庫
『大草原の小さな町』鈴木哲子訳、岩波少年文庫
『この楽しき日々』鈴木哲子訳、岩波少年文庫
『はじめの四年間』鈴木哲子訳、岩波少年文庫

ローラの夫となるアルマンゾの少年時代を描いたもの
『農場の少年』(出版された順ではこれが2冊目)恩地三保子訳、福音館書店


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by rivarisaia | 2018-08-02 00:17 | | Trackback | Comments(0)

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