ペンは剣よりも残酷になる
2018年 09月 20日
10年近く前に怒って書いた昔のエントリに、いまもちょこちょこアクセスがあって、最近は別のことに怒っているのになんかフェアじゃないと考え、昨日はそれに追記をしました。迷ったけれども、加筆修正したものをここに新しくアップします。
出版不況というのは20年以上前からずっと言われ続けていて、そこには再販制度とか返本率とか新刊出しすぎ問題とか複雑な事情があり、何が原因かは簡単に言えないけど、売れないと言われながらも毎月毎月いろいろな本が出版・販売されています。
ここ数年、さすがにこの状況はダメだと思うのが、嫌韓・嫌中本、差別本、トンデモ医学本、妄想の域に達してる歴史本などが、複数の大手出版社から出続けていること。この類の本は昔から存在していて、以前は無視すればいいと考えていたけど、どんどん悪化していていよいよ放置できなくなってきた。
世界の変化についていけずに、精神的にも成長できず、日本は後退しているみたい。そこにきて、ここ最近の『新潮45』の一件です。前回の批判もよそに、さすがにこれは酷い。
世の中には多様な意見がある、と言う人は、問題になった記事を読んでないか、そのほかのこの手の本の内容が及ぼす影響を想像できないのかも。これらの内容は同意できるか否かというレベルにはなく、他者を傷つけたり、命を脅かしたりするものでしかありません。「尊重されるべき異なる意見」には該当せず、価値もなく、当事者は傷つくだけだからわざわざ読む必要はありません。
こうしたモラルも根拠もない、ただ人を傷つけ社会に害をなすだけの文章に対価が支払われていて、流通にのせて市場に出し、ただでさえ返本率が高い中、面積に限りのある書店の棚を占有して、それで誰か死んでも版元はなんの責任を取ることもない。わたしは怒りしかわかない。
酷い本も出しているけど文芸書やノンフィクションでよい本も出してるからね、いい編集者もいるしねと許していた時期は、とうの以前に過ぎました。炎上商法にもうんざりだ。新潮社だけでなく、講談社も小学館も文藝春秋も、大手の経営陣はいったん自社の出版物を出す意義とその影響を考えてみてほしい。姿勢がはっきりわかるまでは、もうそうした出版社の本は買わない。わたしひとりが買わなくても困らないだろうし、それに自分の限りあるお小遣いは、良識のある出版社や小さいけど地道に良書を出版しているところにどんどん使っていきたいので。
"The pen worse than the sword" はロバート・バートンの言葉です。
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まるま
at 2018-09-21 01:02
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一昨日から、良い警官と悪い警官とか、右手で殴って左手で撫でるとか、そんなことばかり頭に浮かんでいました。当事者として傷つけられている人たちのことが最も重要な問題ですが、そうではない人たちにもいいことなんかない。個人差があるので年代でくくるのは適切ではないとはいえ、有害な本が今ほど大手を振っていなかったころから本が好きな人は、こんな本、売れてどうなるの、もうここの本は買わないよ、と思うかもしれない。それはそれで悲しいことだけれど、まだその判断がつく。でも、そう思うことすらない人が売れてるみたいだから読んでみようなんて気になって、有害でしかない内容なのに、無垢なためにすんなり信じてしまったら恐ろしい。そういう人ばかりではないでしょうけれど。信じるまでいかなくても、そうした情報にさらされているだけでも、悪影響が出てくるはず。そうなっても、言い訳がうまい人たちは自己責任のひと言で片づけるのか……。"The pen worse than the sword"で、なんとかとペンは使いようだとしたら恐いです。
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rivarisaia at 2018-09-22 03:49
これ書いた時点では、会社としての意見次第では私も考え直すかもしれないと思っていたけど、社長のお名前の声明を読んで心底がっかりです。
芥川賞候補作の盗作疑惑のときはちゃんとした抗議文書いてたのに、今回はやっぱりただの炎上商法になってしまっているじゃないですか。
差別や偏見を助長する表現が議論の余地なくダメなのは、これくらいまあいいだろと思っているうちにじわじわ感覚が麻痺していって、いつかとり返しのつかないことが起きてしまうからで、それは何度も繰り返されてきたというのにね。
あと同じ業界内については、忖度する人や自分の言葉で意見を言わない人も意外と多いんだな、というのも想像以上にダメージが大きかったです。
芥川賞候補作の盗作疑惑のときはちゃんとした抗議文書いてたのに、今回はやっぱりただの炎上商法になってしまっているじゃないですか。
差別や偏見を助長する表現が議論の余地なくダメなのは、これくらいまあいいだろと思っているうちにじわじわ感覚が麻痺していって、いつかとり返しのつかないことが起きてしまうからで、それは何度も繰り返されてきたというのにね。
あと同じ業界内については、忖度する人や自分の言葉で意見を言わない人も意外と多いんだな、というのも想像以上にダメージが大きかったです。
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古島
at 2018-10-03 06:57
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新潮社の騒動について、パオロ・マッツァリーノというひとがブログで面白いことを書いていますよ。気が向いたら読んでみてください。
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rivarisaia at 2018-10-04 14:41
さっそく検索して、のちほど読んできます!
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古島
at 2018-10-30 07:37
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昨夜e-honで、ある漫画雑誌の在庫を調べました。その雑誌は約一ヶ月前に出たのですが八冊しか残っておらず、それ以上は取り寄せ不可能(出版社にもない)とのことでした。
つまりこの雑誌を出している会社は
「だいたいこれくらい売れるだろう」
と予測して刷り、その予測をほぼ的中させたのです。ほとんど売れ残りなし(もちろん、全国の本屋には残っているでしょうけれど)。優秀・・・・・・・と言いますかこれが普通でしょう。長年出版作業をこなしていれば大体の見当はつくようになる。新雑誌を立ち上げたときなどは難しいでしょうけど。
悪意な想像ですが、新潮社はいつまでたっても見当がつかなかったんじゃないでしょうか。新潮45は毎月山のように売れ残っていたのでは。わたしが新潮社の社長なら、売れ残りの山を見て
「来月からは刷る数を減らしなさい。おかねがもったいない」
と命じたでしょう。しかし・・・・・・・・・
つまりこの雑誌を出している会社は
「だいたいこれくらい売れるだろう」
と予測して刷り、その予測をほぼ的中させたのです。ほとんど売れ残りなし(もちろん、全国の本屋には残っているでしょうけれど)。優秀・・・・・・・と言いますかこれが普通でしょう。長年出版作業をこなしていれば大体の見当はつくようになる。新雑誌を立ち上げたときなどは難しいでしょうけど。
悪意な想像ですが、新潮社はいつまでたっても見当がつかなかったんじゃないでしょうか。新潮45は毎月山のように売れ残っていたのでは。わたしが新潮社の社長なら、売れ残りの山を見て
「来月からは刷る数を減らしなさい。おかねがもったいない」
と命じたでしょう。しかし・・・・・・・・・
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rivarisaia at 2018-10-30 21:04
雑誌の発行と実売部数ってきちんとしたデータを出版社は把握されていると思うので、おっしゃるように新雑誌ではない限りはおよその売れる部数は見当つくと思うんですよね。新潮45は部数が下がっていたこともあって、内容がおかしな方向にいったという話も目にしましたが、炎上させて売ってもどこかで無理が出ますよね。残念な経緯をたどりましたが、廃刊はやむを得ないなと思いました。
by rivarisaia
| 2018-09-20 15:58
| 書籍
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Comments(6)