Friday Black: Nana Kwame Adjei-Brenyah
2019年 04月 06日
『Friday Black』Nana Kwame Adjei-Brenyah
シュールな話からSFっぽい話まで、ダークでパワフルな12編の話を収録。人種問題や消費社会に対する風刺の効いた……というとありがちに聞こえるけど、風刺の効きっぷりがすごくて、強烈なパンチをくらったような読後感。好みは分かれるだろうし、私もまだうまく消化できてないけど、読むなら今、という1冊。
冒頭の一篇が衝撃だった。「The Finkelstein 5」は、チェーンソーで5人の黒人の子供の首を切り落とした中年白人男性が、正当防衛を主張して無罪になるという事件が背景にある。そのことを深く嘆き、憤り、世の中に幻滅しているエマニュエルが主人公。
日常生活でエマニュエルは自分の”黒人度(blackness)”を10段階で切り替える。おだやかな口調で電話で話すと10段階の1.5、公共の場では肌の色が目に入らざるをえないので、ネクタイをしめて、つねに笑顔で小さな声で話したとしても4.0を下回ることはできない。仮にバスの中で黒人度を8.0近くに上げると、周囲に緊張がはしる。
ある日、エマニュエルが仕事の面接に行くことから、話がはじまる。
これと似たテーマを別の切り口で描いているのが「Zimmer Land」。
テーマパークのジマーランドでは客が「正義を遂行するシミュレーション」ができる。ジマーランドに勤務する黒人の主人公は「住宅街で自警団に殺される役」をやっている。こう書くとわかるように、ジマーランドのジマーは、トレイヴォン・マーティン射殺事件の犯人ジョージ・ジマーマンからとっている。
テーマパークの人種差別的なあり方を変えたいと主人公はCEOに訴えるのだが……という話。
その他には、ディストピアな近未来SF(「The Era」「Through the Flash」)や、中絶した双子の胎児が父親の元に出現する話(これ気持ち悪かった)、12枚の舌を持つ神と契約した男が父親を連れていった病院でたらい回しにあう話(カフカ+ブッツァーティみたいなシュールさ)、同級生を射殺して自殺したいじめられっこの霊と彼に殺された学生の霊が協力しあってスクールシューティングの計画を阻止しようとする話などがある。
表題作「Friday Black」は、ショッピングモールで働くベテラン店員が主人公。毎年ブラックフライデーにはゾンビのようになった顧客の大群が押し寄せ、モール内は死屍累々、血で血を洗う過酷なセールが行われていた、という設定。同じョッピングモールと登場人物が登場する話がほかに2つある(「How to Sell a Jacket as Told by IceKing」「Retail」)。この3作シリーズもけっこうよかったな。
「ブラック・ミラー meets ブラック・ライヴズ・マター」という評をよく見かけるのも、なんとなくわかる。確かに「ブラック・ミラー」が好きな人は楽しめるはず。これがデビュー作で、今後も期待したい作家ですが、名前の読みはインタビュー映像で確認したところ、ナナ・クワメ・アジェ=ブレンニャです。覚えておこう。(追記 2/6/2020:こちら邦訳が出ました! そして日本での名前のカナ表記はナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤー となっていました! )
収録作品
The Finkelstein 5
Things My Mother Said
The Era
Lark Street
The Hospital Where
Zimmer Land
Friday Black
The Lion & the Spider
Light Spitter
How to Sell a Jacket as Told by IceKing
In Retail
Through the Flash
by rivarisaia
| 2019-04-06 21:18
| 書籍
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