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壁の向こうの住人たち―アメリカの右派を覆う怒りと嘆き


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壁の向こうの住人たち―アメリカの右派を覆う怒りと嘆き
A・R・ホックシールド著、布施由紀子訳、岩波書店

2016年の全米図書賞ノンフィクション部門にノミネートされていた『Strangers in Their Own Land』の邦訳。著者はカリフォルニア大学バークレー校の名誉教授である社会学者。

米国の最貧州の一つであり、環境汚染や公害に悩まされているルイジアナの右派の人々が、環境規制を強化しようともせず、むしろ企業を優遇しようとしている共和党を支持するのはなぜなのか。

リベラル派である著者が、南部でティーパーティー運動を支える白人中間層の人々の話に耳を傾け、丹念にインタビュー調査を行い、彼らの「ディープストーリー」を理解しようという試みです。

ディープストーリーとは、良識や事実ではなく、個人の感情に基づく物語のこと。リベラル、保守を問わず、みなそれぞれのディープストーリーを持っている。では、ルイジアナのティーパーティーの人たちのそれはどういう物語なのでしょう。

著者の出会った人々はみな親切で忍耐強く、家族を大切にして勤勉に働き、地元にも貢献してきた。同情心を買おうともせず、不平も言わず、遅々として進まない列に並んできた。ああ、それなのに。自分たちの前に、黒人や女性、移民、難民、ペリカンまでものが割り込んでくるではないか。

端的に言えば、そうした彼らの行き場のない気持ちを代弁してくれるのがティーパーティーなのだった。

トランプ大統領が当選した際に話題になった『ヒルビリー・エレジー』はアパラチアの白人貧困層の話でしたが、ルイジアナは共通点もあるけど、またちょっと事情が違う(日本もそうだと思うけど、アメリカは広い国なので、地域によって歴史も文化もだいぶ異なる)。

いっぽうで、現代の日本社会のマイノリティや弱者を叩く風潮にも通じる箇所があるようにも感じる。分断を乗り越えて両者が歩み寄るためにも、賛同せずとも意見の異なる相手を理解するときの参考になる本だと思う。

あと『魂のゆくえ』でも描かれていたメガチャーチの環境問題に対するスタンスも伺い知ることができるし、最近話題になっている中絶禁止問題に対しても、南部の右派の人たちの考えがなんとなく見えるんじゃないかと思う。

アラバマ州での中絶禁止法の成立に関して、男性議員が多いからではないかという主張があり、もちろんそれもそうだし、また南部では中絶禁止を支持する女性がけっこう多いということもある。アラバマ州知事は女性なんだけども、法案成立後の知事のコメントと同様の意見の女性も少なくないのではないか。

本書でも、本当は中絶手術を受けられたほうが楽だったと思いつつも「ただしい行いをしたこと」を誇りに思い「その気持ちはリベラル派にはわかるまい」という話す女性が出てくる。いや、そういう気持ちになること自体は理解できるんだけども、最終的には自分の体のことは本人が決めるべきだと私は思うんだけどねえ。中絶の規制に関してはロー対ウェイド事件の判決以降、ずーっと議論が続いていて、まったく決着をみないですね。

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by rivarisaia | 2019-05-30 23:34 | | Trackback | Comments(0)

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