タクシー運転手 約束は海を越えて
2020年 05月 19日
『タクシー運転手 約束は海を越えて』監督:チャン・フン
1980年5月18日から27日にかけて韓国で起きた光州事件を描いた映画。光州事件についてはわたしはほとんど知らないに等しいけれどもざっとおさらい。
1979年に朴正煕大統領が暗殺されて軍事独裁政権が終了した韓国では、その後に陸軍少将の全斗煥によるクーデターが起きる。軍の実権を握った全斗煥は1980年に戒厳令を布告、金大中らを逮捕した。
それをきっかけに5月18日、光州で学生と軍隊が衝突、19日には市民も抗議活動に加わり、光州市は封鎖され、市街戦のような有様となり、多くの死傷者を出すことになる。
ただし、政府は「市民が暴徒化して軍人を殺している」というような扱いをしていた。
映画の主役は、妻に先立たれて幼い娘とふたりでソウルに暮らすタクシー運転手キム(ソン・ガンホ)。あるとき、高額な報酬を得られるという話をたまたま耳にしたキムは、お金目当てでドイツ人記者ピーターを光州へ連れていくことになる。
キムは苦労人なので、若い者が現状に満足せずにやれ民主化だなんだとデモをする様を見て、甘ったれていると苦々しく思ったりしている。光州で何が起きているかは知る由もない。
ピーターは光州で何かが起きていることを察しており、検問をうまくくぐり抜けて現地についてからは、精力的に学生たちに取材を行い、軍隊の暴虐を世界に伝えようとカメラを回す。キムは、ソウルで待つ娘のもとに早く帰りたいと急かすのだが、そういうわけにもいかず、やがて壮絶な事態に巻き込まれていくのだった。
とはいえ、キム自身は急に民主化デモに目覚めたりすることはなく、知り合いになったタクシー運転手仲間にもすまないとは思いつつもピーターを置き去りにして帰ろうとまでするのだったが、心がずーっと揺らいだ挙句に、やっぱり乗せていったお客を連れて帰らなくてはならない!と決意するまでの流れがあって、そこからがピーターと撮影フィルムを無事に韓国の外に出せるのか、手に汗握る展開となります。
実話をもとにしている作品で、ピーターのモデルは実在の記者ユルゲン・ヒンツペーター。映画の公開後に、タクシー運転手のモデルとなった人物も見つかりました(ご本人は亡くなられていた)。タクシー部隊はさすがにフィクションだよねと思いきや、ああいう行動は演出としてもタクシー部隊そのものは実在したみたい。
それからNHKに光州事件のアーカイブ映像があったのでリンクしておきます。
光州事件を扱った小説には『少年が来る』(ハン・ガン著、井手俊作訳、クオン刊)もあります。重く、つらく、衝撃的な作品です。
1980年、日本はどんなだったかなと検索してみると、まず昭和55年で、ポール・マッカートニーが大麻所持で逮捕され、大平総理が急死、新宿西口バス放火事件や金属バット殺人事件があり、百恵ちゃんが結婚した年でした。
by rivarisaia
| 2020-05-19 23:51
| 映画/アジア
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