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見たもの読んだものについての電子雑記帳


by 春巻まやや
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〈悪女〉と〈良女〉の身体表象

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〈悪女〉と〈良女〉の身体表象
笠間千浪編・著 青弓社

以前、南部の幽霊話についてのノンフィクション『Tales from the Haunted South』(※リンクは下にはります)の感想で、女性の黒人奴隷の類型である「マミー」について少し触れました。この「みんなのお母さん」的なイメージがまずいのは感覚的にとてもわかるんだけど、もう少し整理して理解したいと思っていたところに、どんぴしゃりだった本です。

表紙にある内容説明文を以下に引用します。

"女性にまつわる言説はなぜ良・悪という二項対立の構造でしか語られてこなかったのか「悪女」や「良女」という概念を、文学作品や美術作品、女性芸術家、モダンガール、戦後の街娼表象などから検証し、女性身体とその表象をめぐる力学と社会構造を解き明かす" (青弓社のサイトより)

第1章の「奴隷制擁護の小説とマミーの身体―「反アンクル・トム小説」から『風と共に去りぬ』へ」(山口ヨシ子)が、マミーのイメージについての考察です。

マミーというのは、『風と共に去りぬ』に出てくるような、太った黒人おばさん奴隷のステレオタイプの総称(一応、乳母なんだけれども授乳をすることはない)。今年、ブランドリニューアルに伴い廃止すると発表された、クエーカーオーツの「Aunt Jemima(ジェマイマおばさん)」もマミーです。

黒々とした肌色は白人の血が入っていない純粋な黒人の象徴であり、太っていて若くないから白人男性を誘惑するような性的魅力はないし、たっぷり食事がとれていて(待遇がよいことを暗示)、家庭内を取り仕切る権力を持っているように思わせる、という効果がマミーにはあった。

実際には「マミーのような乳母が実在したことを示す証拠資料は存在していない」し、小説や広告、映画などのメディアで意図的に広められたイメージだった。

現実の世界では、奴隷は満足に食事も与えられずに労働をしていて、女性の奴隷の場合、白人の主人から性的虐待を受けて新たな労働力となる子供=奴隷を産んでいた(女性奴隷が50歳以上まで生きるケースは一割に満たない)。南部の経済はこうした奴隷制によって支えられていたけれども、南北戦争(1861〜65年)が始まる前、ちょうど奴隷解放問題で社会がゆれていた頃にストウ夫人の『アンクル・トムの小屋』が出版される。

現在では『アンクル・トム〜』にもいろいろ問題点があると指摘されているけど、当時『アンクル・トム〜』は奴隷の置かれた状況を告発するという画期的な内容だった。そこで奴隷制擁護論者からストウ夫人は南部をちっともわかってない!という批判が出て、奴隷制を擁護する内容の本(いわゆる「反アンクル・トム小説」)が数々出版されることになる。

ただこの時点では主な「反アンクル・トム小説」に登場する乳母は、肌の色の薄い黒人女性だった。要するに、肌の色が薄い=白人に近い=優れた人物という構図である。『アンクル・トム〜』にも色の薄いマミーが登場しており、その描写からも、ストウ夫人にも白人優越主義的な思考がやっぱりあった。

こうした「反アンクル・トム小説」を書いた作者の多くは、1820年代から30年代に子ども時代を過ごしていた。

ここがちょっと衝撃だったんだけど、ちょうどその頃のアメリカで広く読まれていた児童文学が、南北戦争前に白人の中産階級が抱いてた黒人のイメージに影響を与えたのではないか、というのがサラ・ロス氏の指摘。以下、ちょっと長いけど、本文から引用。

"カリブ地域やアメリカ国内では奴隷反乱の脅威が高まっていた。こうした状況のなかでアメリカの出版社は、奴隷主が親切であれば奴隷は反乱を起こすことなく奴隷主に愛情と忠誠心を抱くといった内容の児童向け図書を次々と出版したという
(中略)
このような奴隷物語を読んだ子どもたちは、結果として、アフリカ人やアフリカ系アメリカ人は「生まれつき卑しく」、貴族的奴隷主の温かい保護が必要だという人種観を抱くようになったのだろう。プランテーション小説に登場する黒人乳母に関しても、このような児童文学書に現れた黒人のイメージがその基本となり、そこからさらに拡大していったようだ"

昔だから子どもが触れるメディアが当然かなり限られているとはいえ、児童文学が与える影響、意外と大きい。

そしてこれが南北戦争後になると、今度は奴隷制の思い出を古き良き思い出としてノスタルジックに描くようになる。その際に、南部の白人が奴隷を性的搾取していたという実態から目をそらせるのに都合よく創造したのが『風と共に去りぬ』でもおなじみの太ったマミーなのだった。

なるほど。

また、黒人女性は自分の子供に対する愛情が薄いというステレオタイプも存在していて、それは、元奴隷で政治家のフレデリック・ダグラスの最初の自伝にもあるように、奴隷に子どもが生まれると1歳になる前に母子を引き離していたからなのだった。ちなみにダグラスは10年後に再び自伝を書いており、そこでは愛情深い母親の姿が描かれているが、これは母親像の復権かもしれないと考えられている。

こうした流れをみると、ジェマイマおばさん的なマミーのステレオタイプなイメージが長い年月にわたって、気づかないままにじわじわと与えてきた影響の深さが理解できる。現に、日本の私もその影響を受けていた。ニューオリンズではアーントジェマイマにアンクルベンみたいな塩胡椒入れの人形をものすごくかわいいと思ってお土産に買ったしね(これダメじゃんと気づいて捨てたのはわりと最近)。小説や映画の『ヘルプ』のときに、友人がめちゃくちゃ怒っていたのは当然のことだった。それに対し、フィクションと割り切ればいいじゃないと言って、映画版については能天気な感想を書いたんだけども、あれも間違ってたんだな。とても反省しているので、『ヘルプ』の感想は取り下げる。


ここまで書いたのは本書の「第1章」についてですが、興味がある人もいるかと思うので、目次を書いておきます。

第1章 奴隷制擁護の小説とマミーの身体
    ―「反アンクル・トム小説」から『風と共に去りぬ』へ
    山口ヨシ子
第2章 踊る女の両義性
    ―ロイ・フラー『サロメ』を中心に
    熊谷謙介
第3章 マリアンネ・ブラントのフォトモンタージュ
    ―バウハウスにおける〈もう一つの身体〉
    小松原由理
第4章 消費、主婦、モガ
   ―近代的消費文化の誕生と「良い消費者/悪い消費者」の境界について
   前島志保
第5章 占領期日本の娼婦表象
   ―「ベビサン」と「パンパン」:男性主体を構築する媒体(メディア)
   笠間千浪
第6章 狼少女の系譜
   ―現代美術における赤ずきんの身体表象
   村井まや子

どれもおもしろそうでしょ。実際にとてもおもしろいです。なかでも第5章も興味深かったので、それについてはまた明日か明後日。




by rivarisaia | 2020-11-12 21:58 | 書籍 | Trackback | Comments(0)