人気ブログランキング | 話題のタグを見る

見たもの読んだものについての電子雑記帳


by 春巻まやや
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

〈悪女〉と〈良女〉の身体表象(その2)

昨日の本の続き。第5章の「占領期日本の娼婦表象」で興味深かったところがあったので、メモ。


本題に入る前に、そういえばRAAの話ってブログで書いたことあったかな?と検索してみたらなかったので、ついでにまとめとく。

太平洋戦争の敗戦直後、日本政府は連合国の兵士による性暴力を防ぐという名目で、RAAこと特殊慰安施設協会を設置、5万人以上の女性を募集して働かせていた。要するに主に日本の女性を公的に募って売春させた。

もともと近衛文麿が警視総監にお願いして計画されたものだけど、敗戦の1945年8月15日にすぐに設立の検討が開始されたというところに、近衛、お前ふざけんなと思いますね。ポツダム宣言の受諾についてはだらだらだらだらやってた日本が、RAA設立に関してはスピードがちょう早い。何事も決定の遅いあの日本が、8月18日には各行政に通達してんの。そして8月末には施設設立。お金も備品もちゃんと用意して。異例のスピードじゃないですか? 内務省、外務省、大蔵省、運輸省、東京都、警察庁などが指導委員会ですYO!

要するに、日本はこれまでアジアにおいて自分たちが現地の女性をレイプしてきたから、今度は連合国軍に同じことやられると思ったのだろうという、警視総監坂信弥氏の証言が週刊現代の記事にあります。それもあるでしょうね。



RAAについては上記の記事を読むことをおすすめしますが、最初は花柳界などから集められたけれど当然足りず、女子従業員みたいな形で新聞広告などでも募集された。応募してみたら聞いた話と違う!というケースも多かったのではないかというのも別の本で読んだことがある。

施設は各地にありましたが、東京で有名なのは大森(いまはマンションになってますね)。若林には高級将校向けRAAがあったらしいけど、場所はよくわからない。あと品川の京浜デパート(今のウィング高輪East)にもパラマウントというキャバレーがあり、ダンサーがいた。このあたりの話、祖父母が生きてたときに聞けばよかったな。何かRAAについての噂話くらいは聞いてたんじゃないだろうか。

1946年3月になると性病の問題などもあってGHQが慰安所禁止例を出したため(しかし実際には建前上だった)、結果としてRAAは閉鎖され、働く場所がなくなった女性の多くが街娼となった。そこから赤線地区ができるという流れがあります。

『〈悪女〉と〈良女〉の身体表象』の第5章、笠間千浪氏の「占領期日本の娼婦表象―「ベビサン」と「パンパン」:男性主体を構築する媒体(メディア)」によれば、RAAがあっても米軍上陸後にはレイプ被害が相当数みられ、また慰安施設の要請は米軍側からもあった(!)ことが書かれていました。

興味深いなと思ったのは、ビル・ヒュームによるコミックに登場する「Babysan(ベビサン)」の箇所。

ベビサンは「GIと付き合う日本人女性」のキャラクターで、進駐軍の兵士向けに書かれたコミックに登場する。Wikipediaの英語版にも項目が立っていて(Babysan)、占領下のアメリカ兵の間でかなり人気があったコミックだったみたい。知らなかった。

アメリカの文化が大好きな民主的なベビサンが、アメリカ兵である若い男性に日本の文化や風習を教えたりもする。コミックに登場するGIは労働者階級の白人がほとんどで、軍の中での階級も低い(将校クラスの兵士はあまり登場しないらしい)。ベビサンは、アメリカ人男性に対する理解が深く、やさしく楽しい存在なのだが、ここで著者は、

"肯定的な「礼賛」の水面下に潜むものが、真に厄介な問題である"

と書く。これすごくわかるなー。ベビサンに描かれているGIの白人の若者はアメリカでは社会の底辺にいるような存在だけど、植民地である日本に来ると突然ちやほやされて、自分がまるでえらくなったような気分になれるんだよね。これは占領期の日本に限らず、わりといつでも似たようなことが起こる(現在の基地でもそういう兵士はいると思う、というか見たことある)。

しかし自分より下だと思っていた者(この場合は日本人女性)が突然対等の立場になろうとすると "支配関係が壊れてしまう" というのもわかる。

もうひとつなるほどと思ったのは、本文にある評論家の矢島翠氏による「敗戦後の日本映画での女性の描かれ方」で、

"女をどう描くかは、男が自分自身をどう見ているかについての、間接的な、ある場合には屈折した表現である"

と指摘していた。一例として田村泰次郎の小説『肉体の門』について、小説も読み、芝居も見た街娼のある女性は「肉体、肉体って何さ。あたしたちだって人間だわ(中略)あの小説を書いた田村って小説家、とっても肉体が好きなんでしょう。あたしたちをほんとに人間扱いにしてくれるんなら、もっとほかに書きようもある」と批判している。笠間千浪氏は、村上春樹の小説からアニメの美少女まで、そこで描かれる女性のイメージについて以下のように述べている。

"ポピュラーカルチャーでの女性身体表象は、「悪女」であれ「良女」であれ、その多くが男性性の主張や回復のための「巫女=媒体(メディア)」であることには変わりはないのである"

いやもうほんとこれね! 最近のツイッターでも女性についての問題にとんちんかんな意見をいう男性を散見し、どうも釈然としないものがあったんですけど、たぶん根っこは一緒。議論されている問題の本質についての意見ではなく、自分の言いたいことのために問題を利用しているという感じ。腑に落ちたー。



by rivarisaia | 2020-11-13 18:40 | 書籍 | Trackback | Comments(0)