The Medieval Health Handbook Tacuinum Sanitatis:健康全書
2020年 12月 23日
以前にも紹介した写本の本その5。この本を購入した経緯を覚えてなかったけど、12年前に書いた文章によれば『イタリア食文化の起源と流れ(西村暢夫、文流刊)』を読んでいたら『健康全書』こと『Tacuinum Sanitatis』が出てきて興味をもち、海外古書サイトで検索して本書の存在を知って入手したらしい。
『The Medieval Health Handbook Tacuinum Sanitatis』
Luisa Cogliati Arano著 George Braziller刊
版型:ヨコ18cmxタテ24.7cm、厚さは1.9cm
ハードカバー、クロス装幀、函入り、153ページ
初版1976年
きれいな函入りで、本体表紙は草色の布張りに金の箔押しです。草色というところが、植物がたくさん出てきそうな内容であることを想起させてよいですね。
本書の構成は以下の通りです。
序文(リエージュ、パリ、ウィーン、ローマ、ルーアンのそれぞれの健康全書について)
カラー図版48点とコメンタリー
白黒図版243点とコメンタリー
コンコルダンス
参考文献
関連写本リスト
この本、買ってよかったな〜と思うのは、内容もさることながら、見返しに以前の持ち主の蔵書票(Ex Libris)がついてたところ。
黒猫の蔵書票。前の持ち主はどんな人だったのでしょう。
『Tacuinum Sanitatis』は11世紀のイブン・ブトラーンがアラビア語で書いた本をラテン語に翻訳したもので、食物を中心に健康に役立つ情報をとりまとめています。似たような写本はあちこちに存在しており、それぞれの写本について序文で解説されています。
中世の医学に関しては、アラブの方が発達していて、ヨーロッパは遅れに遅れていた印象ですが、当時最先端のイスラム医学もシチリアあたりからヨーロッパに伝達していた。アラビア医学を取り入れた中世の医食同源の健康本といえば『サレルノ養生訓』もありました(日本語の訳解書が出ていて、個人的には「冩血の方法」がおもしろかったです)。
カラー図版は見開きで48点、説明付きで紹介。上はキャベツ(左)とサワーチェリー(右)の見開き。キャベツの形が丸くない。別ページのレタスも葉が扇型をしていました。種類の問題なのか、昔はそういう形をしていたのか、どっちでしょう。説明文では、キャベツは「閉塞を取り除くが、腸によくない」、酸っぱいサクランボは「粘液過多のおなかによいが、消化が遅く、空腹時に食べてはだめ」といったことが書いてあります。
ホウレンソウ(左)と毒消し万能薬ことテリアカ(右)の見開き。奥の方で女性が杯に詰めている黒い物体がテリアカ。テリアカはすごく気になる存在なのですが(前にも書いた)、こういう杯のような容器に入れて販売してたのかしら。この盃型容器はどこかの博物館にあるのかな。実物を見てみたい。
カラー図版のページを説明を読みながら眺めるだけでも面白いです。『健康全書』の絵が好きで以前には気に入った絵だけ集めて豆本も作ったこともある( LINK )。
巻末にはこうした形で白黒ですが図版をまとめたページがあります。コンコルダンスは、各項目に対するリエージュ、パリ、ウィーン、ローマ、ルーアンの各写本の一覧表となっています。
●メモ
『健康全書』に関しては奈良女子大学の山辺規子氏が詳しく説明しているので、そちらを読むとよいと思います→ URL
また以前リンクをはっていたカサナテンセ図書館のサイトがつながらないのですが、ウィキペディアコモンズでも図版が見られます。
カサナテンセ版の図版一覧→ URL
ウィーン版の図版一覧→ URL
by rivarisaia
| 2020-12-23 14:51
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