The Corset(*US版タイトルはThe Poison Thread)
2021年 05月 03日
『The Corset』*US版タイトルは『The Poison Thread』
Laura Purcell著、Raven Books
母親が病気で亡くなってから、父と二人で暮らしている25歳のDorothea Trueloveは、骨相学に傾倒しており、頭蓋骨の形がその人の精神面に大きな影響を及ぼすという仮説を信じている。慈善活動としてしばしば刑務所を訪れているDorotheaにとって、収監された犯罪者の頭の形を計測できるのはまたとないチャンスでもあった。
あるとき女主人を殺した罪でRuth Butterhamという16歳の少女が収監される。Ruthが生まれつき邪悪な犯罪者なのかどうかを調べるために頭蓋骨を計測したいと考えるDorotheaに、Ruthはこれまでの人生を語り始める。Ruthは「縫う」という行為によって他人を殺すことができると信じていた……
Laura Purcellの小説は、以前読んだ『The Silent Companions』がなかなかよかったのですが、これも面白かった。前作もそうでしたが、ホラーとミステリの間をゆらゆら動く感じがいい。幽霊がいるように思わせて、やっぱり人間の仕業だった〜とひと安心していたら、背後に霊が立っていた!という読後感。
本書の語り手はDorotheaとRuthのふたり。良家のお嬢さんであるDorotheaは父親に再婚話が持ち上がっているのが気に入らない。そんな父から、骨にかまけてないで、さっさと結婚して家を出ろと言われているのも納得できません。
彼女がハマっている骨相学とは、頭骨の形(脳の形や大きさなど)から人の性格やら特徴を推察できるとする、19世紀にブームになった学説で、今にしてみれば疑似科学のようなものですが、それを真剣に信じているDorotheaは本物の頭蓋骨を大切に引き出しの奥にしまっていて、ときどき出しては眺めたり、なでたりしているほど。ですから若くして殺人を犯した少女の頭蓋骨を調べることができるチャンスに、わくわくしながら刑務所に向かいます。
いっぽうのRuthは、貧しい家に生まれ育ち、苦労の絶えない生活を送っていました。母親の借金を肩代わりすることになって、仕立て屋で住み込みのお針子として働きはじめるのですが、そこでも虐待に近い仕打ちを受ける。
しかしRuthは、これまでの経験から自分が縫ったものを身につけた人の身に不幸が起こると信じていました。ある日、仕立て屋に、むかし自分を虐めた同級生がドレスをオーダーしにやってきたので、復讐のために渾身の呪いを込めて彼女のドレスを縫う。
そして緑色のドレスを着たその女性には、予想通り恐ろしいできごとが……。
「緑色」のドレスっていう点で、はは〜んってなるじゃないですか。前にも紹介したこの本(LINK)を思い出しますね。それ呪いじゃないよ、とRuthに教えたくなるのは読者だけでなくDorotheaも同じ。彼女は途中からRuthの話をどこまで信じてよいのかわからなくなってきます。
そもそもRuthは本当に殺人を犯したのでしょうか。
パズルのピースがしかるべきところにはまって一件落着するんですけど、最後に、え?となりました。そうきたか。
どこからどうみても気の毒な生い立ちのRuthとくらべてしまうと、特権階級にいて能天気なDorotheaに最初はイラッとするところもあるんですけど、Dorotheaも女性であるがために、また社会的階級のせいで別の意味で不幸な人生なのだった。
そういえば『The Silent Companions』にもかなり血まみれ描写があったのをすっかり忘れてましたが、今回もかなりグロテスクな場面がいくつかあります。たとえばRuthの母親の出産の場面で、Ruthが母親の体を縫う場面の描写はきつかった。でも同時に、そのことがあとで彼女を追い詰めることになるのが、あまりにも可哀想。
by rivarisaia
| 2021-05-03 23:47
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