Firekeeper's Daughter
2021年 05月 19日
『Firekeeper's Daughter』
Angeline Boulley著、Henry, Holt and Co.
18歳のDaunis Firekeeperは、インディアンと白人というふたつの世界に生きている。父がアニシナアベ族(オジブウェ族)であり、インディアンとしての自覚をもつDaunisだが、父とは結婚せずシングルマザーとなった白人の母に育てられたためアニシナアベの正式な部族メンバーとして認められていない。アイスホッケーの名選手だった父は同じ部族の女性と結婚していて、Daunisには同い歳で腹違いの弟のLeviがいる。LeviもDaunisも父と同じように幼い頃からホッケーチームでプレーをしている。ミシガン大学で医学を学ぶつもりだったDaunisは、叔父の急死や祖母の入院という家庭の事情で夢をあきらめ、精神的に弱っている母を支えるために実家から地元の大学に通う決断をしていた。大学生活が始まり、Leviのホッケーチームに新たに採用された魅力的なJamieとも親しくなって、冴えない日々がようやく明るくなってきた矢先、Daunisは衝撃的な事件を目撃してしまう……
読み応えのあるYAミステリー。オジブウェの言葉や数々の風習をはじめ、インディアンに関するよく知らない事情がかなり出てくるので、読むのに時間がかかりました。どちらかというと物語の本筋よりも、そちらのほうに興味を持っていかれたかもしれない。
インディアンからは白人として、白人からはインディアンとして見られることがあるDaunis。インディアンとしてのアイデンティティを自覚しているのに、部族の正式な一員になれないのは彼女だけではありません。LeviのホッケーチームにやってきたJamieはチェロキーだけど、チェロキー族の中で生まれ育っていないため自分は一体何者なのかという葛藤を抱えています。
またDaunisの親友Lilyも正式なアニシナアベ族の一員として認められていません。Lilyの場合は血液定量制(blood quantum)の基準を満たしていないから。これまで何度か説明されたことあるけど、いまだにわたしにはよく理解できぬ血液定量制。これについては本文でも解説がありますが、こういう決まりもなかなか複雑です。
さて、ショッキングな事件を目撃したDaunisは、その結果、居留地で密かに蔓延しているドラッグの問題を探るというFBIの極秘捜査への協力を求められます。
FBI側にとって、居留地の人たちとも親しく内部事情に通じているDaunisは最適の人材。そしてDaunisは仲間を裏切るような思いを抱えつつ、逆に部族を守るために協力に同意しますが、それはJamieとの関係にも大きく影響することなのでした。
部族のメンバーとして正式に登録されるための手続きや法の仕組み、カジノ収益の還元についてなどが話に関係してくるのですが、中でも部族裁判所と連邦の司法との線引きがけっこう衝撃。居留地で行われた犯罪で被害者が部族メンバーの場合、連邦が訴追しないことがあるのね……。
ミステリとして楽しんだというよりも、これまでほぼ知らなかったアニシナアベ族について考えるきっかけになったという意味で読んだ意義が大いにあった本でした。
by rivarisaia
| 2021-05-19 20:33
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