An Island:ブッカー賞ロングリスト、孤島の灯台守の話
2021年 08月 12日
『An Island』
Karen Jennings著、Holland House Books
2021年ブッカー賞ロングリストの作品。インディペンデント系の小さな出版社から出た本で、ブッカー賞はたまにこういう見落とされがちな傑作を拾い上げてくるのがよいですね。
主人公であるサミュエルという70代の老人は、灯台守として本土から離れた無人島で23年間ひとりで暮らしている。サミュエルが他人と交流する機会は、本土から定期的にやってくる日用品や食料などの補給船くらい。無人島にはいろいろな漂流物が流れつく。その中にはたまに人間の死体もあり、サミュエルは23年の間に32人を埋葬した。ところがある日、浜辺にまだ息のある男性が打ち上げられる。どこかの国の難民と思われるその男性をサミュエルは介抱するが、言葉も通じないその男性の存在がサミュエルを不安にさせていく……
男性が島に流れ着いた4日間の出来事の話ですが、合間にサミュエルがそれまでどのような人生を送ってきたのかが語られます。
サミュエルのくらす島はアフリカ大陸近辺のどこか。母国はかつては植民地であり、独立のための戦いがあり、しかし結果として独裁政権が誕生して社会は腐敗し、サミュエルは長いこと政治犯として投獄されていたことも判明します。島に流れてきた難民がトリガーとなってサミュエルの(忘れたい過去の)記憶は蘇るのですが、信じてきたものが簡単に覆されてしまう国に暮らしてきた彼の人生は、暴力にまみれていました。
サミュエルの過去が明らかになっていくにつれて、サミュエルの謎の男に対する気持ちが大きく揺れ動いていきます。謎の男がどこの国の人なのかはわからない。かつてのサミュエルのように腐敗した政府から逃れるために難民になったのか、それとも犯罪者なのか。いい人にも思えるし、なにか悪い下心があるようにも思える。平穏だった島での日常を少なからず乱されたサミュエルは、どんどん疑心暗鬼になっていき、不穏な空気が張り詰めていくのでした。
島はサミュエルにとっての国であり、もしかするとサミュエル自身だったのかもしれない。短いけれど象徴的な小説であり、政治や暴力が人に及ぼす影響やゼノフォビアについてなど、いろいろなテーマが凝縮されていると思う。読み終わったあとにしばらく考え込んでしまった。時間をおいてまた読み直してみよう。
by rivarisaia
| 2021-08-12 22:18
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