Sharks in the Time of Saviors
2022年 01月 25日
『Sharks in the Time of Saviors』
Kawai Strong Washburn著、MCD
1995年、ハワイ島。
Flores家は両親と長男のDean、次男のNainoa(Noa)、末娘のKauiの5人家族。Noaは小さい頃から予知夢のようなものを見る不思議な力を持った子供だった。
Noaが夢に見たようにホノカアのサトウキビ農園が閉鎖され、父親は職を失い、Flores一家は困窮する。そこで家財を売り払ってオアフに移住することになった。オアフに行く前、家族5人でグラスボートに乗った際、7歳のNoaは船から海に落ちてしまう。
そこにサメの群れが現れ、あわや絶体絶命とみなが息を呑んだとき、驚いたことにサメがNoaを優しく口にくわえて母親の元に返してくれたのだった。Noaの両親は、これをハワイの神々の啓示だと確信する。
サメの一件からミラクルボーイと呼ばれるようになったNoaに、その後もさらに不思議なことが起こる。近所の少年が花火で手に酷い火傷を負ったとき、Noaが少年の手に触れたところ火傷が治ったのだ。その話はたちまち周囲に広まり、Noaの元に病気を癒してもらおうと人々が訪れるようになるのだが……
という出だし。1995年から2009年までのFlores家の人々の物語です。2021年のPEN/ヘミングウェイ賞受賞作で、オバマのおすすめにも選ばれていました。
舞台がハワイでマジックリアリズムの小説と聞いていて、期待して読みはじめたんだけど、少々読みづらかった上に展開もゆっくりで、どんどんつらい方向に進んでいくため、正直にいうと途中で読むのやめようかとも思った。でも読んでよかったです。決して明るい話ではないけど、読後になにか深く残るものがある。
全体は大きく4つの章に分かれていて、さらにその中の小さい章は、中心となる人物の名前と年代と場所がタイトルになっています。
ナイトマーチャー(ハワイで有名な夜中に行進する偉大な霊たち)を見た晩に、Noaを身ごもった両親、特に母親はNoaを特別視しています。Noaが人々を治癒する力を発揮するようになってから、ますますその傾向が強くなっていく。サメに助けられた伝説やらヒーリングの力やらのおかげで、貧乏だったFlores家は経済的に余裕が生まれるのですが、ヒーローになって人々を救い、家計も助けないといけないというのは、当然ながらまだ子供のNoaにとって重荷になっていました。
しかしある日、病気が治らなかった人が文句を言いに来て、Noaはそれ以降、人を治療するのを一切やめてしまいます(この自分の未知なる力にまつわる苦悩は、Noaにずっとついてまわるので、そこがまたつらい)。
一方で兄のDeanや妹のKauiは、家族の中ではNoaの影に隠れた見えない存在と化していた。スポーツマンタイプのDeanは、弟を思いやりながらもバスケットボールに居場所を見つけ、比較的醒めたところがある優等生タイプのKauiはフラに惹かれるようになる。
時が経ち、3人の子どもたちは本土に渡って、Deanは大学のバスケチームに入ってプロを目指し、Kauiは大学でエンジニアを専攻、Noaは救急医療隊員として働いていました。3人とも人生うまくいきそうだったのに、不運や不幸が待ち受けていて、それぞれが大きな挫折を経験し、悲劇が起こります。
後半はそこからの再生の物語でもあるけれど、その道のりがまた理不尽につらく険しい。全員がアイデンティティを模索していて、それがハワイという島の歴史や自然に深く根ざしていることに、それぞれが違う形で気づいていくんだと思う。物語は2009年で終わるので、その後のFlores家の人々がどんな人生を歩んでいるのか、とても気になる。なんだかんだいって、Kauiはうまくやってそうなんだけど、Dean、君だ。2022年、Deanはどうなってるのかな。
by rivarisaia
| 2022-01-25 18:46
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