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それからの三千代とスズランの水

園芸植物には毒のあるものが多い。

ちょっと前に身近な有毒植物に関する情報を読んでいたら、スズランには毒があり(知ってた)、スズランを活けていた水を飲んで子供が死んだ例がある(え、そうなの?)という情報に行き当たった。

その後、図鑑で調べてみると、スズランは全草にコンバラトキシンやコンバラマリンなどの毒があり、間違って口にすると吐き気や嘔吐を引き起こす可能性があると書いてある。ネットで検索すると、致死量は0.30mh/kgで青酸カリをはるかに上回る毒性があるというサイト(新潟市食べると危険な毒草一覧)があったり、東京都福祉保健局のサイトにも「スズランを差した花ビンの水を飲んでも、中毒を起こすことがある」と書いてある。

ちょっと待って。

夏目漱石の『それから』で三千代はスズランが入った花瓶の水を飲んでませんでしたか?

それからの三千代とスズランの水_b0087556_17553597.jpg

森田芳光の映画版をチェックしたら、たしかに藤谷美和子演じる三千代がスズランの水を飲んでいた。

原作でも活けてあったのは間違いなくスズラン。該当場面を引用します。


「ありがとう。もうたくさん。今あれを飲んだの。あんまりきれいだったから」と答えて、鈴蘭のつけてある鉢をかえりみた。代助はこの大鉢の中に水を八分目ほど張っておいた。妻楊枝ぐらいな細い茎の薄青い色が、水の中にそろっている間から、陶器(やきもの)の模様がほのかに浮いて見えた。
「なぜあんなものを飲んだんですか」と代助はあきれて聞いた。
「だって毒じゃないでしょう」と三千代は手に持ったコップを代助の前へ出して、透かして見せた。(『それから』夏目漱石著、角川文庫)


いや、三千代、それ毒らしいよ?

『人もペットも気をつけたい園芸有毒植物図鑑』(土橋豊博士、淡交社)のスズランの項目では以下のように書かれている。


特に、含まれている毒の中でコンバラトキシンは、水溶性、脂溶性のため、水にとけた切り花の水や、油で炒めた調理品にも有毒物質が検出されます。浸した液のコンバラトキシンによる強心作用はジキタリスの10〜15倍の強さがあり、多量に摂取すると呼吸停止、心不全状態に陥り死に至るとされます。


しかし、スズランを活けていた水を飲んで子供が死んだ例、というのは、ちゃんと調べてないせいもあるけど一次ソースがはっきりしなくて、外国の事例とか、昔の話、とかどの本やサイトでも曖昧です。上記の園芸有毒植物図鑑では、「熱病で入院中の子供」が飲んで死んだという別の本の記述が引用されていましたが、はたしてスズランだけのせいなのか、熱病で弱っていたせいもあるのかというのは不明です。

東邦大学薬学部付属薬用植物園のサイトには、スズランには利尿、強心作用があるけれど、ジギタリスの毒の10~15倍の強さがあるといわれているので、使用は避けよとあります。

『それから』の三千代は「心臓を痛めた」ために体調が悪いので、逆に強心作用がプラスに働いていたりして(たぶん違う)。三千代は「たった今その鉢へ水を入れて、桶から移したばかりだって」と言ってるので、それほど毒が溶け出してなかったのかもね。何事もなく何よりでした。あと「日本のスズランとドイツスズランは別種とする意見もある」(前述の園芸有毒植物図鑑)らしいが、それと毒性の強さって関係するのかな。

三千代は「詩のために鉢の水をのんだ」と私は思うんだけど、いずれにせよ、詩のために、あるいは生理上の作用により鉢の水を飲む際は、活けている植物に注意を払ったほうがよいかと思います。

基本的にどの有毒植物もそうですけど、液や花粉がついた手をよく洗う(あるいは手袋して触る)、口に入れない、というのを守れば、そんなに神経質にならなくていいんですけど、スズランの場合、ギョウジャニンニクとそっくりだったり、花後の赤いベリーをうっかり子供が食べると危険なので気をつけましょう。

下記のサイトを参照すると、子供がベリーを5個以上食べた、または花を食べちゃった場合はすぐに医療機関に連絡したほうがよさそう。赤い実がなるのは知らなかったな。



by rivarisaia | 2023-06-09 18:28 | 動植物 | Trackback | Comments(0)

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