Monsters: A Fan's Dilemma:作者と作品をどこまでわけて考えることができるのか
2023年 07月 14日
『Monsters: A Fan's Dilemma』
Claire Dederer著、Knopf
倫理的に間違ったことをしでかしたアーティストの作品を、どのように受け止めたらよいのか。アーティストとその作品を切り離して考えることはできるのか。天才的なアーティストは特別扱いされるべきなのか、それとも作品を却下すべきか。ある程度時間が経っていれば許されるのか。個人で楽しむのはまあよしとして、問題のアーティストにお金が入るような行為は慎むべきか。
Everyone who has a biography--that is, everyone alive--is either canceled or about to be canceled.
キャンセルカルチャーが話題になっている昨今、本書はその是非と問う評論というよりは、作り手とその作品をわけて考えるべきかという悩ましい問題について、さまざまなケースを引き合いに出して考察するというエッセイ集。読みながら著者と一緒に悩むというのに近かった。取り上げている人物はポランスキー、ウディ・アレン、ピカソ、ヘミングウェイ、J.K.ローリング、ワーグナー、バージニア・ウルフ、シルヴィア・プラス、レイモンド・カーヴァー、マイルス・デイヴィスなどなど多数。レイプや差別やDVや育児放棄など、やらかした問題もさまざま。私は本書で、え、この人もこんな人だったの?という事実をいまさら知ったケースもあって凹む。
これまでに何人もの好きなアーティスト(芸術家、作家、音楽家、俳優、etc)が、道義にもとることや倫理的に問題のある発言をするというケースに遭遇してきて、人間的にはマジでどうかと思うけど作品はとてもいいんだよな……というアーティストは、存命中か否かを問わず、かなりたくさんいる。昔の文豪や画家なんてろくでもない人ばかりだし。
基本的には、作り手と作品はある程度はわけて考えようと思っているけど、それはそう簡単なことではない。でも作り手(の行為)は批判・否定して、作品は肯定的に受け入れることは両立するのでは。逆に、作品がすごいから作り手が何してもOKとはならない。
著者は次のように書く。
Consuming a piece of art is two biographies meeting: the biography of the artist that might disrupt the viewing of the art; the biography of the audience member that might shape the viewing of the art.
作品を消費するということは、作者の人となりと鑑賞する側の人となりが関与していて、それが作品の捉え方に影響するというのは、実際にその通りだ。
作品と作者は別といっても、当然ながら作り手の行為が作品への評価に大きく影響を及ぼすことはあって、特に作品に作者の価値観が反映されていればなおさらそうだし、昔は好きだった作品がダメになることや、特に活躍中のアーティストの場合は距離を置いて、その人を支持する行為はやめようと思うこともある。
本当にケースバイケースで、判断基準に一貫性があるかというと自分でもよくわからない。大体、そんな判断を下す自分も他人のことをとやかくいえないし、結局は全部私の主観で決めていることなのだ。すべてに通用する、たったひとつの正しい答えは存在しないので、毎回よく考えてそれぞれが判断していくしかないとも思う。
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hana
at 2023-07-14 12:47
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この本、渡辺さんの動画でまややさんが紹介された時からすっごく気になっていました。
そして取り上げられている有名人の中に、実際私がその人の言動に拒否反応を起こしてしまい「キャンセル」状態の人が入ってます。
でも、実際その人を支持する人達が大多数なので、SNS等で大っぴらに発言するのはちょっとな…ともなっています。
そう、作品に罪はない…のかもしれませんが、それでもやはりその人から生み出されたものなのだと思うとやはり手に取るのが私にはまだ難しいです。
こちらの本、結論が出されていないと動画内でまややさんが仰っていましたが、一緒に著者と悩みながら読む…というのもいいですね。
今一番読んでみたい本です。
そして取り上げられている有名人の中に、実際私がその人の言動に拒否反応を起こしてしまい「キャンセル」状態の人が入ってます。
でも、実際その人を支持する人達が大多数なので、SNS等で大っぴらに発言するのはちょっとな…ともなっています。
そう、作品に罪はない…のかもしれませんが、それでもやはりその人から生み出されたものなのだと思うとやはり手に取るのが私にはまだ難しいです。
こちらの本、結論が出されていないと動画内でまややさんが仰っていましたが、一緒に著者と悩みながら読む…というのもいいですね。
今一番読んでみたい本です。
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rivarisaia at 2023-07-15 20:50
私にも、今は受け付けない状態だけど根強い人気がある作家なのでネットには書けないなーという人がいます。あと、著者の言動も最近の作品もまるっきり受け入れられないんだけど、過去作は相変わらず好きというのもあって、そういうのも悩ましいです。
この本は最終的には、作品の受け手である側が著者の言動の責任を背負う必要はないといったことも述べていて、どのような判断を下すにしても、最終的には自分で考えろということになるんだけど、たぶんそのが「考える過程」を経ることが重要なのかもしれないなとも思いました。
この本は最終的には、作品の受け手である側が著者の言動の責任を背負う必要はないといったことも述べていて、どのような判断を下すにしても、最終的には自分で考えろということになるんだけど、たぶんそのが「考える過程」を経ることが重要なのかもしれないなとも思いました。
著者に倣って、悶々としながら読みました。理性と感情のせめぎ合いがあり、しかも自分の中でも尺度は一定にできない…。春巻さんがおっしゃるように「毎回よく考えてそれぞれが判断していくしかない」ですね。本の中に登場する人(筆者も?)が言うように「すべてを踏まえた上で、それでもこの作品が好き!」という愛(感情)が勝つ場合もありますね。
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rivarisaia at 2024-04-23 20:16
これ本当に自分の中でもかなり揺らいでしまって、キッパリと決断できないケースが多いです。すべてを踏まえた上で、なお好きな作品というのも、やっぱりありますね。人間、そう簡単に割り切れるものでもないしなーと思います。
by rivarisaia
| 2023-07-14 11:42
| 書籍
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Comments(4)