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見たもの読んだものについての電子雑記帳


by 春巻まやや
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All The Sinners Bleed:南部の田舎を舞台にしたS.A. Cosbyの警察小説

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All The Sinners Bleed
S. A. Cosby著、Headline


ヴァージニア州南部の小さな町が舞台。元FBI捜査官のTitus Crownは、あることをきっかけにFBIを辞めて生まれ故郷に戻り、保安官の職務に立候補、郡で史上初の黒人保安官に選ばれた。

Titusが保安官に就任して1年が経ったある日、学校で発砲事件が発生。それは静かな町を根底から揺るがす大きな事件へと発展する……


『Razorblade Tears』で私の注目の作家になったS.A.Cosbyの新作。前作は新しい切り口を盛り込んだアクション満載ハードボイルドで、今回は田舎町で起こった猟奇的な事件を解決する警察小説。王道なストーリーだけど、著者の語り口が巧みでキャラクターの造形もよいし、話にグイグイ引き込まれる。先が気になって一気に読んでしまった。S.A. Cosbyはほんとに期待を裏切らないな。先が気になって一気に読んでしまった。

舞台となるのは、南北戦争の記憶をいまだに引きずっていて、広場には南軍の英雄の銅像が立ち、その銅像を守るマーチを行おうとする白人至上主義者たちがいて、昔プランテーションを経営していた一族が町の有力者。また、白人至上主義者に反発する黒人教会を中心としたコミュニティや新しい世代のリベラルな白人も存在するという、いかにも典型的な南部の田舎という感じ。

Titusは真面目で法を遵守する人物で、黒人教会の指導者から「blue rather than black(黒人ではなく警察)」と思われても、黒人としての自分の気持ちと職務としてやるべきことは別だときっちり区別するタイプ。そして相手に敬意を払うことができるかどうかを非常に重視していて、尊敬の欠如は害悪であり、チームを乱すと考えている。部下を見る目もあって、頼れる上司なのだ。

昔を振り返ると血塗られた暗い歴史のある町なのだが、それはすっかり過去の話で今はそれなりに平和だと思われていた。学校で元生徒が教師を撃ち殺すという事件が発生するまでは。

犯人はトラブルを抱えた黒人の青年で、Titusの親友の息子だった。警察が現場で犯人を射殺したことで、黒人教会のコミュニティから抗議の声があがる中、Titusも含め多くの人々から慕われていた人格者だったはずの被害者の白人教師には、とんでもない秘密があったことが発覚する。事件はそこから複雑怪奇な様相を帯びてくる。かなり凄惨な事態になるし、Titusは非常に悪魔的な人物と対決することになる。でもその悪魔的な人物を悪魔的にしてしまったのは何なのか。覆い隠したはずの過去の憎悪の根っこが現在に繋がっている。序盤の展開では『警察署長』を思い出した。

面白いなと思ったのは、教会や信仰の話が出てくるんだけど、Titusは不可知論者的なのに聖書の句がパッとすぐに言えるところ。いくら記憶力がいいからって、黙示録の何章何節とか創世記の何章何節といっただけで、スラスラ句が出てくる。おまけに牧師よりもちゃんと理解してるからすごい。そして余談ですが、美味しそうな南部の食べ物もチラッと出てきます。

ちなみに『Razorblade Tears』は『頬に哀しみを刻め』(加賀山卓朗訳、ハーパーBOOKS)というタイトルで邦訳が出てます。『Blacktop Wasteland(邦題:黒き荒野の果て)』も邦訳が出てるので、これも出るかもしれない。出るといいな。

by rivarisaia | 2023-10-12 22:37 | 書籍 | Trackback | Comments(0)