Slough Houseシリーズ、ノヴェッラ3作と長編6巻目『Joe Country』
2023年 10月 28日
Apple TV+のドラマですっかりハマった「窓際のスパイ(Slough House)」シリーズ。3巻までしか邦訳がないので、続きは原書で読んでいることは前に書きました。長編5巻までいったところでいったん休憩、休み休み読んでいて、今回は長編の合間に出たノヴェッラと6作目の感想です
まずはノヴェッラの3冊
『The List』:
年老いたスパイが死に、エージェントの管理者だったミルクマンことジョン・バチェラーは窮地に立たされていた。なぜなら死んだスパイは誰も知らないもう一つの銀行口座を持っていたことが発覚したからだ。その口座はいったい何のためのものだったのか……。長編の新キャラ、サイコパスなJK Coeも登場します。
『The Drop』:
『The List』の続編のような話。ジョン・バチェラーが担当している引退したスパイのソロモン・ドートムンドが行きつけのカフェで「ドロップ(機密がある人から別の人に渡される)」が行われているのを見た、とバチェラーに報告するのが事件の発端に。
『The Catch』:
長編『Joe Country』』で触れられていた、MeToo案件を思わせるスキャンダル絡みの話。困窮しているジョン・バチェラーは、死んだスパイのアパートに無断で住んでいた。ある晩、そんな彼のもとに本部から二人の人物がやってきて……
3作ともジョン・バチェラーことミルクマンの話なので、ミルクマン三部作のノヴェッラと言ってもいいかもしれない。
じつに頼りない男ジョン・バチェラー。スラウハウスのメンバーではないけど、スローホースな人物です。『The Catch』ではホームレスになるかもしれないと怯えながら他人のアパートに勝手に住んでいて、本来なら定期的に連絡を取ってない人物ともう数年会ってないのに大至急そいつにコンタクトを取らなくてはならず、ピンチに。うまく立ち回ってるつもりが、全然うまくいってない。
ちなみにノヴェッラを1冊にまとめた本が刊行されているのに後から気づいたのですが、まあいいや。特に『The List』と『The Drop』で起きた出来事は長編6巻目の『Joe Country』の背景になっているので読んでおいてよかった。『Joe Country』に登場する新たなスラウハウスのメンバーが、なぜスラウハウス行きになったのかも語られます。
そして長編6巻目。
『Joe Country』
リヴァーは祖父の葬儀の準備中。そしてキャサリンは5巻の最後で起きた出来事のショックから、再び酒に手を出しており、ルイーザはミンの元妻から、ウェールズで失踪した息子と探してほしいと頼まれて……
今回、前作の『London Rules』に登場しためちゃくちゃかっこいいEmma Flyteが登場します(私の脳内では配役がエリザベス・デビッキになっている)。スローホースの面々は元気はいいけど、相変わらず肝心なところで抜けている。そしてまた、コントみたいに心和む笑えるシーンの直後に容赦なく死が訪れるので、読んでいる最中にまったく油断できない。今回もお気に入りのキャラクターが殺されてしまった。しかも複数だ。ひどいよ、ミック・ヘロン。あんまりだよ。まあ、それだけスパイの世界は血も涙もないということですね…(泣)
チャールズ・パートナーの一件がジャクソン・ラムによって詳しく語られるんだけど、ドラマでも描かれてた処刑の話は辛いね。
本作も最終的には、オフィスから特に動いてない(安楽椅子探偵的な)ジャクソン・ラムが後始末をきっちりつけてくれました。やっぱり頼りになるのはジャクソン・ラムなのだった。部下に何かあれば、絶対に相手にその代償を払わせる男、それがジャクソン・ラム。「You don't fuck with Lamb's joes」って言われてるからね。最後にラムが因縁の人物と対決をする場面はとてもよいです。なんだろう、あの含みのあるイケズな会話の応酬合戦は。
クリフハンガー的な終わり方をするので、いったん休んで心を落ちつけてから次作に挑もうと思います。
ちなみに刊行の順番としては以下の通り。
-Slow Horses (2010) 『窓際のスパイ』田村義進訳、早川書房
-Dead Lions (2013) 『死んだライオン』田村義進訳、早川書房
*The List (2015) ノヴェッラ
-Real Tigers (2016) 『放たれた虎』田村義進訳、早川書房
-Spook Street (2017)
-London Rules (2018)
*The Drop (2018、アメリカ版タイトルはThe Marylebone Drop) ノヴェッラ
-Joe Country (2019)
*The Catch (2020)ノヴェッラ
-Slough House (2021)
-Bad Actors (2022)
*The Last Dead Letter (2022)ノヴェッラ。話の順番としてはJoe CountryとThe Catchの間に位置するみたい
*Standing By The Wall (2022) ノヴェッラ
*The Secret Hours(2023)Slough Houseと同じ世界のスタンドアローン。若い頃のジャクソン・ラムやモリーが出てくるらしい。
by rivarisaia
| 2023-10-28 22:12
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