Bright Young Women:殺人犯を美化しない。あくまでも被害者たちの物語
2024年 05月 20日
『Bright Young Women』Jessica Knoll著、
昨年のこれ読まのミステリー・スリラー部門で選んだ作品。実際の有名な連続殺人事件を元にしたクライムサスペンスというジャンルに当てはまると思うんだけど、犯人や事件そのものではなく、事件の被害者や被害者の友人に焦点を当てて、事件に至るまでから事件の数十年後までの長い年月を描いた歴史フィクション。殺されなければきっと輝かしい未来があったはずの被害者たちを悼む物語でもある。
ハンサムでIQが高いとされていた殺人犯は、しばしば映画の題材にもなっていて、妙に魅力があるかのように描かれる傾向があり、そこに疑問を感じている著者の姿勢がこの小説には強く反映されている。
語り手はふたりいて、フロリダ州立大学の学生であるパメラの視点では、事件発生の7時間前からその後の長い人生が語られる。シアトルに住むルースの人生は、犯行のまさにその瞬間に向かって進行する。パメラとルースをつなぐのは、ルースのパートナーであるティナだ。事件のせいで、被害者の親しい人たちがどれほどつらい目に遭うのか、追体験するようで読んでいて苦しくなるが、ゼロ時間に向かうルースの話はさらにつらく悲しい。
著者は「犯人が魅力的に描かれることに疑問を感じている」と書いたが、むしろ美化されていることにものすごく怒っている。その男は別に知性があるわけでもなく、ただの愚かで下劣な人間だった。メディアや社会にもてはやされて、なぜかカリスマ的な存在に祭り上げられただけなのだ。犯人を利用して利益を得ようとする人がいる一方で、犯人に壊された被害者やその周りの人々の人生は軽く扱われている。そうしたことに対する激しい怒りが、この本からは伝わってくる。
そんなわけで、この小説には誰もが知るあの有名な犯人の名前は一切出てこない。
by rivarisaia
| 2024-05-20 23:53
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