『Mother Swamp』ジェスミン・ウォードによる短編
2024年 06月 01日
『Mother Swamp』Jesmyn Ward著
Amazonのオリジナル短編シリーズ「A Point in Time」から、ジェスミン・ウォードの作品。
語り手の少女は湿地に暮らしている。語り手の先祖であるFirst Motherは、サトウキビのプランテーションから逃げ出して川を泳ぎ、その湿地に辿り着いた。First Motherのお腹にはすでにFirst Daughterがいて、First Motherは娘に湿地で生きる術を教えた。
湿地の奥地にはスペイン語を話すManilamenの集落があると言われていた。First Motherは娘が17歳になると、娘の相手を見つけるためにManilamenの集落を探し出し、生まれたのが女の子なら自分たちの元で、男の子ならManilamenの集落で暮らすという契約を結ぶ。そうやって何世代にもわたり、Motherたちの女だけの集落とManilamenの男だけの集落は湿地でひっそりと暮らしていた。そして語り手の少女が17歳になる日が来た。
南部の湿地帯に逃亡奴隷が暮らすコミュニティが存在したという事実を元にしたフィクションといえば、2023年のニューベリー賞受賞作のAmina Luqman-Dawsonの『Freewater』がある。個人的に『Freewater』は期待外れだったんだけど、元になった事実については興味を持ったところに、このジェスミン・ウォードの短編。短いけれどパワフルな物語で、沼地の水や嵐の音、女たちのドラムや歌が大きなうねりとなって聞こえてくるような、エネルギーに満ちあふれている。
maroonと呼ばれる逃亡奴隷の集落があったのは、バージニア州南部からノースカロライナ州北東部に広がるグレートディズマル・スワンプや、ルイジアナの沼地である。そしてまた、フィリピン系アメリカ人の男性だけが住む小さな漁村が18世紀半ばから、1915年にハリケーンで破壊されるまでルイジアナに存在したというのも、著者あとがきで知った。そのフィリピン系の男性たちは、ニューオリンズや周辺の都市の(主に白人の)女性と子を成したが、男子だけを集落に連れて帰り、女性を連れてきて一緒に暮らすことはなかったのだそうだ。
そのような男性だけの集落があったなら、それと対になるような女性だけの集落があったらどうだろう。そう考えたことから、イマジネーションがふくらんでこの話が誕生した、と著者はあとがきに書いている。
by rivarisaia
| 2024-06-01 22:02
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