The Vulnerables:シークリット・ヌーネスの意識の流れの最新作
2024年 06月 08日
『The Vulnerables』Sigrid Nunez著
シークリット・ヌーネスの小説、かなり好きだなと実感する今日この頃。ヴァージニア・ウルフを敬愛していた作家だけあって、この人も意識の流れをつらつらと書くのが上手で、その流れにふわふわと身をまかせるように読むのがなんだか心地よい。
『Mitz』ではマーモセット、『The Friend』では犬、『What Are You Going Through』では猫、と脇役として動物が登場してきたけれど、本作では表紙デザインからもわかるようにオウムがキーパーソンならぬキーアニマル。
語り手は名前が不詳の作家でニューヨークに住んでいる。背景はちょうどCovid-19のパンデミックが起きた頃。ロックダウンのせいで旅先から戻って来られなくなった友人に頼まれ、主人公は友人のアパートに住み込みでオウムの世話を行うことになる。ところがそこに、元々オウムのペットシッターとして雇われていたのに、仕事を放棄して実家に帰っていたという若者が戻ってきてしまうのだ。主人公は自分のアパートを、Covid対応のために臨時でニューヨークの病院にやってきた医師に貸しているので、自分の家には帰れない。友人のアパートは広いので、あまり顔を合わすこともないだろうと、しぶしぶ若者と二人で暮らすはめになる。
最初はお互いを避けていた主人公と若者だけど、だんだんと友情がめばえていく。この過程がよい。相手のことを嫌がってたけど、読者である私は、このふたりはたぶん話が合うんじゃないかなと思ってたんだよね。
読んでいる間、パンデミックの最初の頃の閉塞感をなんとなく思い出した。また、主人公の考えに共感を覚える箇所もたくさんあった。朝になると忘れっぽい性分なのに、夜になると「in the dark hours of the night I was a memory genius」という主人公は、人生で後悔したあらゆる瞬間、さまざまな失敗、誰かを傷つけたことややらかしたバカなことなどを思い出したりしている。わかる! そのほか、集中できない時は「タイトルと文章を一つだけ書くという実験をするとよい」という話もおもしろかった。今度やってみようかな。
そして何より、本書でもっとも「そうだよね!」と頷いたのは、最初のページのこのくだり。
"Only when I was young did I believe that it was important to remember what happened in every novel I read. Now I know the truth: what matters is what you experience while reading, the states of feeling that the story evokes, the questions that rise to your mind, rather than the fictional events described."
読んだ本の内容を最近はわりとすぐに忘れてしまう私だけど、このことはしっかり記憶しておきたい。大事なのは架空の出来事の描写よりも、読んでいる最中に自分が経験したこと、物語からどんな感情や疑問が心に湧き起こったかを忘れないこと。
ちなみにこの本に出てくるオウムの名前は「エウレカ」です。
by rivarisaia
| 2024-06-08 20:11
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