マルメロ、マルメラーダ
2024年 10月 04日
子供の頃、本の中で「マルメロ」というくだものに遭遇した。声に出したときの語感が少し面白いと思ったのと、私の日常生活では見たことのないものだったので、はたしてどんなくだものなのか、大変気になった。
その後もときどき物語の中でマルメロに出会ったけれど、ごく当たり前に読者の身近にあるものとして小道具的に描写されていて、詳しい説明がない。断片的な情報をつなぎ合わせて「薄黄色か琥珀色で、香りがよく、リンゴくらいの大きさで、頭にあたるとケガするくらい硬い」ということだけ朧げに把握した。だいぶ後になって、日本でいうところのカリンという記述を見た。たしかにカリンは薄黄色で強い芳香があり、硬くて細長いリンゴみたいではある(形は洋梨というかパパイヤにも似てる)。なんとなくどういうものかわかったけど、一度実物を見てみたいなと思っていた。
そして数年前。仕事で「ゴイアバーダ」というブラジルの食べ物について調べる機会があった。ゴイアバーダは真っ赤な色をしたグアバのジャムで、食感は羊羹に似ている。通常は白いチーズと合わせて食べると聞いて、おっかなびっくり試食してみたら、甘さと塩気のマリアージュという感じでけっこうおいしい(このコンビネーションは「ロミオとジュリエット」と呼ばれている)。
そしてこのゴイアバーダの起源は、ポルトガルの「マルメラーダ」というマルメロのペーストであり、ポルトガル人がブラジルに渡った際、マルメロがないので代わりにグアバを使ったということを知る。そしてさらにそのマルメラーダは、安土桃山時代にポルトガルから日本にもたらされて、熊本藩の「加勢以多(かせいた)」という南蛮菓子に姿を変えていた。「かせいた」はポルトガル語でマルメラーダの箱という意味の「カイシャ・ダ・マルメラーダ」から来ているらしい。一時失われていたけれど、カリンのジャムで復元されて今も売っている(リンク)。意外なところで懐かしのマルメロに再び遭遇してわくわくしつつ、そのうち加勢以多も食べてみたいなーとたまに通販サイトをチェックしつつ、4年ほどが経過していた。そして先週、買い物していたら思いがけず実物のマルメロに出くわしたのである。
いつか、そのうち、と言っていたら、マルメロの方からやってきた。この流れで買わないわけにいかないではないですか。マルメラーダ、あんた自分で作ってみなよ!というマルメロの妖精のお告げなのでは?
実際のマルメロは果実の周りに茶色いふわふわした産毛が生えている。購入したものは長野産。カリンより小さくて、香りはカリンほど強烈ではなかった。これを4つに割って芯とタネと皮を取り除く、とレシピにはあったが、恐ろしく硬く、うっかりすると包丁で大怪我するのではないかというほどの代物だった。取り除いたタネなどは別途ペクチン溶液として煮ておき、果実は薄切りにしてマルメロの重さの半量の砂糖と適量のレモン汁をまぶして数時間からひと晩放置、それをペクチン溶液と合わせてひたすら煮るとジャムになり、途中でブレンダーでペーストにしてさらに煮詰めて乾燥させるとゼリーになる、ということだが、だいぶ前にぶっ壊れてからうちにはブレンダーがない。そもそも大航海時代にだってブレンダーなんてなかったわけだし、ということで木べらで適当に潰すことにした(裏漉ししようか迷ったけど、めんどくさくなってやめた)。
2、3時間煮詰めるともっと赤っぽい色になり、しっかり数日乾燥させるとハードなゼリーになるらしいが、ほかにもやることがあって鍋につきっきりでいられないのでジャムとゼリーの中間くらいで煮詰めるのをやめてみた。
ひと晩置いたら表面は固まってるけど、中はまだやわらかいのでオーブンで低温乾燥させてみようかな。試しに食べてみたら、甘酸っぱくてなかなかおいしい。味は長野のみすず飴に近い。チーズと一緒に食べても合う。そして食感は、中途半端に果実が残っていて何かにとても似てる……ものすごく既視感があって、これと同じものを私は知っている……なんだろう……とずっと考えていて、さっき気づいた。駄菓子屋のみつあんずだ! みつあんず、駄菓子の中でも一番好きだった。マルメロとは一体どんな味なのかと考えていた子供の頃の私に、煮るとみつあんずみたいなんだよ、と教えてやりたい。
by rivarisaia
| 2024-10-04 12:19
| 飲食
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